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1.霊感テスト
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僕はT大学に今年入った一年生だ。
大学と言えばやはりサークルだが、僕は既にどこに入るかを決めていた。
「狂言の面白さを研究しませんか!」「綺麗な音色は心を洗う。吹奏楽部ー!」「君、良い身長だね!バスケ部どうかな!?」
様々な勧誘を軽い会釈でやり過ごしつつサークル棟の奥に進んで行く。祭りのような賑やかさが段々と遠くなる。棟の一番隅にお目当てのサークルはあった。
『オカ研』
そう一言だけ書かれた紙がドアに貼ってあった。
深呼吸をしてから、ドアを開ける。
「失礼します。」
中に入ると男性と目が合う。
「入部希望?」
頷くと、おいでと手招きをされた。
思ったよりも広い部室には灰皿や空き缶などが転がっている汚い机とソファ、オカルト関連の本が並べられている本棚が置かれている。
キョロキョロと中を見渡していると、少しぽっちゃりめの男性が手を差し出した。
「部長の岡 健太郎。ようこそ。」
「今井慎二です。よろしくお願いします。」
その手を握ると、突然手首を捻られた。
「うっわ君、生命線短いね。30くらいで死ぬんじゃない?」
初対面の男に自分の手のひらをガン見されたことよりも、突然の余命宣告にショックを受けた。
「まじすか?」
自分の手をまじまじと見る。確かに短いかもしれない。
「部長のはよく当たるんだよね~。ご愁傷さま。」
真奈美と名乗った女性がソファで本を読みながら、からかってくる。本の背表紙に『黒魔術』と書かれているのは気にしないでおこう。
しかし、と辺りをもう一度見渡す。部室内には岡部長と真奈美先輩以外の部員はあと2人しかいなかった。どちらも僕には興味無さそうに、各自の作業を行っている。
「部員は何人いるんですか?」
「ここにいるので全員だよ。」
驚いた。いくらオカ研とは言え、5人しかいないとは。
「人数少ないっすね。」
「結構出るからねぇ。」
部長がしみじみと言いながら、自分の短い髭をジョリジョリさする。
「やっぱ幽霊がですか?」
「いや、死人が。」
冷や汗が流れた。
「嫌だなぁ冗談だよ!」
あはははと笑う部長の目は心なしか死んでいた。
「さてと」
部長が手を叩く。
「じゃあ、新人の君に軽い霊感テストをしようか。」
「霊感テスト?」
「そう。目を瞑って、家の中を回る想像をするってやつあるでしょ。あれのオリジナル版。」
知ってる。だいぶ有名だ。それのオリジナル版と聞くと、興味がある。
「えーあれやるんですか!?」
真奈美先輩が本から顔を上げて苦い顔でこちらを見た。
だいぶ悪趣味だからやめた方がいいと助言されたが、そう言われるとより好奇心が揺さぶられる。
ここのオカ研がどういったレベルの場所か確かめるためにも、やらせてもらうことにした。
目を瞑ると、すぐに部長が僕に指示をする。
「君は家の中にいる。自室にあるクローゼットを開けると、姿見鏡があった。それを部屋の中心まで運ぼうか。」
なぜ姿見?そう思いながら、指示通りに姿見を持ち上げて部屋の中心に置く。
「運んだら鏡の前で△をしたまま右を見て。」
あれ、これどこかで聞いたことがある。なんだっけ。
何で聞いたのか思い出せないまま、僕は△をしながら右を見る。
ぎょっとした。
岡部長を含むオカ研のメンバー全員が自分のすぐ隣に立っていた。
彼らは顔を小刻みに揺らしながら何かを呟いている。
「ドォールルシッテ」
「?」
上手く聞き取れず、少し体を右に寄せた。
「ドォーシテドォーシテ」
どうして
言葉の意味が分かると同時に、今している体験と同じ話を思い出した。
ああ、これはあれだ。リア-
「いいよ、目を開けて。」
「!!」
部長の声で我に返り、目を開ける。
「はぁはぁはぁ」
嫌な汗がどっと吹き出る。
首に痛みを覚えた。
そっと首に手を当てると、汗が血を含んだように赤い。
驚きのあまり固まっていると、
「ねぇ!」
真奈美先輩が僕の肩を掴んで揺さぶった。
「隣に誰かいた?」
「え、あぁはい。」
「誰が?知り合い?」
先程の光景を伝えるべきか悩んだが、正直に答えた。
「ここにいる先輩たち全員、いました。」
先程まで僕に一切の関心も示さなかった先輩を含め、全員がこちらを凝視した。
「…え」
突然、突き飛ばされ尻もちをつく。
何故かその時に自分の手を見たが、血は付いていなかった。
色々と理解が追いつかず、ボーッと突き飛ばした本人である真奈美先輩を見た。
「なにそれ意味わかんない!そういうふざけまじ萎えるから!」
そしてそのまま、部室の扉を開けどこかに行ってしまった。
「いいね君ぃ。」
ニヤニヤとした笑みで部長が僕を見る。
「このテストなんだったんですか。」
「これねぇ、自分の隣にいた人が近いうちに死ぬ、ってやつ。」
