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アリアンナの荷物は結局、馬車三台となった。
侯爵令嬢として王城に入るには持ち物少し……どころかかなり少ないかもしれない。
まぁそれに関しては初めから増やす予定もなかったので、気にはならないが……
(……お父様)
荷物のすべてが大なり小なりの箱に収められているのだが、そのどれもにキャセラック家の紋章が入っている。馬車一台分とはいえ、とても今回の登城に合わせて用意出来た量ではない。多分、嫁入り道具の準備で前以て作らせていたものだろう。
(これじゃ家名が隠せない……)
従者達が荷解にほどきをしているのを、一抹の虚しさを感じながら眺めていると、王城の正面の大扉が開き、中へと招かれた。
到着を告げる自分の名が呼び上がり、アリアンナが入ると王城の出迎えの者達が両端に並んだまま一斉に深くお辞儀をする。
その中で侍女達を従い、一際背筋の正しい女性が一人前に出てきて、ドレスの両端を摘み腰を深く落とした最高礼をしてくる。
彼女は腰を落としたその姿勢のままで、アリアンナへの歓迎の言葉を告げた。
「ようこそお越し下さいました、アリアンナ・キャセラック様。女官長じょかんちょうを務めさせて頂いております、リース・ハンプトンと申します。以後、王城での一切で不都合などがありましたら申し付け下さいませ」
姿勢を戻すと、一歩下がり
「アリアンナ様付き侍女達の侍女頭になります、ミシェルでございます。アリアンナ様の王宮での生活に支障なきようお世話させて頂きます」
他の侍女達から一歩出て来た娘を紹介してくれる。
「心配りのある待遇、感謝します。ミシェルさん、これから宜しくね」
女官長に返事を返しながら、中腰で頭を下げている侍女にも声を掛ける。
そうして、簡単な挨拶を交わし終えると「ご案内致します」と、女官長を先頭に王宮の奥へアリアンナの一行が移動を始める。
王宮へは年に一度、年初めの王室主催のパーティーにしか来たことがないので、というより絶賛自主的引きこもり中の身なので、王宮内部へは入るのは初めてだ。
侯爵令嬢として王城に入るには持ち物少し……どころかかなり少ないかもしれない。
まぁそれに関しては初めから増やす予定もなかったので、気にはならないが……
(……お父様)
荷物のすべてが大なり小なりの箱に収められているのだが、そのどれもにキャセラック家の紋章が入っている。馬車一台分とはいえ、とても今回の登城に合わせて用意出来た量ではない。多分、嫁入り道具の準備で前以て作らせていたものだろう。
(これじゃ家名が隠せない……)
従者達が荷解にほどきをしているのを、一抹の虚しさを感じながら眺めていると、王城の正面の大扉が開き、中へと招かれた。
到着を告げる自分の名が呼び上がり、アリアンナが入ると王城の出迎えの者達が両端に並んだまま一斉に深くお辞儀をする。
その中で侍女達を従い、一際背筋の正しい女性が一人前に出てきて、ドレスの両端を摘み腰を深く落とした最高礼をしてくる。
彼女は腰を落としたその姿勢のままで、アリアンナへの歓迎の言葉を告げた。
「ようこそお越し下さいました、アリアンナ・キャセラック様。女官長じょかんちょうを務めさせて頂いております、リース・ハンプトンと申します。以後、王城での一切で不都合などがありましたら申し付け下さいませ」
姿勢を戻すと、一歩下がり
「アリアンナ様付き侍女達の侍女頭になります、ミシェルでございます。アリアンナ様の王宮での生活に支障なきようお世話させて頂きます」
他の侍女達から一歩出て来た娘を紹介してくれる。
「心配りのある待遇、感謝します。ミシェルさん、これから宜しくね」
女官長に返事を返しながら、中腰で頭を下げている侍女にも声を掛ける。
そうして、簡単な挨拶を交わし終えると「ご案内致します」と、女官長を先頭に王宮の奥へアリアンナの一行が移動を始める。
王宮へは年に一度、年初めの王室主催のパーティーにしか来たことがないので、というより絶賛自主的引きこもり中の身なので、王宮内部へは入るのは初めてだ。
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