闇の魔王に溺愛されています。

花波橘果(はななみきっか)

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 そのようにして城での生活は始まった。
 わからないことや戸惑うことも多く、フランは相変わらず失敗ばかりしていた。けれど、ステファンもレンナルトも一度もフランを叱ることはなかった。
 季節は春から夏に変わり、城の周辺の森や野原に青々とした草木が生い茂った。
 中庭の噴水は日差しを浴びて勢いよく水を噴き上げ、池には小鳥が遊んでいた。
 二ヶ月ほどかけて簡単な読み書きができるようになると、ステファンはフランにさまざまなことを教えるようになった。勉強をしたことがなかったフランは夢中でステファンの話を聞いた。
 国の成り立ちや世の中の仕組みなどがわかってくると、カルネウスが言っていたことの意味がようやくわかってきた。
「だけど、ステファンは少しも怖くないのに、どうして闇の魔王って呼ばれてるの?」
 敬語で話されるのも好きではないと何度か言われ、二ヶ月の間に身内のような言葉遣いになっていた。
「事実を正しく伝えるのは、案外難しいからな」
 聞く側にそれなりの知識や能力がないと、本当のことは伝わらないと言う。
 フランにはそれがよくわかった。物事をよく知らなかったフランは、カルネウスがどんなに易しく説明してくれても、ほとんど何も理解できなかった。
 相手の無知を利用して、間違ったことを教える者もいるとステファンは続ける。
「わざと間違ったことを教えるの?」
「あるいは正しいことを教えない」
「どうして、そんなことをするの?」
「そうしたほうが都合のいい人間がいるからだろうな」
 フランにはまだ難しいかもしれないなと言って、ステファンは笑った。
「そろそろ休憩にして、アイスクリームでも食べるか」
「ミルクをもらいに行かないと作れないって、レンナルトが……」
「ミルクか……」
 城では日常的に魔法が使われていて、ステファンとレンナルトはどこにいても話したい時に話をしたし、道具を動かす時にも魔法を使っていた。ほうきちりとり、芝刈り機などが勝手に動いて仕事をするのだ。
 ただ、植物や動物の成長を早めたり何もないところから品物を産み出したりすることはできないらしい。ボーデン王国に伝わる魔法は物理魔法だけなのだとステファンが教えてくれた。
 だから、食材や生活必需品は街や村に買いに行く必要があった。
「明日、おつかいに行ったら、帰りに近くの農家で分けてもらうって」
「そうか。フランも行きたかったら、行ってきていいぞ。甘い菓子を売る店に寄って、どれでも好きなのを選んで買ってくるといい」
 フランが目を見開く。ぱあっと笑顔になるのを見て、ステファンは笑った。
「おまえは素直でいいな」
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