小説を書くと眠くなる

鵜海喨

文字の大きさ
上 下
1 / 1

眠気

しおりを挟む
 小説を描くと眠くなる。

 日の落ちる海の麓。渚がケラケラ笑い、砂は踊った。翻って空は落ち着いた澄んだ色。私は小説を描いていた。ただ、美しいだけの面白みのない絵画。

 それでも宝石如く人を魅了するのだろう、その面を私は正直、なんとも思っていない。
 これは、自分への慰めに等しい。眠気を誘う執筆。日頃疲れた肉体すら、そうやすやすと休ませてくれない世界への対抗手段。ただそれだけで。

 無駄な羅列。まるでノイズのよう。
 ホワイトノイズ、ブラウンノイズなどとたくさんの種類があるけれど、このノイズはさぞ酷く美しく、聞き流す事の出来ない物。私はそう思う。

 淀んだ思考。闇を抱く空気。お布団の温もり。

 鳥は鳴き、かわずは笑った。
 蛍は誇り、海月は迷う。

 美しい世界。さぞ私は不格好。

 幸せとは、絶望を知り得なければ得られない。不眠も眠る幸せの明暗差コントラストなのだろう。

 人は汚さを知って初めて美しさを知る。当たり前を知るには失うしかない。
 虐めは友の大切さを知り、自傷はする必要のない日常を知る。

 文章は美しい。音とも違う只管に感じ想像する、自分にあった想像美。
 私は文章の汚さを知っている。だから美しく描くのだ。

 絶望すら幸せに感じる為、より深い絶望を知る必要がある。つまり絶望は幸に等しい。上げるのは難しい。一方で下げるのは簡単だ。

 普通は幸せか?

 私は歪んだ笑顔で「幸せだ」と答える。

 最近ぼーっとする事の素晴らしさに気付いた。これは、忙しさによって認知できた幸せだ。

 皮肉な物だ。

 私は、人が愚かだと思いました。
 でも、人間だからだとも思いました。
 すると、人間はけだものと一緒で悲しい心になりました。
 動物は可愛いです。でも、なんだか人間と違う気がします。なんでですか?

 書いていて馬鹿馬鹿しい。笑える。

 私は、そっと水面に向かって足を進めた。指の隙間に入る砂が私をくすぐるが、それでも進める。

 揺れ動く渚に手を添えて赤子を抱くように水を掬い、口に運ぶ。含めば強い塩味。
 反射的に肺が動いて、盛大にむせてしまったが、これでいい。
 飲水がどれだけ幸せか。

 私は砂浜に寝そべり、目を閉じる。

 おやすみ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...