闇の魔王に溺愛されています。

花波橘果(はななみきっか)

文字の大きさ
上 下
27 / 75

新しいオメガ(1)

しおりを挟む
 ステファンが前庭に出ていくのをレンナルトと一緒に見ていた。
 馬車から降りたネルダールの後ろに金色の髪の女性が一人立っている。背が高くほっそりとした美しい人だ。色とりどりの糸で刺繍を施した綺麗なドレスを身につけていた。
「アマンダ・レンホルム子爵令嬢をお連れした。貴殿の新しいオメガだ」
 尊大な態度でネルダールがアマンダを紹介した。
 ステファンは一言「必要ない」と言って断った。
「貴殿の意見など、聞いていない。前のオメガは逃げたと聞いた。それとも、貴殿が気に入らず、追い出したのだったか……。いずれにしても、暗黒城には金色の髪のオメガがいないというではないか。必ず置いて置く必要があるというのに……。これは『導きの石』のお告げだ。逆らうことは許されないのだぞ」
「フランなら城にいるぞ」
「何……?」
 ステファンは振り返り、軽く微笑んで「フラン、こっちにおいで」と呼んだ。
 フランがおずおずと姿を現すと、ネルダールは驚いたように目を見開いた。
「誰だ……?」
「フランシス・セーデン。三か月ほど前に、おまえたち王宮の者が使わした金色の髪のオメガだ」
「カルネウス閣下が迎えに行ったオメガか? どこそこの商人の家で下働きをしていた……」
 信じられないといった様子でネルダールはフランを凝視した。
 背が伸びて健康的になっただけでなく、今日のフランは買ってもらったばかりの立派な服を着ている。白地に金糸で刺繍を施した華やかな上下セットだ。
「嘘だ……」
 ステファンは得意げに笑った。
「嘘ではない。これがフランだ」
「別人ではないか」
 ほとんど口の中で呟いたネルダールは、もう一度フランをしげしげと眺めた。
「金色の巻き毛と、青い目……。確かに、あの時の子どもと同じだ。だが……」
「俺のオメガは逃げていないぞ。それに、俺は、十分、フランを気に入っている」
 ステファンに肩を抱き寄せられて、フランはなんだかドキドキした。気に入っていると言われたことが嬉しかった。
「新しいオメガなど必要ない」
 ステファンはきっぱりと言った。
 大柄な身体を後ろに反らせて威張っていたネルダールは「しかし」と唸って、眉間に皺を寄せる。
「私は……、この子爵令嬢をここへ送り届けるよう言われたのだ。とにかく、彼女は置いていく」
「置いていかれても困る。バカはたいがいにしろ」
「バカとはなんだ。私は命じられて連れてきただけなのだぞ。文句があるなら、カルネウス閣下に言ってくれ」
 そう言い捨てると、ネルダールはさっと馬車に乗り込んで「出せ」と御者に命じる。一刻も早く暗黒城から離れたかったのか、御者はすぐに馬を走らせた。
「おい、こら! 待て! 無責任だぞ、ネルダール……!」
 ステファンが叫んだ時には、馬車はスピードを上げて開いたままの門を駆け抜けていってしまった。
 建物の陰に隠れていたレンナルトが笑いだした。
「ステファン、わかっただろう。あいつらは、いつも勝手に来て勝手に帰っていくんだ」
「レンナルト、笑い事ではない! すぐにこの人を王宮に送り返せ」
 レンナルトは「やっぱりステファンでも無理だった」と上機嫌に笑いながら近づいてきた。
「あの……」
 その時、ずっと黙って立っていたアマンダが口を開いた。
「ラーゲルレーヴ公爵にお話があるんですけど」



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢のペットは殿下に囲われ溺愛される

白霧雪。
BL
旧題:悪役令嬢のポチは第一王子に囲われて溺愛されてます!? 愛される喜びを知ってしまった―― 公爵令嬢ベアトリーチェの幼馴染兼従者として生まれ育ったヴィンセント。ベアトリーチェの婚約者が他の女に現を抜かすため、彼女が不幸な結婚をする前に何とか婚約を解消できないかと考えていると、彼女の婚約者の兄であり第一王子であるエドワードが現れる。「自分がベアトリーチェの婚約について、『ベアトリーチェにとって不幸な結末』にならないよう取り計らう」「その代わり、ヴィンセントが欲しい」と取引を持ち掛けられ、不審に思いつつも受け入れることに。警戒を解かないヴィンセントに対し、エドワードは甘く溺愛してきて…… ❁❀花籠の泥人形編 更新中✿ 残4話予定✾ ❀小話を番外編にまとめました❀ ✿背後注意話✿ ✾Twitter → @yuki_cat8 (作業過程や裏話など) ❀書籍化記念IFSSを番外編に追加しました!(23.1.11)❀

処理中です...