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第13章 2度目の学園生活
80 アスカルテがいない日々
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あれから一週間近くが経過した。
アスカルテは週末になった今でも王立学園に姿を見せていなかった。
それとなくカトレアなどにも確認してみたが、グラディウス公爵家からは少し休ませるという返事しかこなかったらしい。コルネリアスも王城で話した時には元気だったそうで体調を崩しているとは考えづらいそうで不思議そうにしていた。
「今日も来ていないか……ん?」
朝、教室に行くと机の上に一つの封筒が置いてあった。
宛名も何も書いてない封筒だが封蝋がされている所を見るに貴族からの物だろう。封蝋には紋章がなく、よほど送り主を悟られたくないらしい。
簡単に検分してみるが刃物が仕込まれているわけでも魔術が仕掛けられているわけでもなかった。単純に手紙のようだ。
「どうしたの?」
封筒を表裏を確認していると、教室に入ってきたマリアが不思議そうに声をかけてきた。
「朝来たら手紙が置いてあってね……愛のこもったラブレターみたい」
封蝋を開けた手紙に目を通すと授業が終わった後に特別棟端の教室に1人で来て欲しいと書かれていた。
態々人気のない場所に呼びつけるなんてよほど照れ屋のようだ。
「ティアって知らない人から見ると儚い深層の令嬢って感じがするものね。告白されるのもわかる気がするよ」
「ま、私はコルネリアス一筋だから贈り主には悪いけどお断りしないとね」
「ははは……噂が流れてから増えたよね」
私とコルネリアスのことを応援してくれているのはごく一部の人だけだ。多数の貴族たち、それこそ王立学園に通う王侯貴族の子息令嬢たちのほとんどは、コルネリアスとアスカルテの婚約をお似合いで家格的にも順当と思っているだろう。
そのような理由もあってか時折貴族の令息たちから告白されることがあった。平民とはいえ膨大な魔力と稀有な適性を持つ私は、是非取り込みたい相手ということだ。
特にコルネリアスの婚約が発表されたことでフリーになったと考えたせいか、ここ数日は頻度が増えていた。
一日の授業が終わった後、私は手紙の送り主に会いに向かった。
手紙に指定されていた特別棟の端にある教室は、音楽の授業のための楽器の演奏室になっていて、私たちのクラスのある建物と隣接している特別棟にある。
放課後ということで人は少なく、特別棟に足を踏み入れると誰もいない静寂な空間が広がっている。そのまま階段を登って目的の教室に向かうと、部屋の中には誰の姿もなかった。
「さて……ちょうど、時間どおりみたいだね」
教室の外から三人の気配が真っ直ぐに近づいてくる。そのまま入り口のすぐ近くまで来て扉が開けられると、そこには三人の令嬢の姿があった。
「きちんと来たようですわね」
三人のうち先頭にいた銀髪の令嬢は私のことを見つけると真剣そうな表情で言葉にした。
「ええ。ご丁寧な招待を無碍にするわけにはいきませんから。まさか三人のご令嬢から告白されるとは思いませんでしたけど」
「は?何も言っていますの?」
「でも、ごめんなさい。私はコルネリアス一筋って決めてるので」
「ちょっと!?何故、わたくしが振られたような口ぶりなのですか!」
「クラウディア様落ち着いてください」
「そうです。あの平民の言葉に心を乱される必要はありません」
彼女の後ろにいる二人の令嬢は、どうやら単なる取り巻きのような存在ではないらしい。上下関係を感じさせながらも彼女たちの言葉からはクラウディアのことを案じている節を感じた。身分差こそあれど、友人のようなものなのだろう。
「わかっていますわ。わたくしは平常心ですもの」
クラウディアはコホンと咳ばらいをして仕切りなおすかのように私のことを見る。
「貴方を呼び出した理由ですがコルネリアス殿下とアスカルテ様のことです。ただでさえお二人に対して身分を弁えずに気安く接しているというのに、婚約者がいる異性相手に近しい距離で親しくするなど何事ですか?」
「私とコルネリアスは愛し合っていますし、アスカルテも知っていることですよ」
婚約している相手と愛し合っているなんて、まるで悪役のような言葉だと内心で苦笑する。けれど、私もコルネリアスもアスカルテも、三人全員の幸せを掴むためにはこの方法が最善だろう。
本当はアスカルテと話してからが良かったが、これはコルネリアスと話し合って決めたことだった。
「それにコルネリアスと触れ合っていることはありませんし人目のない場所で二人きりになるようなこともしていません」
密室などに二人きりになっても許されるのは家族か婚約相手のような特別な関係だけだ。さらにはエスコートやダンス以外で異性の肌に触れ合うことは貴族の常識としてはあり得ないことだろう。
私とコルネリアスの距離は異性の友人としては近すぎても婚約者しか踏み込めないラインのギリギリ外。王侯貴族の常識ではギリギリセーフな距離だ。
「っ……貴族の結婚に愛なんて不要です。全ては家同士で決めること。たとえ元々愛し合っていたとしても、王侯貴族の責務を放棄して愛を取るなんて許されません。あなたはアスカルテ様を陥れてまで愛を取りたいのですか!?あんな噂まで流すなんて……」
「ちょっと待ってください。噂ってなんですか?」
