闇の魔王に溺愛されています。

花波橘果(はななみきっか)

文字の大きさ
上 下
57 / 75

オメガについて(4)

しおりを挟む
「オメガだからというだけで、ずいぶん辛い思いをしてきたな」
 穏やかな声で囁かれて、小さく頷く。マットソンの屋敷にいた頃は、叱れるたびに、「だから、オメガは」と、蔑む言葉を浴びせられた。
「数が少なく、多くの人間ベータと異なる身体周期を持つオメガは、長い間、不当な差別を受けてきた。それが一向に正されないことと、今、話してきたこととはつながっている」
 高いところで甘い汁を吸う者と売人との癒着は、オメガへの差別と無関係ではないのだとステファンは言う。
「貴族の下に平民がいる。平民の中にも雇う者と雇われるものがいる。豊かな者と貧しい者がいて、豊かな者は貧しい者を虐げる……。人と人の間には階層があり、それぞれの階層のさらに下に、オメガがいる」
 フランは頷いた。
「運よくどこにも売られなかったとしても、オメガは一生、社会の最下層に留め置かれる。その格差が正されることはない」
 豊かな者にとっては、階層は固定されているほうが都合がいいからだ。貧しい者が貧しいままでいたほうが、搾取する側は豊かでいられる。そして、最も貧しい者が自分の貧しさに目を向けないようにするために、さらに貧しく不幸な者を存在させる必要があったのだと続ける。
 少し難しく感じてわずかに首を傾げると、マットソンの屋敷での食事を思い出してみろと言われた。
「みんな同じ、貧しい食事だったと言っていたな。働く者たちに不満がなかったはずはない。それでも、もっと貧しく、その食事さえろくに与えれないフランを見て、自分はまだましだと、周りの者は考えていたのではないか」
 フランがいることで、行き場のない鬱憤うっぷんを晴らしていたのではないか。理由がなくても殴っていい相手がいる、そう思うことで、知らぬ間に搾取され続ける不満の捌け口にしていたのではないか。
「物のように売られていても罰されないのを見ていれば、オメガは自分たちとは違う、どう扱っても許される存在なのだと考える。そうやって、オメガをさらに貶めてきたんだ」
 同じ目線の高さで、フランの目をまっすぐ見据えながら、ステファンは話し続けた。
「高い場所で甘い汁を吸う者たちは、その差別感情を利用してきた。甘い汁を吸いながら、不満の矛先が自分たちに向かないようにしむけてきたんだ。オメガの売買を見逃すことは、やつらにとっては、一石二鳥の、この上なく都合のいいやり方なんだ」
「汚いな……」
 レンナルトが低く吐き出す。
「汚すぎるだろう……。いったい、どこのどいつなんだよ」
 ステファンはしばらく考えていたが、一度目を伏せ、心を決めたようにその人物の名を口にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

王は約束の香りを娶る 〜偽りのアルファが俺の運命の番だった件〜

東院さち
BL
オメガであるレフィは母が亡くなった後、フロレシア国の王である義父の命令で神殿に住むことになった。可愛がってくれた義兄エルネストと引き離されて寂しく思いながらも、『迎えに行く』と言ってくれたエルネストの言葉を信じて待っていた。 義父が亡くなったと報されて、その後でやってきた遣いはエルネストの迎えでなく、レフィと亡くなった母を憎む侯爵の手先だった。怪我を負わされ視力を失ったレフィはオークションにかけられる。 オークションで売られてしまったのか、連れてこられた場所でレフィはアルファであるローレルの番にさせられてしまった。身体はアルファであるローレルを受け入れても心は千々に乱れる。そんなレフィにローレルは優しく愛を注ぎ続けるが……。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

処理中です...