王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

60 思考停止

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 その後、サチとユウの2人は騎士たちに保護されて医務室へと向かった。大きな怪我などはしていなくても念のため診療を受けて数日間の療養となるそうだ。
 療養中は警護と事情の聞き取りのために騎士が数人つくそうだが、療養が終われば晴れて自由な身となる。
 また、私が拘束した男たちについても学園都市の牢獄に収容されることになった。
 しばらくの間は王立学園や騎士たちが取り調べを行い、全てが済めば他の罪人と同様に王都に運ばれて裁判を受けることとなる。王立学園への攻撃は傷害に加えて反逆罪も適用されるため、数十年単位の鉱山送りのような罰が下される可能性が高いだろう。

「放たれた魔物も大体片が付いたようだな」

「まだ油断はできないけど多分終わりだろうね」

 部屋の中に残っているのが私とコルネリアスだけになった頃には、外の様子も落ち着きを見せ始めていた。
 破壊された王立学園の結界も自動で修復され魔物もほとんどが地面に倒れている。今回の騒動に当たっている騎士や教師たちも無事なようで、ひとまずは事態が終息したと考えても良いだろう。
 先ほど逃げた敵が再び戻ってくる可能性もゼロではないが限りなく低いはずだ。

「全く……最初に話を聞いた時は驚いたぞ?いくら盤面を整えるための時間を稼ぐとはいえ、ティア自身の身を使うなんて……身体は大丈夫なのか?」

 コルネリアスには囮となるとだけ伝えていたが、私が魔力で編んだ外套を纏っているからか何となく状況を察しているらしい。
 どことなく不安そうな視線が私に向けられていた。

「短剣で刺されたけどもう治っているから大丈夫だよ。塗られていた毒も今の私なら効かないからね」

 ここで何もなかったと言ったところでどうせ知られてしまうだろう。であれば何も隠さずに全て話してしまった方が心配をかけないはずだ。

「……ダンジョンの毒か」

「あれのおかげで耐性もついたし毒が塗られていることさえわかっていれば解析できるからね」

「だが傷つけるだけとは限らないだろう?その……なんというか……」

「ああ。リーダ格の男に手は出されそうになったけど未遂だよ。そもそも、本当に手を出されるところまで来たら多少のリスクを覚悟で敵を殲滅するし」

 言葉を濁して気まずそうにしているコルネリアスが何を言いたいのか理解して、なんともいえない笑みを浮かべ気にしなくて良いと言葉にする。
 私だって自身の身を犠牲にして誰かを助かるほど優しいわけじゃない。私が許容できるラインまでは何とかしようと試みるが、そこを超えるのであればすぐに次点の策へと切り替えるだろう。

「だが嫌なものは嫌だろう?」

「まあ確かに見知らぬ人に触れられるのは嫌なんだけど、ただ嫌なだけというか……言葉にするのは難しいのだけど、私にとって虫みたいなもの、かな?」

 私は虫が苦手だ。特に黒光りするようなものであれば視界に入れたくないほどで直接は手で触れたくもないと思っている。
 けれど、街の外にある森などを歩いていれば虫系統の魔物と遭遇することも珍しくない。苦手だからと下手な動きをすれば他の人の命に関わる可能性がある以上は躊躇なく戦うつもりだ。
 手で触れずに済むように魔術か剣術を主体にするのは間違いないだろうけど。

「虫か……ま、言わんとしていることは分かった。後に引き摺るような事でなければ良いさ」

「そういうこと。むしろサチとユウを助けられて良かったよ」

「同じ部屋で友人のサチはともかく……数回話しただけのユウのこともなのか?私には理由があってもティアには理由がないだろうに」

 コルネリアスは優しいことだと呟くと大きく息を吐いた。

「そりゃ友人関係じゃなくても知り合いが困っていたら助かるでしょ?それに私が手を差し出さなくて何かあったら目覚めが悪いし、ユウの思いは羨ましいと思うからね」

「ユウの思い……?2人とも人質にとられた大切な人を助けるためで、どちらも変わらないのではないか?」

「私の大切な人って……家族と友達だけだからさ。好きな相手を思う気持ちってどんな感じなのかなって」

 もはや記憶の彼方に朧げに存在しているだけの前々世も含め、ラティアーナの頃も今も、相手を恋愛的な意味で好きになったことがなかった。
 幼い頃から恋への憧れだけはあったため、政略結婚だけは避けようと手を回していたが、憧れが強くなるだけで家族や親友に対する感情と何が違うか理解できないままだ。

「ティアは誰かに恋したことはないのか……」

「そうだね。憧れはあるけど……ねぇ?」

「だったら私とは、どうだろうか?」

「……え?」

 コルネリアスの言葉の意味理解できずに思わず顔をマジマジと見つめてしまう。あまりに真剣そうなコルネリアスの顔に思考が停滞しつつも、少しの時間をかけてようやく意味を理解するが、なんとも言えない感情が私の中を駆け巡るだけで頭が弾けそうだった。

「本当はもう少し仲を深めてから……君の気持ちを確認してから言おうと思っていたのだけどね。私は君のことが好きなんだ」

「は……ん、え?」

 コルネリアスからの重ねての言葉に目が回りそうになった。まるで猛暑の中で長い間過ごしたのではないかと思うほど体の中が熱く感じた。
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