サンドリヨンは眠れない

花波橘果(はななみきっか)

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【13】-4

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 それでも……。
(俺が、「レイ」になって、周防さんに返してもらうしかないよな……)
 逃げていても仕方がない。
 気が重いし、バレたら完全に心が折れると思う。
 それに……。
(きっと、がっかりするんだろうな……)
 「レイ」が男だと知ったら。
 周防という王子様は女性が好きなのだ。初対面のモデルにいきなりあんなキスをするくらい……。
 そう思うと、胸が痛かった。
 どんよりした気持ちでカウンターの中に立ち、終わることなくかかってくる電話の番を続ける。午後のなると、ようやく少しは落ち着いてきた。店にかけても無駄だとわかったのだろう。
 通常の静けさを取り戻した店を、身なりのいい中年女性の二人連れが覗いた。
 最近は女性同士の来店が増えたと葛西と高山が言っていた。生活にゆとりがあり、自分のためにジュエリーを買う人たちだ。今日すぐに商品を購入することはなくても、何かの機会に『SHINODA』を利用してくれる大事な客筋だと教えられた。
 高山が声をかけ、にこやかに対応する。
 二人の婦人は、口々に「周防ホテルにしては、ここのスタッフは若い」、「ロビーを通ってきたが、とても目を引くイケメンスタッフがいた」などと、はしゃぎながら話している。二人に合わせて、高山も「どの方かしら」などと言って笑っていた。
 強化ガラスの向こう側に目をやると、ブランドストリートは相変わらず静かだった。選ばれた人だけが足を踏み入れる聖域。
 威厳のある、落ち着いた佇まいの通りが午後の光の中に横たわっている。
 
 
 
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