ふれて、とける。

花波橘果(はななみきっか)

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【16】ー1

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 張り切って本を分けていたら、思ったより遅くなってしまった。

(最近、日が伸びたから……)

 六時を回ってもまだ外は明るかった。

 午前中に買った食材を詰めたエコバッグを抱え、いそいそと細い路地に入った。
 慎一の店の階段を見上げた和希は「え…」と呟き、眉をひそめた。

(なんで、あの人がいるの?)

 階段の上の狭い踊り場に、ドアを開けた慎一と向き合って、カウンターの彼女が立っていた。

 立ち止まって見上げていると、ふいにドアの隙間から白くて小さいものが飛び出してきた。それはそのままトントントンと軽やかに階段を降りてきた。

「みるく! 出ちゃだめだよ」

 鉄の階段を途中まで降りてきたみるくは、和希の声に振り向いた。
 急いで近づこうとすると、ひょいっと手摺の隙間から地面に飛び降り、そのままビルとビルの間に入ってしまった。

「みるく!」

 エコバッグを放り出してビルの隙間を覗いたが、みるくの姿はすでになかった。人が入れるほどの幅はなく、和希は周囲を見回した。

(どこかから、向こう側に……)

「和希!」

 顔を上げると、慎一と女性が和希を見下ろしていた。同時に視界の隅を白いものが横切って、目で追うと、暮れ始めた路地の先にそれがチラリと見えた。

「みるく!」

 走り出す。
 背後で何か大きな音がしたが、振り返らずに走った。しかし、そばに行くと白い物体はただのレジ袋だった。

「みるく……」

 袋を拾ってビルの隙間を覗いた。

 外に出たことのないみるくは、自分で家に帰ることはできない気がする。

「みるく……、どこ? みるくー」

 夕闇が落ちはじめ、やがて空が藍色に変わる。奥に進むにつれて建物の光も届かなくなった。

「みるくー」

 暗くなった路地に立って、和希はみるくの名前を呼んだ。

「みるくー」
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