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第13章 2度目の学園生活
57 全てを縛る鎖
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「っ……」
男の手が私の下着に触れる直前、男は身体をびくっと震わせた。馬乗りになった体勢のまま、全身が麻痺でもしたかのように動きを止めて、驚いた様子で目を見開く。
「お頭、どうしたんです?」
手を伸ばしたまま動かないことを不思議に思ったのかフードを被った取り巻きの1人が尋ねた。
だが、目の前の男も訳が分からないといった様子で呟くことしかできない。
「か、身体が動かねぇ……麻痺毒か?だが……」
「毒は使っていませんよ」
私は親切に男の問いに答えてあげると、男の身体の下から這うようにして脱出した。
「テ、ティア?」
「だから大丈夫だって言ったでしょ?もう終わったから何も心配しなくていいよ」
目を赤くして立ち竦んでいたサチは何が起きているのか分からないと言った様子で混乱しているようだった。
私は、そんな彼女を安心させようと微笑みを浮かべて何ともないかのように振舞う。
「とはいえ、このような恰好を生粋の貴族が見たら卒倒しそうですね」
目の前の男によって破かれた制服の隙間からは下着の一部などが見えている。スカートの一部もなくなっているせいで際どい部分も見えそうになっていた。
私は魔力を編むことで簡易的な外套を作ると肩から羽織ることで素肌を隠すことにした。
「魔力の物質化だと?いや、それよりも一体何をしやがった!?」
「素の口調が出てますよ。この程度で動揺するなんて思いのほか、大したことはないのですね」
「なにを……」
「ですが特別に教えてあげます。私は魔力の物質化に慣れているのですよ」
魔力というのは流動的なエネルギーとして扱うのが一般的だ。魔力弾のように加工するにしろ魔術として行使するにしろ変わりはなく、例外があるとすれば魔力によって水や氷を生成するような一部の属性魔術くらいだ。
けれど、その理論の応用として純粋な魔力そのものを物質として存在させることも可能だ。
「私が好んでいる魔力糸も原理は同じですから」
私は亀裂が入った床に意識を向けた。
床や壁の中に張り巡らした魔力糸の隠蔽を解いて可視化すると、部屋全体が私の魔力に包まれて白く光る糸が男たちの全身に絡みついている様が一目で分かるようになる。
「いつのまに……」
「最初からですよ?部屋に突入した時にできた足元の亀裂からゆっくりと侵食させたわけですから」
私にとって魔力糸は干渉する範囲を広げるための手先であり、拘束するための鎖であり、保護するための綱でもあり、全てを切断するための刃でもある。
今回の場合は部屋全体を隔離するための結界の基点と敵の動きを拘束し魔術具の解析と干渉を行う役割を担っていた。
「ちっ……だとしても、あの薬を受けて平然としていられるはずがない!集中力が散漫になれば行使中の魔術も解けるはずだ!」
「毒を塗られた武具で刺された程度であれば瀉血すれば毒を出すことができます。加えて毒を認識できているのであれば解析魔術と解毒魔術を組み合わせることができますから。私と大切な人たちの未来がかかっているのですよ?その程度で魔術への意識が削がれるわけがないでしょう」
毒に関しては今言った内容も嘘ではないがダンジョンで毒を受けたことも大きな影響を与えてくれていた。常闇の管理者が造った毒に適応した今の私はラティアーナの頃と同じ程度の毒への耐性を得ている。
この程度の毒で私を止めることは不可能だ。
もっともたとえ毒の影響をまともに受けたとしても意識が暗転しない限りは魔術の行使を続けることができる自信がある。これくらいのことができなければ私もラティアーナもとっくの昔に力及ばずに生き絶えているだろう。
「っ……だ、だが、こちらには人質がいる!お前たち!魔術具を起動しろ!ユウを殺せ!」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれたユウは身体をびくっと震わせて硬直した。取り巻きの1人が腕輪の魔術具に触れて魔力を流すのを見え咄嗟に目を瞑って、次に来るであろう何かから逃れようとする。
だが、一向に何も起きる気配はなくユウは恐る恐る目を開けると自身の身体が何ともないことに安堵したようだった。
「おい!?」
「きちんと押しましたよ!」
男たちは互いに相手を非難するような声を上げるが無理もないだろう。
準備が完了するまでに多少の時間は掛かったが、この部屋の中は既に私の支配下だ。男たちの魔術具は壊れていないが期待した通りに動くことはないのだから。
「無駄ですよ。その魔術具については完全に理解しました。壊さなくとも無力化することは造作もありません。サチやユウのことを害することは不可能です」
魔術による通信は魔力に情報を乗せているようなものだ。暗号化も何もしていない通信であれば解析や改竄することは難しくない。たとえ暗号化などの対策がとられている魔術具だったとしても魔力の流れを乱してしまえば通信を妨げることができる。
ある程度実力のある魔術使いにとって魔術具同士の通信さえ感知できれば妨害することは難しくない。
「だが俺たちに異変があれば外の仲間が連絡して人質を殺す……そこの2人は助けられても、それ以外の人質は助からない!お前は守れなかったってことだ!」
「完全に理解したと言ったはずです」
私は足元に黒い術式を複数展開した。
今から行使するのはラティアーナの頃に覚えて今の私も含めて一度も使ったことのない魔術。
「闇の魔力……精神干渉だと!?それは禁忌の……」
「他国では使うだけでも禁忌とされることもありますがエスペルト王国では他の攻撃魔術と同じですよ」
精神干渉系の魔術の使用は殺人と同程度の罪となるが、それはあくまで一般人相手や魔術戦で行使した場合だ。
罪人相手に使う分には何も問題はない。