当たるんだ、これが。
嬉しそうに言う部長の言葉に、再び冷や汗が流れた。
大学と言えばやはりサークルだが、僕は既にどこに入るかを決めていた。
「狂言の面白さを研究しませんか!」「綺麗な音色は心を洗う。吹奏楽部ー!」「君、良い身長だね!バスケ部どうかな!?」
様々な勧誘を軽い会釈でやり過ごしつつサークル棟の奥に進んで行く。祭りのような賑やかさが段々と遠くなる。棟の一番隅にお目当てのサークルはあった。
『オカ研』
そう一言だけ書かれた紙がドアに貼ってあった。
深呼吸をしてから、ドアを開ける。
「失礼します。」
中に入ると男性と目が合う。
「入部希望?」
頷くと、おいでと手招きをされた。
思ったよりも広い部室には灰皿や空き缶などが転がっている汚い机とソファ、オカルト関連の本が並べられている本棚が置かれている。
キョロキョロと中を見渡していると、少しぽっちゃりめの男性が手を差し出した。
「部長の岡 健太郎。ようこそ。」
「今井慎二です。よろしくお願いします。」
その手を握ると、突然手首を捻られた。
「うっわ君、生命線短いね。30くらいで死ぬんじゃない?」
初対面の男に自分の手のひらをガン見されたことよりも、突然の余命宣告にショックを受けた。
「まじすか?」
自分の手をまじまじと見る。確かに短いかもしれない。
「部長のはよく当たるんだよね~。ご愁傷さま。」
真奈美と名乗った女性がソファで本を読みながら、からかってくる。本の背表紙に『黒魔術』と書かれているのは気にしないでおこう。
しかし、と辺りをもう一度見渡す。部室内には岡部長と真奈美先輩以外の部員はあと2人しかいなかった。どちらも僕には興味無さそうに、各自の作業を行っている。
「部員は何人いるんですか?」
「ここにいるので全員だよ。」
驚いた。いくらオカ研とは言え、5人しかいないとは。
「人数少ないっすね。」
「結構出るからねぇ。」
部長がしみじみと言いながら、自分の短い髭をジョリジョリさする。
「やっぱ幽霊がですか?」
「いや、死人が。」
冷や汗が流れた。
「嫌だなぁ冗談だよ!」
あはははと笑う部長の目は心なしか死んでいた。
「さてと」
部長が手を叩く。
「じゃあ、新人の君に軽い霊感テストをしようか。」
「霊感テスト?」
「そう。目を瞑って、家の中を回る想像をするってやつあるでしょ。あれのオリジナル版。」
知ってる。だいぶ有名だ。それのオリジナル版と聞くと、興味がある。
「えーあれやるんですか!?」
真奈美先輩が本から顔を上げて苦い顔でこちらを見た。
だいぶ悪趣味だからやめた方がいいと助言されたが、そう言われるとより好奇心が揺さぶられる。
ここのオカ研がどういったレベルの場所か確かめるためにも、やらせてもらうことにした。
目を瞑ると、すぐに部長が僕に指示をする。
「君は家の中にいる。自室にあるクローゼットを開けると、姿見鏡があった。それを部屋の中心まで運ぼうか。」
なぜ姿見?そう思いながら、指示通りに姿見を持ち上げて部屋の中心に置く。
「運んだら鏡の前で△をしたまま右を見て。」
あれ、これどこかで聞いたことがある。なんだっけ。
何で聞いたのか思い出せないまま、僕は△をしながら右を見る。
ぎょっとした。
岡部長を含むオカ研のメンバー全員が自分のすぐ隣に立っていた。
彼らは顔を小刻みに揺らしながら何かを呟いている。
「ドォールルシッテ」
「?」
上手く聞き取れず、少し体を右に寄せた。
「ドォーシテドォーシテ」
どうして
言葉の意味が分かると同時に、今している体験と同じ話を思い出した。
ああ、これはあれだ。リア-
「いいよ、目を開けて。」
「!!」
部長の声で我に返り、目を開ける。
「はぁはぁはぁ」
嫌な汗がどっと吹き出る。
首に痛みを覚えた。
そっと首に手を当てると、汗が血を含んだように赤い。
驚きのあまり固まっていると、
「ねぇ!」
真奈美先輩が僕の肩を掴んで揺さぶった。
「隣に誰かいた?」
「え、あぁはい。」
「誰が?知り合い?」
先程の光景を伝えるべきか悩んだが、正直に答えた。
「ここにいる先輩たち全員、いました。」
先程まで僕に一切の関心も示さなかった先輩を含め、全員がこちらを凝視した。
「…え」
突然、突き飛ばされ尻もちをつく。
何故かその時に自分の手を見たが、血は付いていなかった。
色々と理解が追いつかず、ボーッと突き飛ばした本人である真奈美先輩を見た。
「なにそれ意味わかんない!そういうふざけまじ萎えるから!」
そしてそのまま、部室の扉を開けどこかに行ってしまった。
「いいね君ぃ。」
ニヤニヤとした笑みで部長が僕を見る。
「このテストなんだったんですか。」
「これねぇ、自分の隣にいた人が近いうちに死ぬ、ってやつ。」
当たるんだ、これが。
嬉しそうに言う部長の言葉に、再び冷や汗が流れた。
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