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第13章 2度目の学園生活
64 珍しい来客たち
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寮の部屋に戻ってドアの取手に手をかけようとした時、ふとした違和感を覚えて手を止めた。視線を巡らせて周囲を注意深く観察してみると扉に仕掛けていた魔術が反応していたようだった。
この魔術は私とサチ以外の人間が室内に入ったことを知らせてくれるためのものだ。魔術の痕跡からは誰かが少し前に入ってから外に出ていないことが感じ取れる。
そもそもサチは療養中のため寮には帰ってきていない。
どちらにせよ、このままにしているわけにもいかないだろうと、そっと玄関の扉を開けて部屋の中に入った。
一番奥の部屋の目の前まで来ると、部屋の中から2人分の見知った気配を感じて警戒を解く。
「ここに来るなんて珍しいね」
部屋に入りながら声を掛けると2つの優しい視線が一斉に私に向けられた。
「わたくしたちが内密に会えて外に様子が漏れない場所となると限られますからね。学園長室に呼び出してしまうのは不自然でしょう?」
「わたくしも周りを気にせずに話したいと思っていたのよ」
この部屋には元々寮の建物に込められている保護結界の他に、私が仕掛けていた多重の結界が存在する。不正な侵入だけでなく盗聴や盗撮に対しての対策も講じてあり、たとえノーティア公爵家を筆頭とした王の影であっても部屋の中を探ることはできないし、たとえ侵入できたとしても痕跡が残るようになっている。
私の正体を知っているローザリンデとカトレアは私が生活スペースに様々な魔術による仕掛けを施すということをよく知っている。
だからこそ、2人はここの部屋を選んだのだろう。
「夜遅いこの時間だと不自然だろうね」
「それにわたくしは学園長になっているわけですし……教師とはいえカトレア様と秘密裏にあっていると詮索されますからね」
「全くだわ。公爵令嬢だったときならいざ知らず、今はただの男爵夫人だというのに派閥からの干渉が面倒なのよ」
ローザリンデもカトレアも色々と面倒で疲れるとゆっくりと息を吐きだした。
「それは仕方がないでしょう……王立学園の学園長の立場は特別だし、カトレアだって顔は広いほうでしょうに。それで今日はどういった要件なの?ローザリンデとカトレアの組み合わせって珍しいじゃない?」
「社交以外で話すようになったのはカトレア様を王立学園に呼んでからですからね。最近は特に話す機会も増えましたけど露見しないようにしてますし」
「ええ。ローザリンデ様とは協力関係ですから」
ローザリンデとカトレアは何か通じ合っているような視線を互いに向けあっていた。元々は接点があまりなかったはずだが、いつのまにか仲を深めていたようだ。
大切な妹と大切な親友である2人が親しいことは私も嬉しかった。
「せっかくの機会ということでお土産を持ってきたのですよ。お姉さまもどうですか?」
ローザリンデはそう言って袋の中からボトルを取り出した。エスペルト王国の中でも有数の銘柄の赤ワインのようでラベルによると20年物の希少なオールドビンテージワインのようだ。
「へえ……なかなか良い物持ってるじゃない。でも学園長が生徒にお酒を出すっていいの?」
「今日は妹として来ているのですから構いません。それに夢だったのですよ?公の場以外で、お姉さまとこうしてお酒を嗜むことができなかったのですから」
「ああ。ラティアーナはお酒自体は好きだったけど、あまり他の人とは飲まなかったわよね」
「それは……単純に機会がなかったからよ」
エスペルト王国では飲酒に関する決まりは存在しない。平民であれば家族とであれば12歳くらいから飲み始め、成人してから外でも飲むことが慣習となっている。
けれど王侯貴族であれば家やパーティで飲むことがあるため遅くても10歳くらいからは飲むことが多いだろう。
私の場合は元々毒慣らしの一環で幼い頃から飲んでいたが楽しみながら飲むようになったのは女王となって毒の心配が少なくなってからだった。その頃には友人とはいえ貴族の家に表立って向かったり食事に誘うことができなかった。
そういった理由もあってお忍びでお店などで嗜んだことは多くても仲のいい誰かと飲んだことはあまりない。
「そういうわけですからどうぞ。この場には他に誰もいませんし、わたくしたちがここを訪れていることは影ですら掴めていませんから」
「では、わたくしからもお土産を……最近、領地で人気になっている菓子になのだけど、特産のライチと紅茶をふんだんに使ったカルトカールになるわ」
カトレアが嫁いだオルデイン男爵領は少し標高が高い領地となっていてフルーツやお茶が名産になっている。最近ではカトレアが主導で商会も運営しているらしく菓子をはじめとした食料品を中心に栄えさせようとしているそうだ。
「良い香り……甘さと酸味がちょうど良くて美味しいね」
ラティアーナだった頃のお茶会やお忍びで食事に行った時のことを思い出して、どことなく懐かしさが込み上げてきた。思わず口角が緩みそうになる。
「それは良かったわ」