「夢想輪廻」
次の瞬間、私の両手の中に黒い光が集まると部屋の中が暗転した。
男の手が私の下着に触れる直前、男は身体をびくっと震わせた。馬乗りになった体勢のまま、全身が麻痺でもしたかのように動きを止めて、驚いた様子で目を見開く。
「お頭、どうしたんです?」
手を伸ばしたまま動かないことを不思議に思ったのかフードを被った取り巻きの1人が尋ねた。
だが、目の前の男も訳が分からないといった様子で呟くことしかできない。
「か、身体が動かねぇ……麻痺毒か?だが……」
「毒は使っていませんよ」
私は親切に男の問いに答えてあげると、男の身体の下から這うようにして脱出した。
「テ、ティア?」
「だから大丈夫だって言ったでしょ?もう終わったから何も心配しなくていいよ」
目を赤くして立ち竦んでいたサチは何が起きているのか分からないと言った様子で混乱しているようだった。
私は、そんな彼女を安心させようと微笑みを浮かべて何ともないかのように振舞う。
「とはいえ、このような恰好を生粋の貴族が見たら卒倒しそうですね」
目の前の男によって破かれた制服の隙間からは下着の一部などが見えている。スカートの一部もなくなっているせいで際どい部分も見えそうになっていた。
私は魔力を編むことで簡易的な外套を作ると肩から羽織ることで素肌を隠すことにした。
「魔力の物質化だと?いや、それよりも一体何をしやがった!?」
「素の口調が出てますよ。この程度で動揺するなんて思いのほか、大したことはないのですね」
「なにを……」
「ですが特別に教えてあげます。私は魔力の物質化に慣れているのですよ」
魔力というのは流動的なエネルギーとして扱うのが一般的だ。魔力弾のように加工するにしろ魔術として行使するにしろ変わりはなく、例外があるとすれば魔力によって水や氷を生成するような一部の属性魔術くらいだ。
けれど、その理論の応用として純粋な魔力そのものを物質として存在させることも可能だ。
「私が好んでいる魔力糸も原理は同じですから」
私は亀裂が入った床に意識を向けた。
床や壁の中に張り巡らした魔力糸の隠蔽を解いて可視化すると、部屋全体が私の魔力に包まれて白く光る糸が男たちの全身に絡みついている様が一目で分かるようになる。
「いつのまに……」
「最初からですよ?部屋に突入した時にできた足元の亀裂からゆっくりと侵食させたわけですから」
私にとって魔力糸は干渉する範囲を広げるための手先であり、拘束するための鎖であり、保護するための綱でもあり、全てを切断するための刃でもある。
今回の場合は部屋全体を隔離するための結界の基点と敵の動きを拘束し魔術具の解析と干渉を行う役割を担っていた。
「ちっ……だとしても、あの薬を受けて平然としていられるはずがない!集中力が散漫になれば行使中の魔術も解けるはずだ!」
「毒を塗られた武具で刺された程度であれば瀉血すれば毒を出すことができます。加えて毒を認識できているのであれば解析魔術と解毒魔術を組み合わせることができますから。私と大切な人たちの未来がかかっているのですよ?その程度で魔術への意識が削がれるわけがないでしょう」
毒に関しては今言った内容も嘘ではないがダンジョンで毒を受けたことも大きな影響を与えてくれていた。常闇の管理者が造った毒に適応した今の私はラティアーナの頃と同じ程度の毒への耐性を得ている。
この程度の毒で私を止めることは不可能だ。
もっともたとえ毒の影響をまともに受けたとしても意識が暗転しない限りは魔術の行使を続けることができる自信がある。これくらいのことができなければ私もラティアーナもとっくの昔に力及ばずに生き絶えているだろう。
「っ……だ、だが、こちらには人質がいる!お前たち!魔術具を起動しろ!ユウを殺せ!」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれたユウは身体をびくっと震わせて硬直した。取り巻きの1人が腕輪の魔術具に触れて魔力を流すのを見え咄嗟に目を瞑って、次に来るであろう何かから逃れようとする。
だが、一向に何も起きる気配はなくユウは恐る恐る目を開けると自身の身体が何ともないことに安堵したようだった。
「おい!?」
「きちんと押しましたよ!」
男たちは互いに相手を非難するような声を上げるが無理もないだろう。
準備が完了するまでに多少の時間は掛かったが、この部屋の中は既に私の支配下だ。男たちの魔術具は壊れていないが期待した通りに動くことはないのだから。
「無駄ですよ。その魔術具については完全に理解しました。壊さなくとも無力化することは造作もありません。サチやユウのことを害することは不可能です」
魔術による通信は魔力に情報を乗せているようなものだ。暗号化も何もしていない通信であれば解析や改竄することは難しくない。たとえ暗号化などの対策がとられている魔術具だったとしても魔力の流れを乱してしまえば通信を妨げることができる。
ある程度実力のある魔術使いにとって魔術具同士の通信さえ感知できれば妨害することは難しくない。
「だが俺たちに異変があれば外の仲間が連絡して人質を殺す……そこの2人は助けられても、それ以外の人質は助からない!お前は守れなかったってことだ!」
「完全に理解したと言ったはずです」
私は足元に黒い術式を複数展開した。
今から行使するのはラティアーナの頃に覚えて今の私も含めて一度も使ったことのない魔術。
「闇の魔力……精神干渉だと!?それは禁忌の……」
「他国では使うだけでも禁忌とされることもありますがエスペルト王国では他の攻撃魔術と同じですよ」
精神干渉系の魔術の使用は殺人と同程度の罪となるが、それはあくまで一般人相手や魔術戦で行使した場合だ。
罪人相手に使う分には何も問題はない。
「夢想輪廻」
次の瞬間、私の両手の中に黒い光が集まると部屋の中が暗転した。
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