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お父様が最低限の荷物でいいと言うには訳があり、今いるこの屋敷は王城を囲む城壁から数えて二の郭の内側にある。
王城にはまず、城を囲む城壁があり、次の城壁までが一の郭。その一の郭に屋敷を構えることが出来るのは、先王だったり現王の兄弟や子ども達など王家の血筋である分家にあたる公爵家のみ。
その次の城壁までを二の郭として、王家との繋がりを持つ侯爵家となる。とはいっても、長いタルギス王国の歴史の中で王家と姻戚付きにもなったことがある五家のみで屋敷を頂いている。
その二の郭までの王城からの距離が、歩いて一時間程の敷地にある。
だから例え忘れ物があっても、急遽必要なものができてもすぐに届けられるから、何ならそれにかこつけて屋敷に帰って来いっていうのが、父の言う「最小限の荷物で行きなさい」に繋がる。
その上、父が王城勤務で、弟は王立魔術学院に籍を置く騎士団員だ、2人に会うのは容易い事なので、どちらかに会い入り用な物を言付ことづければ、次の日には手元に揃うだろう。
それでもささやかに揃える物はあるのでサーシャと城下に出ようと予定を決めた。
「お嬢様、本当に私わたし一人で宜しいんですか?」
馬車の中で向かいに座っているサーシャが口を開く。
「あら。いけない?」
「お嬢様の仰られることは分かりますが、侍女は五人まで連れて行けるのですし……何よりキャセラック家の面子といいますか……」
登城の為に用意する物の他に、必要になるであろう物を見に出て来た移動中に、サーシャから心配からくる非難めいた小言を言われる。
サーシャとてまだ若いが、アリアンナの侍女として侯爵家の侍女として普段であれば毅然としてられることも、やはり王宮となると勝手は随分違うだろう配慮であろう。
私わたくしからすれば、何年もという長い間見習いに行くわけでもないのに、ぞろぞろと侍女を侍らせていく手間の方が良いとは思えない。ただでさえキャセラックの名は目立つのに、自ら注目を集める材料を持ちたくないのだ。
よく考えれば家からでも通える距離に、王命として王城に詰めることとなったのだから、この機会に思いっきり楽しむことにした方が有意義に魔術が勉強出来るはずである。
「変に目立つより断然いいわ。例え私の侍女が一人でも、家の名を落とすことにはならないわよ。それよりサーシャ一人で、色々して貰わなくてはならない事が増えるから苦労を掛けることになるのだけど……」
「それは全然、大丈夫でございます。私一人でも、お嬢様のお世話を完璧に致しますから!」
「そう?だったらお願いね」
上目遣いに心配をすれば、責任感に目覚めてくれたサーシャから頼もしい返事が返ってくる。
(サーシャには悪いけど悪目立ちだけは気を付けないと)
王城でのキャセラックの名は隅々まで届いているだろうから、気を付ける以上に細心の注意を払って脇役に徹せねばなるまい。例えサーシャを巻き込むかたちになっても。
(罪の意識はあるけど、自由と魔術の為ですわ!サーシャにはおいおい話していきましょう)
信頼のおける侍女に対しての良心が痛むが、とりあえず目的の為に目を瞑つむることにする。
「ところでお嬢様、この馬車はどこへ向かわれているんですか?」
決意を新たにしていると声を掛けられた。
馬車の窓から小さなカーテンをめくり、外を確認する。
「間もなく着くと思うけど……あ、ほら、見えて来たわ」
「……あら?」
馬車が速度を緩めると店の前で停まる。
店は大通りより一区画奥まった通りに面し、外装は落ち着いていながら瀟洒しょうしゃな雰囲気を醸し出している。
馭者ぎょしゃが足台を用意し、サーシャから降りるとアリアンナに手を差し出す。
手荷物を受け取り、また迎えに来るよう言い渡す。
「先日の時に何かあったんですか?」
「まぁまぁ!とにかくここではなんですもの、中へ入りましょう!」
アリアンナも先日初めて母親のお供で店を訪れたばかりだが、サーシャは初めてである。
不思議そうに店を見上げるサーシャの両肩を手で押しながら、店の中へと入る。
王城にはまず、城を囲む城壁があり、次の城壁までが一の郭。その一の郭に屋敷を構えることが出来るのは、先王だったり現王の兄弟や子ども達など王家の血筋である分家にあたる公爵家のみ。
その次の城壁までを二の郭として、王家との繋がりを持つ侯爵家となる。とはいっても、長いタルギス王国の歴史の中で王家と姻戚付きにもなったことがある五家のみで屋敷を頂いている。
その二の郭までの王城からの距離が、歩いて一時間程の敷地にある。
だから例え忘れ物があっても、急遽必要なものができてもすぐに届けられるから、何ならそれにかこつけて屋敷に帰って来いっていうのが、父の言う「最小限の荷物で行きなさい」に繋がる。
その上、父が王城勤務で、弟は王立魔術学院に籍を置く騎士団員だ、2人に会うのは容易い事なので、どちらかに会い入り用な物を言付ことづければ、次の日には手元に揃うだろう。
それでもささやかに揃える物はあるのでサーシャと城下に出ようと予定を決めた。
「お嬢様、本当に私わたし一人で宜しいんですか?」
馬車の中で向かいに座っているサーシャが口を開く。
「あら。いけない?」
「お嬢様の仰られることは分かりますが、侍女は五人まで連れて行けるのですし……何よりキャセラック家の面子といいますか……」
登城の為に用意する物の他に、必要になるであろう物を見に出て来た移動中に、サーシャから心配からくる非難めいた小言を言われる。
サーシャとてまだ若いが、アリアンナの侍女として侯爵家の侍女として普段であれば毅然としてられることも、やはり王宮となると勝手は随分違うだろう配慮であろう。
私わたくしからすれば、何年もという長い間見習いに行くわけでもないのに、ぞろぞろと侍女を侍らせていく手間の方が良いとは思えない。ただでさえキャセラックの名は目立つのに、自ら注目を集める材料を持ちたくないのだ。
よく考えれば家からでも通える距離に、王命として王城に詰めることとなったのだから、この機会に思いっきり楽しむことにした方が有意義に魔術が勉強出来るはずである。
「変に目立つより断然いいわ。例え私の侍女が一人でも、家の名を落とすことにはならないわよ。それよりサーシャ一人で、色々して貰わなくてはならない事が増えるから苦労を掛けることになるのだけど……」
「それは全然、大丈夫でございます。私一人でも、お嬢様のお世話を完璧に致しますから!」
「そう?だったらお願いね」
上目遣いに心配をすれば、責任感に目覚めてくれたサーシャから頼もしい返事が返ってくる。
(サーシャには悪いけど悪目立ちだけは気を付けないと)
王城でのキャセラックの名は隅々まで届いているだろうから、気を付ける以上に細心の注意を払って脇役に徹せねばなるまい。例えサーシャを巻き込むかたちになっても。
(罪の意識はあるけど、自由と魔術の為ですわ!サーシャにはおいおい話していきましょう)
信頼のおける侍女に対しての良心が痛むが、とりあえず目的の為に目を瞑つむることにする。
「ところでお嬢様、この馬車はどこへ向かわれているんですか?」
決意を新たにしていると声を掛けられた。
馬車の窓から小さなカーテンをめくり、外を確認する。
「間もなく着くと思うけど……あ、ほら、見えて来たわ」
「……あら?」
馬車が速度を緩めると店の前で停まる。
店は大通りより一区画奥まった通りに面し、外装は落ち着いていながら瀟洒しょうしゃな雰囲気を醸し出している。
馭者ぎょしゃが足台を用意し、サーシャから降りるとアリアンナに手を差し出す。
手荷物を受け取り、また迎えに来るよう言い渡す。
「先日の時に何かあったんですか?」
「まぁまぁ!とにかくここではなんですもの、中へ入りましょう!」
アリアンナも先日初めて母親のお供で店を訪れたばかりだが、サーシャは初めてである。
不思議そうに店を見上げるサーシャの両肩を手で押しながら、店の中へと入る。
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