王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
470 / 475
第13章 2度目の学園生活

80 アスカルテがいない日々

しおりを挟む
 あれから一週間近くが経過した。
 アスカルテは週末になった今でも王立学園に姿を見せていなかった。
 それとなくカトレアなどにも確認してみたが、グラディウス公爵家からは少し休ませるという返事しかこなかったらしい。コルネリアスも王城で話した時には元気だったそうで体調を崩しているとは考えづらいそうで不思議そうにしていた。

「今日も来ていないか……ん?」

 朝、教室に行くと机の上に一つの封筒が置いてあった。
 宛名も何も書いてない封筒だが封蝋がされている所を見るに貴族からの物だろう。封蝋には紋章がなく、よほど送り主を悟られたくないらしい。
 簡単に検分してみるが刃物が仕込まれているわけでも魔術が仕掛けられているわけでもなかった。単純に手紙のようだ。

「どうしたの?」

 封筒を表裏を確認していると、教室に入ってきたマリアが不思議そうに声をかけてきた。

「朝来たら手紙が置いてあってね……愛のこもったラブレターみたい」

 封蝋を開けた手紙に目を通すと授業が終わった後に特別棟端の教室に1人で来て欲しいと書かれていた。
 態々人気のない場所に呼びつけるなんてよほど照れ屋のようだ。

「ティアって知らない人から見ると儚い深層の令嬢って感じがするものね。告白されるのもわかる気がするよ」

「ま、私はコルネリアス一筋だから贈り主には悪いけどお断りしないとね」

「ははは……噂が流れてから増えたよね」

 私とコルネリアスのことを応援してくれているのはごく一部の人だけだ。多数の貴族たち、それこそ王立学園に通う王侯貴族の子息令嬢たちのほとんどは、コルネリアスとアスカルテの婚約をお似合いで家格的にも順当と思っているだろう。
 そのような理由もあってか時折貴族の令息たちから告白されることがあった。平民とはいえ膨大な魔力と稀有な適性を持つ私は、是非取り込みたい相手ということだ。
 特にコルネリアスの婚約が発表されたことでフリーになったと考えたせいか、ここ数日は頻度が増えていた。



 一日の授業が終わった後、私は手紙の送り主に会いに向かった。
 手紙に指定されていた特別棟の端にある教室は、音楽の授業のための楽器の演奏室になっていて、私たちのクラスのある建物と隣接している特別棟にある。
 放課後ということで人は少なく、特別棟に足を踏み入れると誰もいない静寂な空間が広がっている。そのまま階段を登って目的の教室に向かうと、部屋の中には誰の姿もなかった。

「さて……ちょうど、時間どおりみたいだね」

 教室の外から三人の気配が真っ直ぐに近づいてくる。そのまま入り口のすぐ近くまで来て扉が開けられると、そこには三人の令嬢の姿があった。

「きちんと来たようですわね」

 三人のうち先頭にいた銀髪の令嬢は私のことを見つけると真剣そうな表情で言葉にした。

「ええ。ご丁寧な招待を無碍にするわけにはいきませんから。まさか三人のご令嬢から告白されるとは思いませんでしたけど」

「は?何も言っていますの?」

「でも、ごめんなさい。私はコルネリアス一筋って決めてるので」

「ちょっと!?何故、わたくしが振られたような口ぶりなのですか!」

「クラウディア様落ち着いてください」

「そうです。あの平民の言葉に心を乱される必要はありません」

 彼女の後ろにいる二人の令嬢は、どうやら単なる取り巻きのような存在ではないらしい。上下関係を感じさせながらも彼女たちの言葉からはクラウディアのことを案じている節を感じた。身分差こそあれど、友人のようなものなのだろう。

「わかっていますわ。わたくしは平常心ですもの」

 クラウディアはコホンと咳ばらいをして仕切りなおすかのように私のことを見る。

「貴方を呼び出した理由ですがコルネリアス殿下とアスカルテ様のことです。ただでさえお二人に対して身分を弁えずに気安く接しているというのに、婚約者がいる異性相手に近しい距離で親しくするなど何事ですか?」

「私とコルネリアスは愛し合っていますし、アスカルテも知っていることですよ」

 婚約している相手と愛し合っているなんて、まるで悪役のような言葉だと内心で苦笑する。けれど、私もコルネリアスもアスカルテも、三人全員の幸せを掴むためにはこの方法が最善だろう。
 本当はアスカルテと話してからが良かったが、これはコルネリアスと話し合って決めたことだった。

「それにコルネリアスと触れ合っていることはありませんし人目のない場所で二人きりになるようなこともしていません」

 密室などに二人きりになっても許されるのは家族か婚約相手のような特別な関係だけだ。さらにはエスコートやダンス以外で異性の肌に触れ合うことは貴族の常識としてはあり得ないことだろう。
 私とコルネリアスの距離は異性の友人としては近すぎても婚約者しか踏み込めないラインのギリギリ外。王侯貴族の常識ではギリギリセーフな距離だ。

「っ……貴族の結婚に愛なんて不要です。全ては家同士で決めること。たとえ元々愛し合っていたとしても、王侯貴族の責務を放棄して愛を取るなんて許されません。あなたはアスカルテ様を陥れてまで愛を取りたいのですか!?あんな噂まで流すなんて……」

「ちょっと待ってください。噂ってなんですか?」

「はあ?白々しい真似を……公爵令嬢としての立場を使って愛し合う二人を引き裂く悪女。そのような噂を流して得するのは貴方たちくらいではありませんか?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。

イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...