26 / 75
宝物(2)
しおりを挟む
城に来る時、マットソンの子どものお下がりを着せられてきたフランは、背が伸びてからはステファンやレンナルトの昔の服から着られそうなものを見繕って着ていた。
レンナルトが古着屋で手に入れてきた庶民の服も何枚かあり、フランは特に不満を持っていなかった。
マットソンのところにいた頃は、たくさんの使用人が着古したお下がり一枚につぎを当てながら着ていた。たまに洗濯をするのはいつも夜で、寝巻代わりの下着一枚になって外の井戸で洗っていた。着替えがあるだけで、すごく快適だったのだ。
それなのに、ある日フランの目の前に新品の立派な服が三着も置かれた。
「遅くなったが、やっと出来上がってきたぞ。注文した時より背が伸びているが、少し大きめに頼んでおいたから大丈夫だろう」
「ステファン、これ……?」
「おまえの服だ。いつまでも俺たちのお下がりや、擦り切れた古着を着ているわけにはいかないだろう」
「でも……」
まるで貴族が着るような艶やかな生地に、刺繍の入った豪華な上衣。あまりに立派な服を見つめて、かすかに首を振る。
「なんだ、気に入らなかったか? 一応、好みもあるだろうと思って、三通りの組み合わせで作らせたんだが……」
「そ、そうじゃなくて……。僕、こんな立派な服、着たことなくて……」
「着方がわからなければ、俺が着せてやる」
ステファンは可笑しそうに笑った。
レンナルトもやってきて、「似合いそうじゃない。着てごらんよ」と言って勧める。
フランは言葉もないまま、ステファンの手に任せる形で、その中の一組を身に着けた。
「わぁ、なんだか見違えたなぁ」
レンナルトが感嘆の声を上げた。
「俺の見立てはなかなかだったようだな」
ステファンも満足そうだ。
大きな鏡のある玄関ホールに連れていかれて、そこに映し出された自分の姿を正面から見た。あまりに驚いたフランは、左右をキョロキョロ見回してしまった。目の前の鏡に映っているのが自分だとは、とても信じられなかったのだ。
「これが、僕……?」
瞳の色と同じ明るい空色の上衣には金糸や銀糸も使われた美しい刺繍が施されている。白いシャツの襟はたっぷりの布地でひらひらに作られているし、金色のベストは光沢のある模様入りだった。上衣と同色のキュロットや白い絹のタイツも丈がピッタリで、いかにも粋に見える。
「絵本の中の王子様みたいだ……」
「自分で言うのか」
ステファンに笑われたけれど、本当にそう思ってしまった。
「よく似合っている」
ほかの二着はグリーンの上衣に金茶のキュロットのセットと白地に金糸の刺繍が美しい上下のセットで、そのどちらも着せ替え人形のように着せられて、二人に褒められた。
そんなことをして三人で盛り上がっていると、城の表側から馬のいななきと車輪がきしむ音が聞こえた。
「誰か来た?」
「珍しいな……」
レンナルトが表玄関に向かった。すぐに戻ってきてステファンに告げる。
「ボリス・ネルダールだ」
「ネルダール?」
眉間に皺を寄せるステファンに、レンナルトは言った。
「新しいオメガを連れてきたって言ってる」
レンナルトが古着屋で手に入れてきた庶民の服も何枚かあり、フランは特に不満を持っていなかった。
マットソンのところにいた頃は、たくさんの使用人が着古したお下がり一枚につぎを当てながら着ていた。たまに洗濯をするのはいつも夜で、寝巻代わりの下着一枚になって外の井戸で洗っていた。着替えがあるだけで、すごく快適だったのだ。
それなのに、ある日フランの目の前に新品の立派な服が三着も置かれた。
「遅くなったが、やっと出来上がってきたぞ。注文した時より背が伸びているが、少し大きめに頼んでおいたから大丈夫だろう」
「ステファン、これ……?」
「おまえの服だ。いつまでも俺たちのお下がりや、擦り切れた古着を着ているわけにはいかないだろう」
「でも……」
まるで貴族が着るような艶やかな生地に、刺繍の入った豪華な上衣。あまりに立派な服を見つめて、かすかに首を振る。
「なんだ、気に入らなかったか? 一応、好みもあるだろうと思って、三通りの組み合わせで作らせたんだが……」
「そ、そうじゃなくて……。僕、こんな立派な服、着たことなくて……」
「着方がわからなければ、俺が着せてやる」
ステファンは可笑しそうに笑った。
レンナルトもやってきて、「似合いそうじゃない。着てごらんよ」と言って勧める。
フランは言葉もないまま、ステファンの手に任せる形で、その中の一組を身に着けた。
「わぁ、なんだか見違えたなぁ」
レンナルトが感嘆の声を上げた。
「俺の見立てはなかなかだったようだな」
ステファンも満足そうだ。
大きな鏡のある玄関ホールに連れていかれて、そこに映し出された自分の姿を正面から見た。あまりに驚いたフランは、左右をキョロキョロ見回してしまった。目の前の鏡に映っているのが自分だとは、とても信じられなかったのだ。
「これが、僕……?」
瞳の色と同じ明るい空色の上衣には金糸や銀糸も使われた美しい刺繍が施されている。白いシャツの襟はたっぷりの布地でひらひらに作られているし、金色のベストは光沢のある模様入りだった。上衣と同色のキュロットや白い絹のタイツも丈がピッタリで、いかにも粋に見える。
「絵本の中の王子様みたいだ……」
「自分で言うのか」
ステファンに笑われたけれど、本当にそう思ってしまった。
「よく似合っている」
ほかの二着はグリーンの上衣に金茶のキュロットのセットと白地に金糸の刺繍が美しい上下のセットで、そのどちらも着せ替え人形のように着せられて、二人に褒められた。
そんなことをして三人で盛り上がっていると、城の表側から馬のいななきと車輪がきしむ音が聞こえた。
「誰か来た?」
「珍しいな……」
レンナルトが表玄関に向かった。すぐに戻ってきてステファンに告げる。
「ボリス・ネルダールだ」
「ネルダール?」
眉間に皺を寄せるステファンに、レンナルトは言った。
「新しいオメガを連れてきたって言ってる」
11
お気に入りに追加
430
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ブラコンなイケメン兄に告白された弟
成竹
BL
兄である瞬は、弟の紘を溺愛している。
弟は兄のことがまあまあ好きなので拒みきれずに困っているのだが、そんなある日、弟は兄に告白されてしまった……。
兄が19歳で、弟が16歳です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる