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「コンペと言っても、僕の中ではオーディションに近いイメージを持ってる」
新規に立ち上げるブランドのメインデザイナーを探したいのだと続けた。一定の条件を満たした若手のプロに絞って出品を募り、賞を与えるらしい。
「会議で名前が上がったデザイナーに、僕が直接声をかけてる。今のところ十人くらいエントリーしそうかな。人数は少ないけど、みんな気鋭のクリエイターだ。レベルは高いよ」
入賞した作品は商品化し、売り上げに応じたロイヤリティを支払う。さらに三年間のデザイナー契約を結び、新ブランドとともにデザイナー自身をプロデュースすると続けた。
「専属契約ではないから、他の仕事を受けても構わない。ただ、一定量の仕事を請け負って、新ブランドの顔になってもらうつもり。デザイナーの名前をそのままブランド名にしてもいいね。服やバッグのハイ・ブランドみたいなイメージで売っていきたいんだよ」
ラ・ヴィアン・ローズのメインターゲットが暮らしを楽しむ中流層ならば、それよりさらに上の、生活水準の高い富裕層やデザインにこだわる美術関係者、業界人などを狙ったハイクラス向けブランドにしたいのだと言った。
「要するに、単価の高い商品で儲けたいってこと」
露悪的にそんな言葉を吐いて、堂上は笑った。
つまり、こういうことだ。付加価値を作り出せるデザイナーを発掘したいが、コストは押さえたいので若手から起用し、デザイナーにとっては一流になるための足掛かりになるようなウィンウィンのビジネスモデルを考えた。
そう言って得意げにピースサインを作ってみせる。
「ふうん」
「あれ? 喰いつきがよくないね。ほかのデザイナーたちは、タイトなスケジュールにも拘らず、即答で参加を希望してきたのに」
「あんまり興味ないし」
「ロイヤリティの割合、見せたよね。ああ、でも、そうか。光にはこっちじゃなかったか」
エサを間違えたようだと堂上が笑う。
「じゃあ、こんなのはどう? 新しいブランドでは、今までよりも自由に、もっと冒険したデザインが可能。コストの面でも幅が広がる」
「コストも? どれくらい?」
「かなり、自由に。売れ筋を外すのもあり」
光の表情が変わった。どこまで自由にやっていいのか、興味を持ったのだ。
プロダクト・デザインというものは商品化が大前提になっている。
美しいだけでは十分とは言えず、コストや生産性など多くの規制をクリアする必要があった。
使いやすさや耐久性も求められるし、流行や売れ筋データなども重視する。デザイナーはそれらを全て満たしたデザインを考える必要があった。
それが技術であり、そういった制約の中でモノを創ることも一種の醍醐味である。それらの制約も含めて、光はこの仕事が好きだし得意だった。
自由度が増すということは、制約の基準が変わるということだ。そこには確かに魅力がある。
光の気を引いたのがわかって、堂上は満足そうに頷いた。
「ただね、懸念材料が二つあって、一つは、僕が求めるデザイナーに本当に出会えるのかってこと。もう一つは、同業他社に先を越されないかってこと」
国を代表するような高級路線のブランドを作りたい。そのポジションが確定するまでは、とにかく先行するのが有利だと思うと堂上は言った。
「僕のアイディアなのに、どこかに先を越されて、こっちが真似をしたと思われるのは心外だしね」
その二つを同時に回避するために、スケジュールをかなりタイトに設定したという。つまりそれだけの能力があるデザイナーであることを見極めつつ、最速でブランドオープンにこぎつけるつもりなのだと続ける。
「五月連休の前には一号店をオープンさせたい。その時に並ぶのは海外雑貨を中心にしたセレクト品になると思うけど、オリジナルも置ければもっといいと思っている。最低でも予告を打つところまでは進めたいね」
それらを目標にして逆算すると、コンペの結果発表を三月中に行う必要があるという。
堂上の言葉を聞いて、光は目を剥いた。
「ちょっと待て。今、一月の三週だぞ」
新規に立ち上げるブランドのメインデザイナーを探したいのだと続けた。一定の条件を満たした若手のプロに絞って出品を募り、賞を与えるらしい。
「会議で名前が上がったデザイナーに、僕が直接声をかけてる。今のところ十人くらいエントリーしそうかな。人数は少ないけど、みんな気鋭のクリエイターだ。レベルは高いよ」
入賞した作品は商品化し、売り上げに応じたロイヤリティを支払う。さらに三年間のデザイナー契約を結び、新ブランドとともにデザイナー自身をプロデュースすると続けた。
「専属契約ではないから、他の仕事を受けても構わない。ただ、一定量の仕事を請け負って、新ブランドの顔になってもらうつもり。デザイナーの名前をそのままブランド名にしてもいいね。服やバッグのハイ・ブランドみたいなイメージで売っていきたいんだよ」
ラ・ヴィアン・ローズのメインターゲットが暮らしを楽しむ中流層ならば、それよりさらに上の、生活水準の高い富裕層やデザインにこだわる美術関係者、業界人などを狙ったハイクラス向けブランドにしたいのだと言った。
「要するに、単価の高い商品で儲けたいってこと」
露悪的にそんな言葉を吐いて、堂上は笑った。
つまり、こういうことだ。付加価値を作り出せるデザイナーを発掘したいが、コストは押さえたいので若手から起用し、デザイナーにとっては一流になるための足掛かりになるようなウィンウィンのビジネスモデルを考えた。
そう言って得意げにピースサインを作ってみせる。
「ふうん」
「あれ? 喰いつきがよくないね。ほかのデザイナーたちは、タイトなスケジュールにも拘らず、即答で参加を希望してきたのに」
「あんまり興味ないし」
「ロイヤリティの割合、見せたよね。ああ、でも、そうか。光にはこっちじゃなかったか」
エサを間違えたようだと堂上が笑う。
「じゃあ、こんなのはどう? 新しいブランドでは、今までよりも自由に、もっと冒険したデザインが可能。コストの面でも幅が広がる」
「コストも? どれくらい?」
「かなり、自由に。売れ筋を外すのもあり」
光の表情が変わった。どこまで自由にやっていいのか、興味を持ったのだ。
プロダクト・デザインというものは商品化が大前提になっている。
美しいだけでは十分とは言えず、コストや生産性など多くの規制をクリアする必要があった。
使いやすさや耐久性も求められるし、流行や売れ筋データなども重視する。デザイナーはそれらを全て満たしたデザインを考える必要があった。
それが技術であり、そういった制約の中でモノを創ることも一種の醍醐味である。それらの制約も含めて、光はこの仕事が好きだし得意だった。
自由度が増すということは、制約の基準が変わるということだ。そこには確かに魅力がある。
光の気を引いたのがわかって、堂上は満足そうに頷いた。
「ただね、懸念材料が二つあって、一つは、僕が求めるデザイナーに本当に出会えるのかってこと。もう一つは、同業他社に先を越されないかってこと」
国を代表するような高級路線のブランドを作りたい。そのポジションが確定するまでは、とにかく先行するのが有利だと思うと堂上は言った。
「僕のアイディアなのに、どこかに先を越されて、こっちが真似をしたと思われるのは心外だしね」
その二つを同時に回避するために、スケジュールをかなりタイトに設定したという。つまりそれだけの能力があるデザイナーであることを見極めつつ、最速でブランドオープンにこぎつけるつもりなのだと続ける。
「五月連休の前には一号店をオープンさせたい。その時に並ぶのは海外雑貨を中心にしたセレクト品になると思うけど、オリジナルも置ければもっといいと思っている。最低でも予告を打つところまでは進めたいね」
それらを目標にして逆算すると、コンペの結果発表を三月中に行う必要があるという。
堂上の言葉を聞いて、光は目を剥いた。
「ちょっと待て。今、一月の三週だぞ」
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