「はあ?白々しい真似を……公爵令嬢としての立場を使って愛し合う二人を引き裂く悪女。そのような噂を流して得するのは貴方たちくらいではありませんか?」
アスカルテは週末になった今でも王立学園に姿を見せていなかった。
それとなくカトレアなどにも確認してみたが、グラディウス公爵家からは少し休ませるという返事しかこなかったらしい。コルネリアスも王城で話した時には元気だったそうで体調を崩しているとは考えづらいそうで不思議そうにしていた。
「今日も来ていないか……ん?」
朝、教室に行くと机の上に一つの封筒が置いてあった。
宛名も何も書いてない封筒だが封蝋がされている所を見るに貴族からの物だろう。封蝋には紋章がなく、よほど送り主を悟られたくないらしい。
簡単に検分してみるが刃物が仕込まれているわけでも魔術が仕掛けられているわけでもなかった。単純に手紙のようだ。
「どうしたの?」
封筒を表裏を確認していると、教室に入ってきたマリアが不思議そうに声をかけてきた。
「朝来たら手紙が置いてあってね……愛のこもったラブレターみたい」
封蝋を開けた手紙に目を通すと授業が終わった後に特別棟端の教室に1人で来て欲しいと書かれていた。
態々人気のない場所に呼びつけるなんてよほど照れ屋のようだ。
「ティアって知らない人から見ると儚い深層の令嬢って感じがするものね。告白されるのもわかる気がするよ」
「ま、私はコルネリアス一筋だから贈り主には悪いけどお断りしないとね」
「ははは……噂が流れてから増えたよね」
私とコルネリアスのことを応援してくれているのはごく一部の人だけだ。多数の貴族たち、それこそ王立学園に通う王侯貴族の子息令嬢たちのほとんどは、コルネリアスとアスカルテの婚約をお似合いで家格的にも順当と思っているだろう。
そのような理由もあってか時折貴族の令息たちから告白されることがあった。平民とはいえ膨大な魔力と稀有な適性を持つ私は、是非取り込みたい相手ということだ。
特にコルネリアスの婚約が発表されたことでフリーになったと考えたせいか、ここ数日は頻度が増えていた。
一日の授業が終わった後、私は手紙の送り主に会いに向かった。
手紙に指定されていた特別棟の端にある教室は、音楽の授業のための楽器の演奏室になっていて、私たちのクラスのある建物と隣接している特別棟にある。
放課後ということで人は少なく、特別棟に足を踏み入れると誰もいない静寂な空間が広がっている。そのまま階段を登って目的の教室に向かうと、部屋の中には誰の姿もなかった。
「さて……ちょうど、時間どおりみたいだね」
教室の外から三人の気配が真っ直ぐに近づいてくる。そのまま入り口のすぐ近くまで来て扉が開けられると、そこには三人の令嬢の姿があった。
「きちんと来たようですわね」
三人のうち先頭にいた銀髪の令嬢は私のことを見つけると真剣そうな表情で言葉にした。
「ええ。ご丁寧な招待を無碍にするわけにはいきませんから。まさか三人のご令嬢から告白されるとは思いませんでしたけど」
「は?何も言っていますの?」
「でも、ごめんなさい。私はコルネリアス一筋って決めてるので」
「ちょっと!?何故、わたくしが振られたような口ぶりなのですか!」
「クラウディア様落ち着いてください」
「そうです。あの平民の言葉に心を乱される必要はありません」
彼女の後ろにいる二人の令嬢は、どうやら単なる取り巻きのような存在ではないらしい。上下関係を感じさせながらも彼女たちの言葉からはクラウディアのことを案じている節を感じた。身分差こそあれど、友人のようなものなのだろう。
「わかっていますわ。わたくしは平常心ですもの」
クラウディアはコホンと咳ばらいをして仕切りなおすかのように私のことを見る。
「貴方を呼び出した理由ですがコルネリアス殿下とアスカルテ様のことです。ただでさえお二人に対して身分を弁えずに気安く接しているというのに、婚約者がいる異性相手に近しい距離で親しくするなど何事ですか?」
「私とコルネリアスは愛し合っていますし、アスカルテも知っていることですよ」
婚約している相手と愛し合っているなんて、まるで悪役のような言葉だと内心で苦笑する。けれど、私もコルネリアスもアスカルテも、三人全員の幸せを掴むためにはこの方法が最善だろう。
本当はアスカルテと話してからが良かったが、これはコルネリアスと話し合って決めたことだった。
「それにコルネリアスと触れ合っていることはありませんし人目のない場所で二人きりになるようなこともしていません」
密室などに二人きりになっても許されるのは家族か婚約相手のような特別な関係だけだ。さらにはエスコートやダンス以外で異性の肌に触れ合うことは貴族の常識としてはあり得ないことだろう。
私とコルネリアスの距離は異性の友人としては近すぎても婚約者しか踏み込めないラインのギリギリ外。王侯貴族の常識ではギリギリセーフな距離だ。
「っ……貴族の結婚に愛なんて不要です。全ては家同士で決めること。たとえ元々愛し合っていたとしても、王侯貴族の責務を放棄して愛を取るなんて許されません。あなたはアスカルテ様を陥れてまで愛を取りたいのですか!?あんな噂まで流すなんて……」
「ちょっと待ってください。噂ってなんですか?」
「はあ?白々しい真似を……公爵令嬢としての立場を使って愛し合う二人を引き裂く悪女。そのような噂を流して得するのは貴方たちくらいではありませんか?」
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