闇の魔王に溺愛されています。

花波橘果(はななみきっか)

文字の大きさ
上 下
34 / 75

レンナルト(2)

しおりを挟む
「レンナルトは、もともとは、俺の乳母だった人の息子だ」
 つまり乳兄弟だと続ける。
 乳母の名はヘーグマン伯爵夫人フレドリカ。この世に生を受けるのと同時に母親を亡くしたステファンは、レンナルトの母であるフレドリカに育てられたのだと言う。
「だから、レンナルトとは、正真正銘、生まれた時からの腐れ縁というわけだ」
 十歳で父王を亡くし、神官たちの手で王宮から出された時、ステファンに従う家臣はほとんどいなかった。それでも、さすがに格好がつかないと思ったのか、見張りを兼ねた護衛兵が数名と家事使用人が数名、国から選ばれてついてきた。
 フレデリカとその息子であるレンナルト、レンナルトの妹のエミリアは、数少ない志願者として一緒に来たのだと振り返る。
「あの頃は、今と比べるとだいぶ賑やかだった。十五人近い人間がこの城に住んでいたからな」
「マットソンさんのお屋敷でも、だいたいそのくらいの人たちが住んでたよ」
 マットソンとその奥方と子どもたちの家族四人、お店を手伝う人が三、四人、台所を預かる親方、ベッテたちのような家の中のことをするメイドが三、四人、御者兼馬番が一人、使用人頭のヤーコプとお店の番頭という少し偉い使用人、そして下働きのフランとお店の小僧をしている子どもが一人、辞める人や新しく来る人もいて、時々人数が変わるけれど、だいたい十五人くらいの人が住んでいた。今のフランには、それを数えることができる。
 指を折りながら、少し得意になって数を数えていると、ステファンが頭を撫でてくれた。嬉しくなってフランは続ける。
「もっと大きいお屋敷には、もっとたくさんの人が働いているってベッテが言ってた。人手がいっぱいあると、仕事も少し楽なんじゃないかなって……。もっとって、何人くらいかわからないけど」
「上級貴族の屋敷には百から二百、王宮では千人を超える人間が働いているな」
 ステファンの答えを聞いて、フランは目を丸くする。そんなに大勢では、指がいくつあっても足りない。
 フランは本が読めるようになったし、ステファンに教えてもらって知識も増えてきた。けれど、まだ大きな数を扱う難しい計算はできない。指で数えられる足し算と引き算がわかるようになったばかりだ。
 ステファンが次は算術を頑張ってみるかと言うので、大きく頷いた。大きなものの数を数えられるようになったら、もっといろいろなことを理解できるようになるかもしれない。
 複雑な代金の計算ができれば、たくさんのおつかいを頼まれても安心だ。
 まえに一度、一人で馬車に乗って近くの村までミルクを買いに行った時のことを思い出す。何度も指でお金の計算をして確かめても、すごくドキドキしてしまった。帰ってきて、ちゃんと合っているとレンナルトに言われた時はほっとしたし嬉しかった。
 フランがそんな話をする間、ステファンは面白そうに聞いていた。けれど、ちょっとわき道に逸れすぎてしまった。ちょうどレンナルトの名前が出たので、フランは口を閉じた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

処理中です...