「ローザリンデが用意してくれたワインもかなり美味しいね。お酒は生まれ変わってから飲んだことがなかったから、すごく久しぶりで感慨深いわ」
「お口に合うようで良かったです」
この魔術は私とサチ以外の人間が室内に入ったことを知らせてくれるためのものだ。魔術の痕跡からは誰かが少し前に入ってから外に出ていないことが感じ取れる。
そもそもサチは療養中のため寮には帰ってきていない。
どちらにせよ、このままにしているわけにもいかないだろうと、そっと玄関の扉を開けて部屋の中に入った。
一番奥の部屋の目の前まで来ると、部屋の中から2人分の見知った気配を感じて警戒を解く。
「ここに来るなんて珍しいね」
部屋に入りながら声を掛けると2つの優しい視線が一斉に私に向けられた。
「わたくしたちが内密に会えて外に様子が漏れない場所となると限られますからね。学園長室に呼び出してしまうのは不自然でしょう?」
「わたくしも周りを気にせずに話したいと思っていたのよ」
この部屋には元々寮の建物に込められている保護結界の他に、私が仕掛けていた多重の結界が存在する。不正な侵入だけでなく盗聴や盗撮に対しての対策も講じてあり、たとえノーティア公爵家を筆頭とした王の影であっても部屋の中を探ることはできないし、たとえ侵入できたとしても痕跡が残るようになっている。
私の正体を知っているローザリンデとカトレアは私が生活スペースに様々な魔術による仕掛けを施すということをよく知っている。
だからこそ、2人はここの部屋を選んだのだろう。
「夜遅いこの時間だと不自然だろうね」
「それにわたくしは学園長になっているわけですし……教師とはいえカトレア様と秘密裏にあっていると詮索されますからね」
「全くだわ。公爵令嬢だったときならいざ知らず、今はただの男爵夫人だというのに派閥からの干渉が面倒なのよ」
ローザリンデもカトレアも色々と面倒で疲れるとゆっくりと息を吐きだした。
「それは仕方がないでしょう……王立学園の学園長の立場は特別だし、カトレアだって顔は広いほうでしょうに。それで今日はどういった要件なの?ローザリンデとカトレアの組み合わせって珍しいじゃない?」
「社交以外で話すようになったのはカトレア様を王立学園に呼んでからですからね。最近は特に話す機会も増えましたけど露見しないようにしてますし」
「ええ。ローザリンデ様とは協力関係ですから」
ローザリンデとカトレアは何か通じ合っているような視線を互いに向けあっていた。元々は接点があまりなかったはずだが、いつのまにか仲を深めていたようだ。
大切な妹と大切な親友である2人が親しいことは私も嬉しかった。
「せっかくの機会ということでお土産を持ってきたのですよ。お姉さまもどうですか?」
ローザリンデはそう言って袋の中からボトルを取り出した。エスペルト王国の中でも有数の銘柄の赤ワインのようでラベルによると20年物の希少なオールドビンテージワインのようだ。
「へえ……なかなか良い物持ってるじゃない。でも学園長が生徒にお酒を出すっていいの?」
「今日は妹として来ているのですから構いません。それに夢だったのですよ?公の場以外で、お姉さまとこうしてお酒を嗜むことができなかったのですから」
「ああ。ラティアーナはお酒自体は好きだったけど、あまり他の人とは飲まなかったわよね」
「それは……単純に機会がなかったからよ」
エスペルト王国では飲酒に関する決まりは存在しない。平民であれば家族とであれば12歳くらいから飲み始め、成人してから外でも飲むことが慣習となっている。
けれど王侯貴族であれば家やパーティで飲むことがあるため遅くても10歳くらいからは飲むことが多いだろう。
私の場合は元々毒慣らしの一環で幼い頃から飲んでいたが楽しみながら飲むようになったのは女王となって毒の心配が少なくなってからだった。その頃には友人とはいえ貴族の家に表立って向かったり食事に誘うことができなかった。
そういった理由もあってお忍びでお店などで嗜んだことは多くても仲のいい誰かと飲んだことはあまりない。
「そういうわけですからどうぞ。この場には他に誰もいませんし、わたくしたちがここを訪れていることは影ですら掴めていませんから」
「では、わたくしからもお土産を……最近、領地で人気になっている菓子になのだけど、特産のライチと紅茶をふんだんに使ったカルトカールになるわ」
カトレアが嫁いだオルデイン男爵領は少し標高が高い領地となっていてフルーツやお茶が名産になっている。最近ではカトレアが主導で商会も運営しているらしく菓子をはじめとした食料品を中心に栄えさせようとしているそうだ。
「良い香り……甘さと酸味がちょうど良くて美味しいね」
ラティアーナだった頃のお茶会やお忍びで食事に行った時のことを思い出して、どことなく懐かしさが込み上げてきた。思わず口角が緩みそうになる。
「それは良かったわ」
「ローザリンデが用意してくれたワインもかなり美味しいね。お酒は生まれ変わってから飲んだことがなかったから、すごく久しぶりで感慨深いわ」
「お口に合うようで良かったです」
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