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【29】-3

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 きっぱりと言い、それからひどく優しい顔で玲を見た。
「できるだけ、嫌な思いはさせないようにしますからね」
「大丈夫です」
 玲は咄嗟に答えていた。
「何か言われても、トモがいるし……」
 ぼそぼそ言うと「そうね」と瑤子は嬉しそうに笑った。そして、隣の夫に目をやり、安心したように頷き合っていた。
 
 

 拓馬の部屋に居候する時、家賃や食費の相談をしたら、「バーカ」と言われて受け取りを拒否された。
 周防の家に引っ越すに当たり、玲は同じことを打診した。
「社会人として……」
 真面目に口にする玲を、周防はまっすぐ見つめ返していた。
「玲がそうしたいなら、それでも……」
 いったんはそう言いかけたが、ふいに「篠田のところでは、どうしていた?」と周防は聞いた。家族のようなものだからいらないと言われたことを告げると、急に「嫌だ」と言いだした。
「篠田が家族なら、僕のほうがもっと家族だ。絶対に嫌だ。受け取りたくない」
「あの……」
「玲は、僕のパートナーだ。働かなくても、僕が養う」
「え、働くよ」
「働いてもいいが、僕が養う」
 何だかわからないが、いらないというのなら、ありがたく甘えることにする。
 荷物はそれほど多くなかった。
 社会人になった時に一度実家から引っ越し、その後拓馬のところに移り、今回が三度目だ。なんだか旅人のように、すっかり身軽になってしまった。
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