9 / 74
【3】ー1
しおりを挟む
眩しさに瞼を開けると、見慣れない男の顔が目の前にあった。
ビクリと身体が強張るが、すぐに相手を認識して再び目を閉じた。
(ああ、慎一だ……)
半分眠ったまま、あれ……? ここはどこだっけ? と考える。
どうやらどこかに泊まったらしい。人生初の無断外泊だ。年齢を考えたら、いささか遅すぎ……。
直後、和希は飛び起きた。
「嘘……!」
自分が他人と同じベッドで眠ったという事実に気づき、雷にでも打たれたように驚く。
これこそ人生初の出来事だ。たださわるだけでも怖いのに、誰かのそばで眠るなんて、考えただけでぞっとする。
ぞっとする。
はずなのに……。
(普通に寝てた……。しかも、かなり、ぐっすり……)
記憶は曖昧だったが、帰らなくていいのかと何度も聞かれ、帰らないと言い張ったのは和希のほうだった気がする。
呆れた慎一に店の上の自宅まで運ばれたのだ。確か、慎一の背中に背負われて。
信じ難いことだが、その間、和希はすっかり安心しきっていた。
「嘘だ……」
借り物の少し大きなスウェットの上下を所在なく握りしめ、朝日の差し込む部屋で隣に横たわる男の寝顔を見た。
鼻筋が通っていて頬の肉が少ない。そのせいか、全体的に硬い印象を受けるが、とても綺麗な顔だ。
睫毛が長い。
ぼうっと見とれた後、枕元の時計で時刻を確かめた。午前八時を回ったところだった。
土曜日なので仕事は休みだが、ふだんならとっくに起きて部屋の掃除をしている時間だ。
公務員一家である日比野家の生活は、常に規則正しく、単調で、変化に乏しい。見知らぬ家のベッドの上で、昨日出会ったばかりの男と一緒にいるという状況は想定外である。
(どうすれば……)
途方に暮れつつスウェットの中を覗くと、腹に痣が出始めていた。頭のこぶをさわるとまだ痛い。
さわらなければ気にならない程度なので、そっとしておくことにする。
しばらく慎一の顔を見ていたが、起きる気配はなかった。すうすうと安らかな寝息を立てて、気持ちよさそうに眠っている。
何時まで店を開けていたのかわからないので、無闇に起こすのは悪い気がした。
かといって、黙って立ち去るのもどうかと思う。
思案の末、自分でも意外なことに、和希は再びベッドの中にもぐりこんだ。
ビクリと身体が強張るが、すぐに相手を認識して再び目を閉じた。
(ああ、慎一だ……)
半分眠ったまま、あれ……? ここはどこだっけ? と考える。
どうやらどこかに泊まったらしい。人生初の無断外泊だ。年齢を考えたら、いささか遅すぎ……。
直後、和希は飛び起きた。
「嘘……!」
自分が他人と同じベッドで眠ったという事実に気づき、雷にでも打たれたように驚く。
これこそ人生初の出来事だ。たださわるだけでも怖いのに、誰かのそばで眠るなんて、考えただけでぞっとする。
ぞっとする。
はずなのに……。
(普通に寝てた……。しかも、かなり、ぐっすり……)
記憶は曖昧だったが、帰らなくていいのかと何度も聞かれ、帰らないと言い張ったのは和希のほうだった気がする。
呆れた慎一に店の上の自宅まで運ばれたのだ。確か、慎一の背中に背負われて。
信じ難いことだが、その間、和希はすっかり安心しきっていた。
「嘘だ……」
借り物の少し大きなスウェットの上下を所在なく握りしめ、朝日の差し込む部屋で隣に横たわる男の寝顔を見た。
鼻筋が通っていて頬の肉が少ない。そのせいか、全体的に硬い印象を受けるが、とても綺麗な顔だ。
睫毛が長い。
ぼうっと見とれた後、枕元の時計で時刻を確かめた。午前八時を回ったところだった。
土曜日なので仕事は休みだが、ふだんならとっくに起きて部屋の掃除をしている時間だ。
公務員一家である日比野家の生活は、常に規則正しく、単調で、変化に乏しい。見知らぬ家のベッドの上で、昨日出会ったばかりの男と一緒にいるという状況は想定外である。
(どうすれば……)
途方に暮れつつスウェットの中を覗くと、腹に痣が出始めていた。頭のこぶをさわるとまだ痛い。
さわらなければ気にならない程度なので、そっとしておくことにする。
しばらく慎一の顔を見ていたが、起きる気配はなかった。すうすうと安らかな寝息を立てて、気持ちよさそうに眠っている。
何時まで店を開けていたのかわからないので、無闇に起こすのは悪い気がした。
かといって、黙って立ち去るのもどうかと思う。
思案の末、自分でも意外なことに、和希は再びベッドの中にもぐりこんだ。
10
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

嫌いなもの
すずかけあおい
BL
高校のときから受けが好きな攻め×恋愛映画嫌いの受け。
吉井は高2のとき、友人宅で恋愛映画を観て感動して大泣きしたことを友人達にばかにされてから、恋愛映画が嫌いになった。弦田はそのとき、吉井をじっと見ていた。
年月が過ぎて27歳、ふたりは同窓会で再会する。
〔攻め〕弦田(つるた)
〔受け〕吉井(よしい)
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる