闇の魔王に溺愛されています。

花波橘果(はななみきっか)

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新しいオメガ(2)

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 ステファンとレンナルト、そしてフランも一緒に、アマンダ・レンホルム子爵令嬢を振り向いた。
「話……?」
「私は、カルネウスの指示でここへ来ました」
「それはわかっている……」
 ステファンはため息まじりに呟いたが、アマンダは青い瞳をまっすぐステファンに向けていた。
「今、あなたが考えている意味とは、違う意味でここへ来ています」
 ステファンは怪訝な顔でアマンダを見た。
「つまり、どういうことだ」
「ネルダールが言っていたような意味ではないということです。もっとも、ネルダールは何も知りませんが」
 ふっと口元を緩めて微笑むアマンダに、ステファンが目を眇めた。何の話をしているのかフランには少しもわからなかったが、ステファンは何かを推し測るようにアマンダをじっと見ていた。
「あなたをここに寄越したのは、カルネウスで間違いないのだな」
「ええ」
 ステファンは難しい顔をしたままだ。
「王宮で、何が起きている?」
「ここでお話しできることではありません」
 夏の午後、ただ広いばかりの石畳の前庭を見て、アマンダが笑う。
 ステファンは一つ、大きな息を吐いた。
「レンナルト、この人を城に……」
「アマンダ・レンホルムです」
 聡明そうな青い瞳をきらりと光らせてアマンダが微笑む。
「アマンダを……、案内してやってくれ」
「あ、ああ……」
 やや戸惑った様子で、レンナルトは頷いた。緊張気味に「どうぞ」と言ってアマンダを城の中へといざなう。ステファンも後について歩き出した。
 数歩行ったところで、フランを振り返る。
「フラン? どうした?」
 フランは黙って首を振った。
「何をしている。そんなところに突っ立ってないで、はやく来い」
「うん……」
 たたた、と急ぎ足でステファンに追いつく。大きな手を差し出されて、フランもなんとなく自分の手を差し出した。
「ステファン?」
「なんだ」
「どうして、手を繋ぐの?」
「うん」
 うん、ではわからないのだけれど、と思いながら見上げると、なぜかステファンは前を向いたまま苦笑していた。
「フラン。俺は、誰だ?」
「ステファン……。ええと、ステファン・ラーゲルレーブ公爵……」
「他には、何と呼ばれている?」
 フランは答えなかった。
 ステファンの本当の姿を知らない人が付けた恐ろしい呼び名が好きではなかったから。
「どうして、そんなことを聞くの?」
 フランは大きな手をぎゅっと握り返した。
「僕……、逃げないよ?」
 ぽつりと呟くと、ステファンがふっと表情を緩めて見下ろしてきた。
「本当か?」
「うん」
 真剣な顔で頷いた。ステファンが握った手を少し持ち上げて、もう一方の手を重ねた。
「だったら、俺も逃がす気はない」
 ドキッと心臓が跳ねる。
(でも……、あの人……、アマンダさんは?)
 ネルダールは彼女を「新しいオメガ」だと言った。フランがいるからいらないとステファンは言ってくれたけれど……。
 ステファンの手をぎゅっと握って歩きながら、フランは心の中で神様に祈った。
(どうか、ここにいられなくなったりしませんように……)

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