108 / 190
【21】-6
しおりを挟む
『ただ、母は父と二人でいる時、二頭の青い蝶を見た。そして、これは何かのお告げだと思ったらしい。そのことがあったから、どんなことがあっても立ち向かう覚悟ができたと言っていた』
何かを信じる気持ちも、人の心の本質だとトモは言った。
『誰にも侵すことのできない聖域、その人の真実の姿だよ』
ぼんやりと、四角い画面を見る。
断崖絶壁に人が集まり、ありとあらゆる二時間ドラマで刑事役を務める俳優が、事件のあらましをみんなに説明していた。
風が吹き、波が砕ける。
リモコンを手にして電源を切ると、急にあたりがしんと静かになった。
(どうして、忘れてたんだろう……。あんなに大事なことだったのに……)
忘れていたことにも気付かないまま、十二年も過ぎてしまった。
『自然に思い出せる時がきたら、その時は話していいって、お医者様には言われてたけど……』
本当に大丈夫かと、母は心配そうな顔で玲の目を見つめた。
『聞きたい』
玲の言葉に母は覚悟を決めたように頷く。
『……玲は、小さい頃、おかしな人に狙われることが本当に多くて……』
その事件も、そんな被害の一つだったのだと母は続けた。
高原鉄道を使ってケアンズ駅に戻ってきたトモと玲は、十五分ほどの距離をホテルまで歩いた。後になってわかったことだが、男はそこで玲に目をつけたのだった。
玲を母の元に帰すため、トモはフロントに向かい、内線電話をかけていた。手を伸ばせばすぐに捕まえられる距離に玲を立たせ、服の裾を握らせていたと、ホテルのフロント係が証言している。
それは、一瞬だった。
男は玲を抱き抱えるようにさらい、人の間を縫って建物の外に走りでた。
『玲っ!』
『トモ……っ』
荷物も電話も放り出し、トモは男を追いかけた。
何かを信じる気持ちも、人の心の本質だとトモは言った。
『誰にも侵すことのできない聖域、その人の真実の姿だよ』
ぼんやりと、四角い画面を見る。
断崖絶壁に人が集まり、ありとあらゆる二時間ドラマで刑事役を務める俳優が、事件のあらましをみんなに説明していた。
風が吹き、波が砕ける。
リモコンを手にして電源を切ると、急にあたりがしんと静かになった。
(どうして、忘れてたんだろう……。あんなに大事なことだったのに……)
忘れていたことにも気付かないまま、十二年も過ぎてしまった。
『自然に思い出せる時がきたら、その時は話していいって、お医者様には言われてたけど……』
本当に大丈夫かと、母は心配そうな顔で玲の目を見つめた。
『聞きたい』
玲の言葉に母は覚悟を決めたように頷く。
『……玲は、小さい頃、おかしな人に狙われることが本当に多くて……』
その事件も、そんな被害の一つだったのだと母は続けた。
高原鉄道を使ってケアンズ駅に戻ってきたトモと玲は、十五分ほどの距離をホテルまで歩いた。後になってわかったことだが、男はそこで玲に目をつけたのだった。
玲を母の元に帰すため、トモはフロントに向かい、内線電話をかけていた。手を伸ばせばすぐに捕まえられる距離に玲を立たせ、服の裾を握らせていたと、ホテルのフロント係が証言している。
それは、一瞬だった。
男は玲を抱き抱えるようにさらい、人の間を縫って建物の外に走りでた。
『玲っ!』
『トモ……っ』
荷物も電話も放り出し、トモは男を追いかけた。
11
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。

Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる