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しおりを挟む「大馬鹿には阿呆が似合いだが、忠告してやる」
「!」
「この家との繋がりを持ちたいなら何も縁続きにならずともどうにでも俺がする。こんなろくでなしが義弟なぞ許せん。そしてキャデル。お前はどこにもやらん。陛下に一年間の猶予を頂いた。その間に教育をし直せ」
「……教育?今更この国で王女として育った私が何を学び直すっていうのよ」
普通に考えれば王女しての教育は国の最高峰であり、すべての令嬢の見本となるべく教えを受けている。
向かいに座る剣呑な銀の妖精から次々に出てくる言葉に、どう反論すればいいか考えあぐねている間に、フォールは雰囲気を一変させ獲物を捕らえる捕食者のような視線に変え、獅子が鼠を転がすように悠然と私に面白がる笑顔を見せる。
顔が美しいだけにそんな黒い微笑みも様になって、思わず見とれてしまうが、なにか背筋を凍った手で撫でられたように感じた。
焦って周りに目を泳がせるが別段変わったことなどなく、向かいに悪魔のごとく微笑む義兄がいるだけだ。
本能的に次のフォールの返事を聞いてはいけないと思ったが、無常に時は進む。
「王女として学び直すんじゃない。新たに学ぶんだ、妃・教・育・を」
「……は?」
思いっ切り間抜けた返事を返してしまった。
今も衝撃に耐えかね、呆けた私は口を開けその間抜けな顔をこの美形の義兄に晒していることだろう。
フォールがなお続ける。
「お前には俺の妃になってもらう。せいぜい一年間、よく励めよ」
誰が言ったか知らないが、悪魔は美しく人を魅了するとはよく言ったものだ。
暗に逃がさないぞと私に圧を掛け、壮絶な妖艶の笑みを向ける義兄に重ねる。
私が返事をしないことを何とも思っていないのか、フォールは機嫌を直し、冷めた紅茶に口を付けている。
その動作を心ここに非ずと眺め、言われたことを頭の中で復唱してみる。
……私が……フォールの…妃……?
……冗談でしょ……
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