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新しいオメガ(1)
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ステファンが前庭に出ていくのをレンナルトと一緒に見ていた。
馬車から降りたネルダールの後ろに金色の髪の女性が一人立っている。背が高くほっそりとした美しい人だ。色とりどりの糸で刺繍を施した綺麗なドレスを身につけていた。
「アマンダ・レンホルム子爵令嬢をお連れした。貴殿の新しいオメガだ」
尊大な態度でネルダールがアマンダを紹介した。
ステファンは一言「必要ない」と言って断った。
「貴殿の意見など、聞いていない。前のオメガは逃げたと聞いた。それとも、貴殿が気に入らず、追い出したのだったか……。いずれにしても、暗黒城には金色の髪のオメガがいないというではないか。必ず置いて置く必要があるというのに……。これは『導きの石』のお告げだ。逆らうことは許されないのだぞ」
「フランなら城にいるぞ」
「何……?」
ステファンは振り返り、軽く微笑んで「フラン、こっちにおいで」と呼んだ。
フランがおずおずと姿を現すと、ネルダールは驚いたように目を見開いた。
「誰だ……?」
「フランシス・セーデン。三か月ほど前に、おまえたち王宮の者が使わした金色の髪のオメガだ」
「カルネウス閣下が迎えに行ったオメガか? どこそこの商人の家で下働きをしていた……」
信じられないといった様子でネルダールはフランを凝視した。
背が伸びて健康的になっただけでなく、今日のフランは買ってもらったばかりの立派な服を着ている。白地に金糸で刺繍を施した華やかな上下セットだ。
「嘘だ……」
ステファンは得意げに笑った。
「嘘ではない。これがフランだ」
「別人ではないか」
ほとんど口の中で呟いたネルダールは、もう一度フランをしげしげと眺めた。
「金色の巻き毛と、青い目……。確かに、あの時の子どもと同じだ。だが……」
「俺のオメガは逃げていないぞ。それに、俺は、十分、フランを気に入っている」
ステファンに肩を抱き寄せられて、フランはなんだかドキドキした。気に入っていると言われたことが嬉しかった。
「新しいオメガなど必要ない」
ステファンはきっぱりと言った。
大柄な身体を後ろに反らせて威張っていたネルダールは「しかし」と唸って、眉間に皺を寄せる。
「私は……、この子爵令嬢をここへ送り届けるよう言われたのだ。とにかく、彼女は置いていく」
「置いていかれても困る。バカはたいがいにしろ」
「バカとはなんだ。私は命じられて連れてきただけなのだぞ。文句があるなら、カルネウス閣下に言ってくれ」
そう言い捨てると、ネルダールはさっと馬車に乗り込んで「出せ」と御者に命じる。一刻も早く暗黒城から離れたかったのか、御者はすぐに馬を走らせた。
「おい、こら! 待て! 無責任だぞ、ネルダール……!」
ステファンが叫んだ時には、馬車はスピードを上げて開いたままの門を駆け抜けていってしまった。
建物の陰に隠れていたレンナルトが笑いだした。
「ステファン、わかっただろう。あいつらは、いつも勝手に来て勝手に帰っていくんだ」
「レンナルト、笑い事ではない! すぐにこの人を王宮に送り返せ」
レンナルトは「やっぱりステファンでも無理だった」と上機嫌に笑いながら近づいてきた。
「あの……」
その時、ずっと黙って立っていたアマンダが口を開いた。
「ラーゲルレーヴ公爵にお話があるんですけど」
馬車から降りたネルダールの後ろに金色の髪の女性が一人立っている。背が高くほっそりとした美しい人だ。色とりどりの糸で刺繍を施した綺麗なドレスを身につけていた。
「アマンダ・レンホルム子爵令嬢をお連れした。貴殿の新しいオメガだ」
尊大な態度でネルダールがアマンダを紹介した。
ステファンは一言「必要ない」と言って断った。
「貴殿の意見など、聞いていない。前のオメガは逃げたと聞いた。それとも、貴殿が気に入らず、追い出したのだったか……。いずれにしても、暗黒城には金色の髪のオメガがいないというではないか。必ず置いて置く必要があるというのに……。これは『導きの石』のお告げだ。逆らうことは許されないのだぞ」
「フランなら城にいるぞ」
「何……?」
ステファンは振り返り、軽く微笑んで「フラン、こっちにおいで」と呼んだ。
フランがおずおずと姿を現すと、ネルダールは驚いたように目を見開いた。
「誰だ……?」
「フランシス・セーデン。三か月ほど前に、おまえたち王宮の者が使わした金色の髪のオメガだ」
「カルネウス閣下が迎えに行ったオメガか? どこそこの商人の家で下働きをしていた……」
信じられないといった様子でネルダールはフランを凝視した。
背が伸びて健康的になっただけでなく、今日のフランは買ってもらったばかりの立派な服を着ている。白地に金糸で刺繍を施した華やかな上下セットだ。
「嘘だ……」
ステファンは得意げに笑った。
「嘘ではない。これがフランだ」
「別人ではないか」
ほとんど口の中で呟いたネルダールは、もう一度フランをしげしげと眺めた。
「金色の巻き毛と、青い目……。確かに、あの時の子どもと同じだ。だが……」
「俺のオメガは逃げていないぞ。それに、俺は、十分、フランを気に入っている」
ステファンに肩を抱き寄せられて、フランはなんだかドキドキした。気に入っていると言われたことが嬉しかった。
「新しいオメガなど必要ない」
ステファンはきっぱりと言った。
大柄な身体を後ろに反らせて威張っていたネルダールは「しかし」と唸って、眉間に皺を寄せる。
「私は……、この子爵令嬢をここへ送り届けるよう言われたのだ。とにかく、彼女は置いていく」
「置いていかれても困る。バカはたいがいにしろ」
「バカとはなんだ。私は命じられて連れてきただけなのだぞ。文句があるなら、カルネウス閣下に言ってくれ」
そう言い捨てると、ネルダールはさっと馬車に乗り込んで「出せ」と御者に命じる。一刻も早く暗黒城から離れたかったのか、御者はすぐに馬を走らせた。
「おい、こら! 待て! 無責任だぞ、ネルダール……!」
ステファンが叫んだ時には、馬車はスピードを上げて開いたままの門を駆け抜けていってしまった。
建物の陰に隠れていたレンナルトが笑いだした。
「ステファン、わかっただろう。あいつらは、いつも勝手に来て勝手に帰っていくんだ」
「レンナルト、笑い事ではない! すぐにこの人を王宮に送り返せ」
レンナルトは「やっぱりステファンでも無理だった」と上機嫌に笑いながら近づいてきた。
「あの……」
その時、ずっと黙って立っていたアマンダが口を開いた。
「ラーゲルレーヴ公爵にお話があるんですけど」
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