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【13】-5

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 突然、固定電話の呼び出し音が鳴って、光は驚いて座卓に膝をぶつけた。

「いで……っ」

 足を引きずりながら慌てて受話器を取ると、駅に着いたので汀の迎えを頼みたいと朱里の声が言った。
 時計を見上げ、「すぐに行きます」と答えて駅に向かった。

「ひかゆちゃん!」

 飛び込んでくる小さな塊を抱き上げた。優しい笑みを浮かべて、朱里がそれを見ていた。

「お迎え、ありがとうございます。汀をよろしくお願いします」

 汀を下ろすと、朱里がかがんで汀の頭を撫でた。

「汀、またね」
「ママ、ばいばいね」

 手を振って別れる母と子の姿を光は黙って見ていた。
 こんな親子の挨拶があるのかと思うと胸が痛くなった。

「楽しかったか」
「おしゃかなしゃん、いーっぱいみたの。あおいのと、ぎんいろのと、いろんないろの。あと、ペンギンしゃん」
「すごいな」
「しーゆぶっくとぬいぐゆみ、あゆの」

 イルカの絵と水族館のマークの入った水色の大きなビニール袋に汀が手を伸ばす。抱き上げたまま傾く身体を落としそうになって、慌てて足を止めた。

「みぎわ、あんよしゅゆ」
「大丈夫か?」
「みぎわ、よんしゃい」

 パッと笑顔になって、親指だけ折った右手を得意そうに見せる。
 下ろして歩かせるが、汀は立ち止まったまますぐには歩かず、土産袋を渡せと手を出した。
 中から大きくて長いブルーグレーのぬいぐるみを取り出して光に見せる。

「ママがかってくいぇたの」
「おお。すごいな」

 思いのほか精緻な造りのハンマーシャークに、光は感嘆の声を上げた。

「ちょっと見てもいいか?」
「どおじょ」

 ぐいっと差し出されたぬいぐるみを手に取ってじっくり眺める。
 細かい部分まで丁寧に作られていた。さすが水族館のぬぐるみだ。そんじょそこらのものとはわけが違った。

「すごいな」

 本気で呟くと、汀は満足そうにきゃふっと笑って、ブルーグレーのぬいぐるみを抱き締めた。

 ハンバーグとシチューという汀の好きなメニューをダブル構成にした夕食を温めていると、玄関ドアが開く音が聞こえた。

「パパ!」

 汀が走って迎えにゆく。
 片手に鞄、片手に汀とケーキとを器用に抱えて、清正がリビングに入ってきた。
 
 光は慌ててケーキの箱を受け取った。

 いつもより品数の多い食卓に、さらにホールケーキとどら焼き六個が並び、絶対食べきれないと笑いながらハッピーバースデーを歌った。
 クリームの上で赤々と燃えている四本のろうそくを、汀がふうっと吹き決した。

「汀、誕生日おめでとう」

 リボン付きのラッピングバッグを手渡すと、汀がきゃあっと嬉しそうに叫んだ。
 中身を見て目を丸くする。

「おかばん」

 あいあとぉと言いながらぎゅっと抱き付いてくる小さな身体を抱き返した。
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