ふれて、とける。

花波橘果(はななみきっか)

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【4】ー3

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「赤い……? 何?」

「スイートピー」
「……どういう意味?」

 国民的大歌手の昭和の名曲に、そんな歌詞があるのだと説明する。半年経っても手をつながないシャイな男の歌である。

 校庭の花壇に揺れる花とともに、深く心に刻まれた闇の歴史が、和希の心に今よみがえる。

 辛い……。

「へ、へえ……」

 黙り込んだ和希の横で、慎一が顔を背けた。肩が小刻みに震えているのを見て、なんだろうと思う。
 もしや、泣いてくれているのか?

「慎一……?」

 ぶふっと漏れた息を聞き、笑いをこらえているのだと気づいた。

「な、なんだよ。人が悲しい思い出を噛みしめてる時に」

 頬を膨らませて睨むと、ごめん、と謝ったその口で、すぐに「あはは」と、今度は隠しもせずに笑い始めた。

「慎一!」
「ご、ごめん……。ちょっと、ツボに……」

 一度真顔になってから、またぷっと噴き出す男を唖然と見上げ、最後は呆れてため息を吐いた。

「いいよ。もう……」

 笑われてしまえば、いっそどうでもいいような気になってくる。今となっては確かに笑い話でしかないのかもしれない。

 繁みの下には、まだ子猫がいた。

「逃げないね」




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