王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
443 / 475
第13章 2度目の学園生活

53 ルイーゼの思惑

しおりを挟む
 生徒たちが寮へと戻った後の夜。
 生徒会室ではこれから起きる何かに備えて生徒会の面々が集まっていた。

「どうやら動き出したようですわね」

 机の中央に置いてある魔術具によって王立学園の全体図が映し出されていた。地図上には赤く明暗する点がゆっくりと移動していて、ルイーゼが手元を操作すると数人の人影がゆっくりと歩いている姿が映し出された。

「想定通りのようですね」

「ふん……やはり彼のことなど助けるべきではなかったのですよ」

 先頭を歩いていたのは少し前に決闘騒ぎを起こしたユウだった。彼が先導する形で移動しているようだが後ろにいる人たちはフードを深く被っているせいで顔まで見ることは叶わない。けれど、王立学園の構造に詳しくないところを見るに恐らくは外部の人間なのだろう。

「本格的にこの事態に関与しているようですが……貴方の考えは変わらないですか?ティア」

 ルイーゼは念押しをするかのようにティアに向かって問いかけた。だが、ティアはそれは当然だというような表情で大きく頷いた。

「彼が利用されている可能性も仕方なく命令に従っている可能性も否定できないでしょう。それに彼は王立学園の生徒。彼が間違った道を行くというなら生徒会として正しい道へ導くことも必要ではないでしょうか?」

「わたくしもティアに同意見ですね。事情も何も知らない状態で判断すべきではないと思いますので」

 ティアの隣に座っていたアスカルテも追随する形で言葉にする。さらに隣に座っていたコルネリアスも同じ考えだと言うように無言で大きく頷いた。

「今も考えが変わらないというのであれば構いませんわ。ですが、彼がこの事態に関わっていたことが公になれば生徒会としても王立学園としても庇いきれません。これは学園長も同じ考えですので何があっても覆ることはないと思うことですわね」

「わかっています。今日起きたことの全ては事態を起こした黒幕にとってもらうつもりですから」

 そして少しの間彼らの動きを見ていると大きな建物の目の前で立ち止まった。そのまま、ゆっくりと扉を開けて建物の中に入っていくと、地図上の赤い点が静かに消えた。

「連中の狙いは特別棟ですか……」

「特別棟の中はいくつかの結界に包まれていますから魔力感知だけでは追えません……お前は一体どうするつもりで?」

 イグナイツは厳しい表情で問いかけた。それに対してティアはあまり気にした様子を見せずに涼しい表情で口を開く。

「予定通りに私とコルネリアス、アスカルテの3人で抑えます。もしも他の場所で何かあったときはお願いしますね」

「いいでしょう。動きがあった場合はイグナイツとマックスを向かわせることにいたしますわ」

 ティアはそう言って立ち上がるとコルネリアスとアスカルテの2人を伴って生徒会室を出て行った。
 それを見送ったルイーゼは機嫌が良さそうにくすりと笑みを浮かべる。

「随分と楽しそうですね」

「ええ。これで彼女の本来の姿が分かるでしょうからね」

「ルイーゼ様が何故彼女に対してそこまで期待しているのか分かりませんね。ティアは優秀だと思いますがあくまで学業に秀でているだけです。平民の彼女では経験が足りなさすぎます」

 フルールは生徒会でのティアの仕事ぶりをずっと見てきていた。物覚えもよく容量がいい彼女は一度教えた仕事はすぐにこなすことができる。
 それでも、こうした人が絡むような事件は一筋縄ではいかないものだ。いくら優秀で知識があるとはいえ経験がない状態では正しい選択をすることは難しいだろう。

「任せてみれば良いではないですか。今回の事件は平民が起こしたもの。貴族の生徒は寮にいますし巻き込まれることはないでしょう。失敗しても関係している者たちを処分するだけです」

「ティアが無事に済むかは分かりませんがコルネリアス様とアスカルテ様は、あの程度の相手に怪我を負わされることはないでしょう。何も問題ない」

 アインハルトとイグナイツは、ティアが失敗して生徒会から除名されることに期待しているようだった。

「三人とも落ち着きなさいな。賽は既に振られました。あとは見極めるだけですわ」

 ルイーゼはそう言って立体映像に戻すと初めて彼女と出会った時のことを思い出した。
 あれは入学式のことだ。
 生徒会長として入学式の運営に関わっていたルイーゼは遠くからティアのことを一目見て底が見えない人だと感じた。

 ティアのことは入学式で出会う前から知っていた。
 コルネリアスが王立学園に誘ったという平民の少女。
 元々他国の孤児だった彼女は冒険者として活動しエスペルト王国へやってきてコルネリアスと出会ったというのが公式な発表だ。
 だがウルケール男爵で発生した事件について正確に把握しているイグニス侯爵家では、コルネリアスとアスカルテ、ティアが協力関係にあったことも知っている。
 そのため、最初はCランク冒険者として護衛依頼などをこなしていて対人戦闘に慣れていただけの、戦闘能力が高いだけの少女だと考えていた。
 だが、入学式で一目見て全てルイーゼの勘違いだったと理解する。

 ルイーゼはイグニス侯爵家の令嬢として幼い頃から様々な人間と触れてきた。
 大貴族の令嬢として様々な人から好意を向けられるが大半が侯爵家の力を利用しようと近寄ってくる者たちだ。血のつながりがある家族でさえも、当主である父からはエスペルト王国内での影響力を高めるための政略結婚の道具でしかなく、兄たちからも次期当主を決めるための争いに利用するための駒としか考えられていない。
 そのせいか、いつのまにか人の感情や本質を感じ取れるようになっていた。

 ルイーゼがティアに対して感じたのは全てがチグハグだということだ。
 悪意も欲も感じないのに何か強い目的のために行動していそうだということ。
 平民として貴族の生活には馴染みがないはずなのに男爵家に近いくらいの作法は身につけていて、拙い作法の割には動きにムラがなく余裕があるように感じられること。
 仲のいい相手に対しては王族や貴族であっても気楽に接しているが、場所なども考慮して超えてはいけない一線を守っていること。

 ほぼ全ての人間がティアのことをただの平民だと考えているがルイーゼからすれば何かがおかしく思えるのだ。

 だからこそ、今回の件はティアの実力を計り本質を見極めることができるかもしれない。そのように考えていた。
 そしてルイーゼが思い描く未来のために味方に取り込めるかもしれないとも。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。

イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。 そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。 しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの? 優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、 冒険者家業で地力を付けながら、 訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。 勇者ではありません。 召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。 でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...