闇の魔王に溺愛されています。

花波橘果(はななみきっか)

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予兆(2)

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「街に行って、何を調べてくるの?」
「それは、行ってみないとわからないかな」
「泉のそばにあるキラキラした石が、何かステファンに教えたの?」
「たぶんね」
 なんでそう思った? とレンナルトが聞く。
「だって、ステファンがよく、石の前で何か考えてるから……」
 軽く頷いて、あの石には魔力とは別の不思議な力があるのだとレンナルトは教えてくれた。
「石の機嫌がいいと、いろいろなことを教えてくれるらしい」
「石に機嫌があるの?」
「機嫌ていうのは、例えなんだろうけど……」
 気まぐれに何かを教えることもあれば、知りたいことがあってもほとんど答えないことも多いらしい。
「でも、フランが来ることも、王宮からの知らせが来る前に石が教えたって言ってたよ。金色の髪のオメガが来るから丁重に迎えろって。思ったより小さい子が来たから、僕もステファンもちょっと驚いたけど」
 とても十五歳には見えなかったと言って、レンナルトが笑う。
 フランは少し心配になった。
「本当は、もっと立派なオメガに来てほしかったかな?」
「そんなことはないと思うよ?」
 自分が見た限りでは、ステファンはかなりフランを気に入ってると思うと、レンナルトは満足そうに頷く。
「あんなに楽しそうなステファンは、見たことがない」
「楽しそう……?」
 どちらかというと面倒ばかりかけて、困らせているだけのような気がする。
「それに、お告げは半分当たってるって言ってたし」
「どういうこと?」
 レンナルトは「僕にもよくわかない」と言って馬車の行きかう街の通りを進んでいった。
 中央の広場に着くと馬車預かりの待機場所まで行って、馬車と馬を預けた。街の中を馬車で走ると、御者がいるわけではないので、細い路地に入る時に停めておく場所に困る。
 フランは前に、自分が御者台に座って待っていると言ったのだが、それではフランが飽きると言って、レンナルトが聞かなかった。ステファンからもフランを一人にするなと言われていると言っていた。
 野菜や肉や魚を買って二人で馬車まで運ぶ。本当は魔法で運んでいるのでとても軽い。フランでも両手いっぱいに荷物を持つことができた。
「フランがいるから、一度に倍の袋が運べる。助かるなぁ」
 レンナルトに言われて、フランはちょっと嬉しくなった。
「あ。レンナルト、あれは何?」
 道の角に建つ建物の壁に、四角い木の板が打ち付けてある。板に貼られた紙を見て、みんなが何か話し合っていた。
「掲示板だ。役場や王宮からの知らせが貼ってある」
 近づいてみると、立派な紋章の付いた紙が貼ってあった。みんなそれを見ながら、あれこれ話し合っている。
 一番目立つ書体の文字をフランは読んだ。
「きんいろの、かみの、おめがを、さがしています、だって。前にベッテが言ってたのって、これのことかな」
「いや、違うと思うな。紙が新しいし、日付もほら」
 貼り紙の日付は八月で、まだ貼られたばかりだとわかった。
 街の人の声に耳を傾ける。どうやら、暗黒城にはフランがいないことになっているらしいことがわかった。
 最初のオメガは逃げたという噂と、ステファンが気に入らなくて、オメガを追い出したという噂があった。
「妙だね」
 とりあえず、城に帰ってステファンに報告だとレンナルトが言い、急いで広場に預けた馬車に戻った。
 歩きながら、フランは心配になった。
 やはりフランではダメで、違うオメガを探しているということだろうか。
 フランが逃げることは絶対にないけれど、ステファンは……。
 いつも優しくしてくれるけれど、本当はステファンはフランを気に入っていなくて、違うオメガに来てほしいのだろうか。
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