黒獅子公爵の悩める令嬢

碧天

文字の大きさ
上 下
9 / 59

8.

しおりを挟む
 アリアンナの荷物は結局、馬車三台となった。

 侯爵令嬢として王城に入るには持ち物少し……どころかかなり少ないかもしれない。

 まぁそれに関しては初めから増やす予定もなかったので、気にはならないが……



 (……お父様)



 荷物のすべてが大なり小なりの箱に収められているのだが、そのどれもにキャセラック家の紋章が入っている。馬車一台分とはいえ、とても今回の登城に合わせて用意出来た量ではない。多分、嫁入り道具の準備で前以て作らせていたものだろう。



 (これじゃ家名が隠せない……)



 従者達が荷解にほどきをしているのを、一抹の虚しさを感じながら眺めていると、王城の正面の大扉が開き、中へと招かれた。

 到着を告げる自分の名が呼び上がり、アリアンナが入ると王城の出迎えの者達が両端に並んだまま一斉に深くお辞儀をする。

 その中で侍女達を従い、一際背筋の正しい女性が一人前に出てきて、ドレスの両端を摘み腰を深く落とした最高礼をしてくる。

 彼女は腰を落としたその姿勢のままで、アリアンナへの歓迎の言葉を告げた。



 「ようこそお越し下さいました、アリアンナ・キャセラック様。女官長じょかんちょうを務めさせて頂いております、リース・ハンプトンと申します。以後、王城での一切で不都合などがありましたら申し付け下さいませ」



 姿勢を戻すと、一歩下がり

 「アリアンナ様付き侍女達の侍女頭になります、ミシェルでございます。アリアンナ様の王宮での生活に支障なきようお世話させて頂きます」

 他の侍女達から一歩出て来た娘を紹介してくれる。



 「心配りのある待遇、感謝します。ミシェルさん、これから宜しくね」



 女官長に返事を返しながら、中腰で頭を下げている侍女にも声を掛ける。

 そうして、簡単な挨拶を交わし終えると「ご案内致します」と、女官長を先頭に王宮の奥へアリアンナの一行が移動を始める。

 王宮へは年に一度、年初めの王室主催のパーティーにしか来たことがないので、というより絶賛自主的引きこもり中の身なので、王宮内部へは入るのは初めてだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...