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【9】ー1

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 月曜日、カウンターで食事をしていると、一組の男女が店を覗いた。
 慎一がやわらかな笑顔を向けて迎えると、女性のほうがわずかに目を見開いて頬を染めるのがわかった。

 二人は入り口近くのカウンター席に座った。
 和希が席を立とうとすると、「もう少し、いたら?」と慎一が笑う。

「待っててくれれば、戻ってくるし」

 和希は頷いて、椅子に座り直した。

 カップルらしき二人は慎一にいくつか質問をして、それぞれ別のカクテルを注文した。
 女性は何かシェイクするものをと頼んだらしく、慎一が銀色のシェイカーに酒を入れて振り始める。

 手足が長く、身体の線が美しい慎一が銀の容器を振る姿は、ドラマか映画のワンシーンのようで、レトロな店によく映えた。
 カクテルグラスに透明の液体が注がれる。縁に飾られた砂糖と底に沈むミント・チェリーがアンティークな照明に照らされて、キラキラ光った。

 その全てに、和希はすっかり見とれてしまった。
 男性の前にはマティーニが置かれた。オリーブを浸したその有名なカクテルは、さすがに和希も名前を覚えた。

「シャカシャカってするの、かっこいいね」

 戻ってきた慎一に言った。

「何?気に入った?」
「うん。シャカシャカするのも飲みたい」
「普通のレシピで、これが飲めるようになったらな」

 まだ色の薄いブルーのカクテルを指で示して、慎一が笑った。

 翌日からは、カップルの女性だけが、一人で店にやってくるようになった。

 シェイカーを振る慎一を見つめ、瞳をきらきら輝かせている。和希の後ろを通りながら、岩田が苦笑交じりに囁いた。

「ありゃあ、慎一に惚れたな」
「モテそうですもんね…、慎一」
「あの顔だからな。背も高いしさ。でも、慎一は絶対、客の女の子とは付き合わないよ。あのこも、何回か通った後で告って振られて、来なくなるな」

 いつものことだと岩田が笑う。

「だから、女の客が増えないんだ。気持ちよく酒が飲めればいいっていう、ちょっとくたびれた勤め人のおっさんばっかり残る。まあ、先代の時からそうだったし、変わらないほうが、俺たちはありがたいけどな」
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