闇の魔王に溺愛されています。

花波橘果(はななみきっか)

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神官たち(2)

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「ちまちま薬を作って人を救う気があるなら、カルネウスの頼みを聞いてもいいと思うのよね」
 フランと並んで石の舗道を歩きながら、アマンダが口を尖らせる。後ろを歩くレンナルトが「やらないとは言ってなかっただろう」と不機嫌に答えた。
「王を動かせるのはラーゲルレーヴ公爵だけなのよ。立場的にも、力でも」
「力で王を動かせばどうなるか、少しは考えろよ」
 闇の魔王と恐れられ、王に害を成す者として遠ざけられているステファンが、わざわざ王に働きかければあらぬ噂が立つ。ステファンの思惑など関係なく、王の側近や神官たちが騒ぎ出すに決まっているとレンナルトは言った。
「そんなの、騒がせておけばいいでしょう」
「そう簡単なことでもないんだよ」
「だからって、ずっと暗黒城に引きこもっているつもり? カルネウスの立場はどんどん悪くなってる。目をつけられてるの。これから先、敵はもっとやりたい放題になるわよ」
 だからと言って安易に動ける立場ではないのだとレンナルトは繰り返した。
「だいたい、僕を責めても仕方ないだろ。さっきから……」
「責めるわよ。あなたは唯一の側近なんだから」
「側近ねぇ……」
 レンナルトは苦笑した。
「兄弟同然だって聞いたわよ」
「それは、どうだろうな」
 乳兄弟として育ったし、子どもの時からずっと一緒だった。だから、自分はステファンを弟のように思っている。けれど、ステファンは違うのだと呟く。
「いつの間にか、一線を引かれてる。あいつは、一人がいいらしい」
 けれど、だからこそ、自分がそばにいなくてはいけないのだと続ける。
「強大な魔力を持って生まれてきたせいで、たった十歳で国を亡ぼす悪魔としての烙印を押された。そのくせ、先代の王から受け継いだ王族としての矜持も捨てきれないでいる」
 国中から恐れられ、闇の魔王などと呼ばれて憎まれながら、民を見捨てることができないのだとため息を吐く。
「つまり、目的は私たちと同じなのよ。神官たちが何を言おうと、立ち上がるべきだわ。王を敵に回してでも……」
 レンナルトは一歩距離を詰めた。
「あまり滅多なことを言うな。どこに人の耳があるかわからない」
 広い通りには馬車が行き交い、着飾った人々が侍女や従者を従えて店から店へとそぞろ歩いている。
 声を落としてレンナルトが囁く。
「王を敵に回すことなどできない」
「魔力では負けないんでしょ」
「たとえそうでも、ステファンは争いを避ける。自分の命を狙った者が死ぬのも嫌なんだ」
「闇の魔王なんて恐ろしい二つ名を持ってる割に、ずいぶんと平和主義的なのね」
「あいつは、優しいんだ」
 黙って二人の話を聞いていたフランは、その通りだと言いたくて青い目をレンナルトに向けた。
 だが、レンナルトは困ったようにフランを見返し、「それに、怖いんだよ」と続けた。
「怖い? 何が?」
「自分の力が……。神官たちが恐れるだけの力を、ステファンは確かに持っている。ステファン自身が持て余し、自分でも恐れるほどの力だ」
 その力を使いたくないのだと言って小さく首を振った。
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