闇の魔王に溺愛されています。

花波橘果(はななみきっか)

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 わかることが増えてくると、わからないこともはっきりしてくる。疑問はどんどん湧いてきた。
「ベッテは、どうして僕のことを生贄いけにえなんて言ったのかな」
 生贄というのは、何かのわざわいを逃れるために神様や悪魔に捧げる供物くもつのことだ。捧げられた後は殺されることもあったりして、あまりいい目に遭わない。みんなが助かるための犠牲みたいなものなのだ。
 けれど、どう考えても、城に来てからのフランは、以前の何倍も幸せに暮らしている。
 毎日美味しいものをたくさん食べて、背も伸びて力も付いてきた。まだ、華奢で小柄なことには変わりないけれど、この二ヶ月で、ギリギリ年相応に見えるくらいには大きくなった。
 薄く肉もついてきて、見た目にも健康そうだ。毎日石鹸で身体を洗っているから、肌は白く透き通ってきたし、髪もふわふわでさらさら。頬は薔薇色だし、瞳は夏の空のように生き生きと輝いている。
 ちなみに、身体の洗い方もよくわからなかったので、最初のうちはステファンが一緒にお風呂に入ってくれた。フランとは全然違う立派な身体にドキドキしてしまったのは内緒だ。自分の身体が恥ずかしくなって隠すように肩を抱いていたら「子どもを抱く趣味はないから安心しろ」とため息を吐かれた。
 それはそれとして、とにかくフランは大きくなったのだ。
 毎朝鏡を見てビックリする。そのくらい変わったし、元気だ。
「僕、生贄じゃないと思う」
 確信を込めてフランが言うと、ステファンが片方の眉を軽く上げて「こういうことかもしれないぞ」と笑う。
 ビュンと一冊の本が飛んできて、フランの目の前で開いた。
 少し前にフランが読んでいた文字の大きな絵本だ。悪い魔物が子どもをさらい、少し太らせてから食べるという恐ろしい物語。
 フランの目が大きく見開かれる。
 ステファンが声を出して笑った。どこからかレンナルトが「ずいぶん楽しそうだね」と口を挟む。
「ステファン、僕を食べるの?」
「当たらずとも遠からずだ」
 ステファンの答えに、フランはますます大きく目を見開いた。
 背後から一緒に本を覗き込むステファンにドキドキしながら、整った顔を見上げた。
「本当に食べたりはしないでしょ?」
「フランの考えている意味ではな」
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