闇の魔王に溺愛されています。

花波橘果(はななみきっか)

文字の大きさ
上 下
65 / 75

エリンの球根(3)

しおりを挟む
 勢いよく飛びついて、球根に手を伸ばした。
「エリンには、毒があるんだよ!」
 半泣きになるフランに、ステファンはやけに落ち着いて「知っている」と答えた。
「し、知って……!」
「ああ、知っている。大丈夫だ。たいていの毒は、もう効かないから」
 薬や毒の効果を調べる時、駆除対象のネズミを使うこともあるが、自分の身体を使って実験することも多い。だから、あらかじめ耐性は高めてあるのだと言う。
「そ、そうなの……」
「エリンに限らず、毒のある植物は多い。フランも気を付けるんだぞ」
 くしゃりと髪を撫でられて、極限まで高まっていた怖さが行き場を失う。「だけど、本当にビックリしたんだよ」と、口の中で小さく抗議した。
「悪かった」
 ステファンがにこりと笑って謝る。フランの頭を引き寄せて、軽く唇にキスをした。
 ドキッと心臓が跳ねて、ビックリはどこかに飛んでいってしまった。
「エリンの毒は、抑制剤に使える」
 唐突にステファンが言った。
「今は、ほぼ同じ成分を持つ別の植物が使われているが、毒性が強すぎて調整が難しい。一定の量に達しなければ効果がないから、どうしても毒が身体に残ってしまうんだ」
 効果が表れるギリギリの量ならば、成分は全てヒートの抑制に使われて毒は身体に残らない。その調整が人の手で量れる限界を超えて微妙なのだと言う。
「エリンなら、大丈夫なの?」
「エリンのほうが毒も効能も効き目が小さい。その分、薬に使う時には調整がしやすいんじゃないかと考えた。実際に試してみなければ、はっきりしたことは言えないが、おそらく魔法で調整しなくても作れると思う」
 へえ、と感心していると、ステファンは壁際の薬棚を開いて一本の小瓶を引き寄せた。すーっと飛んできた小瓶を手で掴み、それをフランに差し出す。
「今の配合で完璧に作った抑制剤だ。使う必要があるかどうかはわからないが、もしヒートを迎えたくない時は、飲んでいいぞ」
 身体の変化を感じた段階で飲めば、ヒートは収まると言う。
「飲まずにヒートを迎えた時は、俺がなんとかしてやる」
「なんとか……?」
「なんとか」
 にやりと笑われて、フランは真っ赤になった。
「薬はいくらでも作れるから、遠慮しないで飲んでいいぞ」
 飲むとも、飲まないとも言えない。飲めばステファンにヒートを宥めてもらわずに済むけれど、それは、なんだか寂しい。
 かといって、飲まないことを自分で選ぶのは、まるで、前回や前々回のようにしてほしいと自分から望んでいるみたいだ。仕方なくあんなふうになるのと、望んでなるのとでは、なんだか恥ずかしさに差がある気がする。
「飲むかどうかは、自分で決めていいぞ」
 にやにや笑うステファンをチラリと見上げて、小瓶をぎゅっと握りしめた。ドキドキして、息が苦しい。
 そこへ「失礼しまーす」と言いながらにアマンダがやってきた。「お昼にしましょう、ですって」と伝言を伝える。
「なんだか、いつもみたいに声が届かないらしいわ。そういうこともあるのね」
 ステファンはかすかに眉をひそめたが、すぐに「行こう。遅れると、レンナルトがうるさい」と笑って、フランの背中に手を回して歩き出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...