王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
465 / 475
第13章 2度目の学園生活

75 アリアたちとの別れ

しおりを挟む
 それから少しの間、私たちは思い出話をしながら休息をとった。アリアの治癒魔術によって傷を癒やしてもらい体力や魔力がある程度回復するのを待ってからマリアやロナの元に向かうためだ。

「ティア。ある程度は治ったし貴方も気が付いてはいるのだろうけど……しばらく大きな魔力を使うのは控えた方がいいわよ?」

「流石だね……王立学園の医師でさえ気付いていなかったのに」

「私だって聖女ほどじゃないにしても、教会に認められるだけの聖魔力を持っているからね。司祭以上が知ることができる高位の治癒魔術は一通り修めているわ」

 エスペルト王国ではニ通りの医師がいる。
 一つは治癒魔術や解毒魔術を得意とする者。
 これは水属性や地属性を得意とする者がほとんどで聖属性の治癒魔術を扱えるのはほとんどいない。聖属性の適正を持つ者は侯爵家以上の貴族がほとんどだからだ。
 二つ目は地球と同じように学問として医療を修めた者。
 こちらは貴族と平民が七対三くらいの割合になっていて、治癒魔術が扱えなくても薬や手術の知識があればなることができるものだ。
 王立学園にいる医師は、王宮と同じく二つを兼ね備えた者たちだが、聖属性の適性を持つ者はいない。

「それでも私の治癒魔術じゃ治せないけどね……ただティアの状態を見るくらいはできる。ティアの場合は、身体と魂のバランスが歪すぎるわ。魂が僅かに傷ついているだけじゃなくて魂の成長に身体の成長が追いついていない……そのせいで魂の力、つまり生命力に身体が耐えきれないの。普通だったら重度の魔力過多症と同じようになっているところよ」

 魔力過多症というのは魔臓の疾患で魔力の生成や吸収に制限がかからないというものだ。普通は魔力の器が一杯になるほど魔力の回復が遅くなり満タンになれば止まる。だが、魔力過多症は、器が一杯になっても魔力を生成し続け外部から魔力を取り込み続けてしまう。
 そうなると人は魔力を外に出そうと吐血したり身体が耐えきれずに全身が壊れたりする。
 治療法としては、何らかの方法で魔力を消費し続けるか 、希少な薬草から作られる薬に頼むかくらいしかない。

「わかっているから大丈夫だよ」

 私であれば自身の魔力を完全に制御することで自傷を抑えることができる。今はまだ膨大な魔力を一気に行使したり邪気などを取り込んだりすると制御しきれずに傷を負うが、遠くないうちに制御下に置くつもりだ。
 そのことをアリアに伝えると、呆れと心配と納得を混ぜたような反応が返ってきた。

「じゃあ、もうそろそろ行こうか……そうだ。私のことはロナには言わないでね。隠すつもりも嘘をつくつもりもないけど……ロナが気が付くまでは教えるつもりもないから」

「好きにすればいいわ。でも……すぐに分かると思うわよ」

 休憩を終えた私たちはロナとマリアを追いかけることにした。木々の間を抜けて半刻ほど走れば2人の背中が見えてくる。
 邪気が薄まっているおかげかマリアも自力で動けるくらいには回復しているようだ。

「ロナ!」
「マリア!」

 アリアと私の呼ぶ声が重なり2人は同時に振り向いた。ロナは私たちのことを見ると安堵した様子で「お2人とも無事でしたか」と言葉にする。

「出てきた獣はティアと協力して倒したわ……魔力は尽きかけているけど、とりあえずは大丈夫なはずよ」

「私も消耗は激しいけど戦えるくらいの余力はあります。マリアも大丈夫そう?」

「うん。だいぶ楽になったよ」

 見た限りでは呼吸も安定しているし顔色も悪くない。特に怪我もしていないようでほっと安心した。

「本来であれば野営をしたいところだけど、この事態だから……このまま森の外まで脱出したほうが良さそうね」

 私たちはアリアの声に頷くと森の外へと急いだ。一番余力があるロナを先頭にマリアと私が続きアリアが殿を務める布陣だ。
 いざという時は私も魔術で支援するつもりだったが、道中で魔物と遭遇することもなく、近くに気配を感じることもなかった。
 もしかしたら悪獣の存在が魔物たちを遠ざけたのかもしれない。どちらにせよ、戦闘が発生しないのであれば有り難かった。

 そして、二つの満月が一番高い位置に昇る頃。
 私たちは結界の淵に辿り着くことができた。結界の外へ出ると、入った時と別の騎士たちが「お疲れ様です」と挨拶してくれる。

「では私たちは報告がありますのでここで。先に報酬を渡しておきます」

 アリアはそう言って腰の袋から小金貨を一枚ずつ渡してくる。
 これは、出発前に予め取り決めた報酬で私とマリアがそれぞれ貰える分だ。

「ティアさん。今回の依頼は私たちが想定していたものよりも過酷でした。マリアには後で別の礼をするとして……貴方にも何かしらの礼をしたいのですが……」

 アリアは私に気を遣ってから外向けの口調に戻してくれていた。その上でわざわざお礼の話をするのだから本当に彼女は律儀な人だ。
 10年前よりも強く凛々しくなっていても、そういった妙に真面目なところも優しいところも変わっていない。

「でしたら……何かあった時に可能な範囲で力を貸してください。それで十分です」

「ふふ……わかりました」

 アリアは小さく笑うと優しげな声で返事をする。

「では何か困ったことがあればいつでもいってください。私も力になりますから」

 そんなアリアの反応を見て不思議そうにしていたロナもいつか恩を返すと言ってくれたのだった。

「マリア。私たちはしばらく森やダンジョンの調査をしています。貴方も困ったことがあればいつでも連絡してください」

「その通りです。遠慮はしなくていいですよ」

 マリアは王都の孤児院で拾われて育ててもらったと言っていた。孤児院長であるロナはもちろん孤児院のことを誰よりも気にかけていたアリアにとっても子供たちは家族みたいなものだろう。

「アリア様……ロナ様……ありがとうございます」

 マリアは少しだけ恥ずかしそうにしつつも嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 その後、私とマリアは近くにある宿場町で一泊してから王立学園へ戻った。寮の部屋には療養で不在にしていたサチも帰ってきていて、ようやく日常が戻ってきたように感じていた。

 けれど、休日明けの王立学園は異様な空気に包まれていた。
 私とサチが久しぶりに一緒に校舎へ向かっていると、すれ違う生徒たちはどこか落ち着かない様子でざわめいている。

「どうしたのだろう?」

「さぁ……?私も昨日帰ってきてからは寮にずっといたから何も……」

 互いに不思議に思いつつも、とりあえずは教室に行こうと校舎の中に入る。すると、廊下で話をしている女子生徒の会話が耳に入ってきた。

「コルネリアス様とアスカルテ様がやっと婚約したらしいわね」

「あのグラディウス公爵家の令嬢で教会からも聖女と認められている方だもの。誰よりも未来の王妃に相応しいに決まっているじゃない!」

 その思いもよらない内容に思わず振り返ってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。

イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...