35 / 190
【9】-1
しおりを挟む
「待たせたかな」
周防が『SHINODA』に戻ってきたのは、正午をまわった頃だった。同行していた秘書や部下の姿はなく、周防一人が店の中に入ってくる。
葛西と高山が見守る中、玲はカウンターを出て周防の前に立った。
「君の意思を聞いていなかったな。食事を一緒に取りたいが、都合はどうかな」
「と、特に、問題はないかと……」
玲の答えに周防はにこりと笑った。破壊力のあるキラキラの笑顔だ。王子の微笑。葛西と高山がカウンターの奥で息を飲み、手を取り合ってうるうると目を潤ませる。
「あ……」
パテック・フィリップの腕時計に目をやり、周防が「しまったな」と眉を寄せた。
「こちらから誘っておいて申し訳ないんだが、実は少し時間が厳しい……」
上の階に用意してある執務用のスイートに同行してもらえるか聞かれ、玲は困惑した。
「ホテルの、部屋にですか……?」
「ああ。悪いんだが……」
「どうしても?」
顔を曇らせる玲に、周防が心配そうな目を向ける。
「何か問題があるのか?」
ある気がする。
玲は考えた。周防は午後いっぱい玲を借りると言っていたはずだ。時間がないから部屋に来いというのは、その言葉と矛盾する。
葛西と高山が心配そうにこちらを見ている。ホテルの重役である周防の機嫌を損ねるのはまずいと思っているのだろう。
しかし、玲は、勇気を振り絞って聞いた。
「へ、部屋に行って、何をするつもりですか」
「何、とは?」
見た目に騙されてはいけない。目を眇めて『麗しの王子』の美しく整った顔を見据える。
この男は、出会ってすぐのモデルを誘惑し、高価なネックレスをサクッと奪った天性の「たらし」だ。
「何をするんですか」
「だから、食事を……」
「本当に、食事だけですか?」
「ああ。ほかに何を……」
周防が『SHINODA』に戻ってきたのは、正午をまわった頃だった。同行していた秘書や部下の姿はなく、周防一人が店の中に入ってくる。
葛西と高山が見守る中、玲はカウンターを出て周防の前に立った。
「君の意思を聞いていなかったな。食事を一緒に取りたいが、都合はどうかな」
「と、特に、問題はないかと……」
玲の答えに周防はにこりと笑った。破壊力のあるキラキラの笑顔だ。王子の微笑。葛西と高山がカウンターの奥で息を飲み、手を取り合ってうるうると目を潤ませる。
「あ……」
パテック・フィリップの腕時計に目をやり、周防が「しまったな」と眉を寄せた。
「こちらから誘っておいて申し訳ないんだが、実は少し時間が厳しい……」
上の階に用意してある執務用のスイートに同行してもらえるか聞かれ、玲は困惑した。
「ホテルの、部屋にですか……?」
「ああ。悪いんだが……」
「どうしても?」
顔を曇らせる玲に、周防が心配そうな目を向ける。
「何か問題があるのか?」
ある気がする。
玲は考えた。周防は午後いっぱい玲を借りると言っていたはずだ。時間がないから部屋に来いというのは、その言葉と矛盾する。
葛西と高山が心配そうにこちらを見ている。ホテルの重役である周防の機嫌を損ねるのはまずいと思っているのだろう。
しかし、玲は、勇気を振り絞って聞いた。
「へ、部屋に行って、何をするつもりですか」
「何、とは?」
見た目に騙されてはいけない。目を眇めて『麗しの王子』の美しく整った顔を見据える。
この男は、出会ってすぐのモデルを誘惑し、高価なネックレスをサクッと奪った天性の「たらし」だ。
「何をするんですか」
「だから、食事を……」
「本当に、食事だけですか?」
「ああ。ほかに何を……」
1
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
少年売買契約
眠りん
BL
殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。
闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。
性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。
表紙:右京 梓様
※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。
執事の嗜み
桃瀬わさび
BL
数奇な縁でヴィルフリートの執事となったケヴィンには、裏の顔がある。
当人が「執事の嗜み」とのたまうその手練手管を用いて、ヴィルフリートの異母兄・マティアスにお仕置きをしたのがきっかけで、ケヴィンとマティアスの運命の糸が絡まっていきーーー。
執事✕元王子。
転生したら精霊になったみたいです?のスピンオフです。前作をお読みいただいてからの方が楽しくお読み頂けると思います。
甘い香りは運命の恋~薄幸の天使Ωは孤高のホストαに溺愛される~
氷魚(ひお)
BL
電子書籍化のため、2024年4月30日に、一部を残して公開終了となります。
ご了承ください<(_ _)>
電子書籍の方では、暴力表現を控えめにしているので、今よりは安心して読んで頂けると思います^^
※イジメや暴力的な表現、エロ描写がありますので、苦手な方はご注意ください
※ハピエンです!
※視点が交互に変わるため、タイトルに名前を記載しています
<あらすじ>
白亜(はくあ)が10歳の時に、ママは天国へ行ってしまった。
独りぼっちになり、食堂を営む伯父の家に引き取られるが、従姉妹と伯母にバカと蔑まれて、虐められる。
天使のように純粋な心を持つ白亜は、助けを求めることもできず、耐えるだけの日々を送っていた。
心の支えは、ママからもらった、ぬいぐるみのモモだけ。
学校にも行かせてもらえず、食堂の手伝いをしながら、二十歳になった。
一方、嶺二(れいじ)は、ナンバーワンホストとして働いている。
28歳と若くはないが、誰にも媚びず、群れるのが嫌いな嶺二は、「孤高のアルファ」と呼ばれ人気を博していた。
家族も恋人もおらず、この先も一人で生きていくつもりだった。
ある日、嶺二は、不良に絡まれた白亜を見かける。
普段なら放っておくはずが、何故か気にかかり、助けてしまった。
偶然か必然か。
白亜がその場で、発情(ヒート)してしまった。
むせかえるような、甘い香りが嶺二を包む。
煽られた嶺二は本能に抗えず、白亜を抱いてしまう。
――コイツは、俺のモノだ。
嶺二は白亜に溺れながら、甘く香るうなじに噛みついた…!
【R18】僕とあいつのいちゃラブな日々
紫紺(紗子)
BL
絶倫美形ギタリスト×欲しがりイケメンマネの日常。
大人男子のただただラブラブでえっちな日々を綴ります。
基本、1話完結です。
どこをつまんでも大丈夫。毎回何かしらいちゃつきます(回によってはエロ強めのお話もございます)。
物足りない夜のお供にいかがですか? もちろん朝でも昼でもOKです。
【R18】【Bl】イケメン生徒会長αは俺の運命らしいです。えっと俺βなんですが??
ペーパーナイフ
BL
俺はΩの高校2年ナギ。この春、αとΩだけの学園に転校した。しかし転校数日前にストレス性変異によって、突然性別がβに変わってしまった!
Ωクラスに入ったもののバカにされる毎日。そんなとき学園一のαである生徒会長から
「お前は俺の運命だ」と言われてしまい…。
いや、俺今βなんですが??
βに変わり運命の匂いがわからず攻めから逃げようとする受け。アホな受けがαにえっちな溺愛されます。
注意
無理やり 自慰 玩具 フェラ 中出し 何でもありな人向け
妊娠可能ですが、主人公は妊娠しません
リバなし
無理やりだけど愛はある
ほぼエロ ストーリー薄め
オメガバース独自設定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる