闇の魔王に溺愛されています。

花波橘果(はななみきっか)

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ステファン・ラーゲルレーブ(2)

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 フランは頷いた。
「なぜだ。ここは暗黒城と呼ばれる悪魔の城だぞ。俺の名はステファン・ラーゲルレーヴ。世間では、闇の魔王と呼んで俺を恐れている」
「はい。あの、カルネウスさんから聞きました……」
「おまえは、俺を鎮めるために捧げられたつがい用のオメガだそうだ。早い話が生贄いけにえだ。そう言われなかったか?」
 フランは首を傾げた。
 カルネウスは言わなかったが、ベッテがそんなことを言っていた気がする。
「あの、それって……、僕の新しい奉公先が、こちらになるということではないのですか……?」
「奉公先?」
 ステファンとレンナルトが固まる。
 先に噴き出したのはレンナルトだった。
「これは、いい」
「笑うな。レンナルト」
「だって、この子……」
「おそらく、何もわからないまま連れてこられたんだろう……。まったく、カルネウスのやつ……」
 呆れたようにため息を吐き、ステファンがフランを見た。
 何かおかしなことを言ったのだとわかって、フランは赤くなった。
「ごめんなさい。僕、勉強をしたことがなくて、あまりものを知らないんです……」
 レンナルトはまだ笑っている。ステファンはため息交じりに口を開いた。
「名前」
「え……」
「おまえの名だ。まだ聞いていない」
「あ。フラン……、フランシス・セーデンです。みんなには、フランと呼ばれています」
「フランか。十五というのは確かか」
「はい……」
「それにしては幼いな」
 チビでやせっぽちだと言われたようで切なくなる。
「ち、力仕事もちゃんとやれます」
「おまえに、そんなことは期待していない」
「でも……」
「王宮の連中が神託とか言っているものに従っておかねば、いろいろとうるさい。おまえが嫌でないなら、大人しく俺の生贄になっておけ」
 フランには言葉の意味がわからなかった。
「ステファンの身の回りの世話を頼める?」
 レンナルトに言われて、どうやらここにいていいようだと理解した。 
「はい! あの、なんでもやります!」
 身の回りの世話など必要ないとステファンが言うので少し傷つくが、ともかく追い返されたくない一心で「なんでもします」と繰り返した。
「わかったから、安心しろ」
 ステファンが呆れたように言い、フランはもう一度深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「カルネウスが自分で送ってきたよ。ろくに話もしないで帰っちゃったけど」
 レンナルトの言葉にステファンは軽く頷いた。
「城の中を案内してやってくれ」
「了解。おいで、フラン」



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