ふれて、とける。

花波橘果(はななみきっか)

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【8】ー3

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 そうできたらと、和希も思う。

「でも、慣れるために誰かにさわるのが、そもそも怖いんだよ。どうやって……」
「和希、俺にさわられるのは、わりと平気だろ?」
「あ、確かに」

 魔法の酒のせいかと思っていたが、今、こうして近くにいても、慎一の存在は少しも怖くない。

「もしかして、慎一って、特殊能力があるんじゃない?みるくも簡単に捕まっちゃったし」
「それは知らない。でも、こうやって……」

 みるくを下ろして、慎一が手を伸ばしてくる。その手が頬にふれた。

「こうやって、俺が和希をさわってれば……」

 なぜだか心臓がドキドキして、視線を逸らしてしまった。

「嫌……?」

 首を振ると、そのまま抱き寄せられて、鼓動が早くなる。

「こうやって、父さんや母さんのかわりに抱いてやるから。そしたらきっと、だんだんよくなるよ」

 長い腕に包まれて、和希は目を閉じた。

「怖くないだろ?」
「うん」

 本当はずっと、こんなふうに誰かにふれてほしかったのかもしれない。
 人の身体が温かいことを、和希は生まれて初めて知った気がした。

「和希はいい子だよ」

 髪を撫でられて、「何、それ」と笑う。

「自分の父さんや母さんを、責めてない。苦しくても、人のせいにしない。強くて優しい、いい子だ……」

 バカ、と口の中で言いながら、慎一の背にそっと手を回した。和希を抱く力を強くして、「いい子だ」と慎一が繰り返す。

「俺は、和希が大好きだ。和希のご両親も、きっとそうだ」

 とんとんと背中を叩かれて、なんだか泣きたくなった。

「少し間が悪かったんだな。だから、こうしてるうちに、きっと慣れる。大丈夫だ」

 うん、と温かい腕の中で頷いた。

 瞼を開くと、広い肩越しに飛行機雲が一本、青い空に綺麗な軌跡を描くのが見えた。

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