王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

50 続く嫌がらせ

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「ティア。しばらくはできるだけ一緒にいないか?嫌がらせの相手が誰かは分からないが、私が近くにいれば手を出してこないだろう」

「ありがたいけど遠慮しておくよ。別の意味で恨みを買いそうだし」

 私はコルネリアスの提案に苦笑しながら首を横に振った。
 王太子である彼が近くにいれば相手が平民でも貴族でも、あからさまに何かをしてくることは無くなるだろう。だが一時的に手が出せなくなるだけで根本的な解決になるわけではない。
 それに彼を狙っている高位の貴族令嬢からは嫉妬の眼差しを向けられそうだ。

「……なかなか難しいものだな。もし何かあれば相談してほしい」

「もちろん。頼りにしているよ……アスカルテ?」

 ここ最近のアスカルテは少し変だ。私とコルネリアスが話している間は、あまり会話に参加せずに傍でニコニコと微笑んでいる。その笑みは楽しんでいるというよりは、まるで愛らしい動物を見守っているかのようなものだが、彼女が何を想って微笑んでいるのか見当もつかない。

「なんでもありませんよ。わたくしも力になりますからね」

「ありがとう?」

 そうして、話しているうちに鐘が鳴り響いて、それぞれが各々の席に戻っていく。
 私は花瓶から菊の花を抜き去ると水系統の魔術を行使して乾燥させてからカバンの中に優しく仕舞うことにした。

 そして、午前中の授業を終えて昼休憩の時間になると、いつものようにマリアが私の席にやってくる。

「ティア昼食に行こう!」

「もちろん。少し待って」

 教科書などの荷物をしまって急いで準備をするとマリアと共に教室を出る。
 いつもであればアイリーンも一緒なのだが、今日は体調不良で休みらしく2人きりだ。

「そういえば朝のあれ大丈夫なの?少し前にも似たようなことあったよね」

 マリアが言っているのは蛇が贈り物として机に置いてあったことだろう。生徒会に参加してすぐの出来事で、あれから音沙汰がなかったためどこか懐かしい気持ちすらある。

「似てはいるけれど少し違う気がするかな。今回の贈り物には貴族らしさがなかったから」

 貴族というのは総じてプライドが高く格式に拘る者が多い。例え嫌がらせ目的の贈り物だったとしても貴族らしく高価で品があるものを贈るわけだ。
 以前贈られた蛇にしても近くの森で捕えることができるとはいえ質が良い蛇だった。
 だが、今回贈られた白い菊は本当にその辺りに生えていた野生の菊を採取したくらいのもので貴族からすれば質がいいとはいえないだろう。
「それに……」

 校舎から食堂までの道を歩いているとき、私は隣にいたマリアを腕で制する。
 その瞬間、雲一つもない晴天の空からは透明な水が降り注いできた。

「手口が随分と分かりやすいのよね」

「……今何があったの?一瞬、霧みたいなものが見えたけど……」

「降ってきた水を蒸発させただけだよ。人の気配もあったから単純にバケツの水を掛けようとしたんじゃない?」

 濡れなくするだけであれば水の塊を反らすか凍らせて塵としてしまう方法もあった。だが地面が濡れていれば、ここで何かがあったことがバレてしまうため魔術で作った熱の障壁で気化させたわけだ。

「流石に殿下とか生徒会の人たちに相談した方が良いんじゃないの?もし、このまま嫌がらせがエスカレートしたら……」

「いや……しばらくは様子見をしたいかな。ここ最近のことを考えても無関係ではないだろうからね」

 嫌がらせをしてくる相手が恐らくは平民であり、最近急に発生した平民平等運動や私への強引な勧誘。
 これらは変化と言うにはあまりにも性急で人為的な流れを感じさせるほどだった。これだけのことが立て続けに起きているのであれば全ての出来事が繋がっている可能性も否定できないだろう。

「ティアだったら何とかできるのだろうけど気をつけてよ」

「もちろん。心配してくれてありがとうね」

「どういたしまして」

 そうして、話していると食堂に着いた。私たちは食堂の中を見渡して空いている席へと向かう。

「さて、何にしようかな……卒業までには制覇したいんだよね」

「たくさん種類があるし季節によってもメニューが変わるからね……でも高いんだねよぇ……」

 王立学園の食堂は、一般的なレストランと同様に席に着いたあとに注文をする仕組みだ。
 王城に務めている料理人が交代で派遣されていて、旬の素材を使ったエスペルト王国の伝統的な料理から各地の特産料理などが提供されている。メニューの数も年間で見れば100を超える豊富さだ。
 銅貨5枚から小銀貨数枚くらいまでの幅広い価格になっていて裕福な貴族でなくても手を出せるメニューが用意されている。因みに食堂で食べた分は後から保護者宛に請求されることになる。

「マリアは孤児院が支援してくれているの?」

 ラティアーナの頃の級友で孤児院出身だったロアやロナは、孤児院長だったアリアが支援を行い足りない分は冒険者として稼いだ分を当てていたはずだ。
 マリアも同じなのだろうかと聞いてみると彼女は首を横に張る。

「私は聖女候補として後援のエメリッヒ枢機卿が全て出してくれているの。あとは孤児院の頃にお世話になったアリア様……教会騎士長にも助けてもらっているかな。ただ、あまり高い物を頼むのは気が引けてしまって……」

「あぁ……その気持ちは良くわかるわ」

 枢機卿ともなれば上級貴族にも勝るとも劣らないくらいには裕福だろう。けれど、他人のお金で必要以上に豪勢なことをするのは何となくもどかしい気持ちになってしまうからだ。

「そういえばお世話になったっていうアリアさんはどういう人なの?」

「アリア様は私が幼い頃からずっと見守ってくれる母みたいな人かな」

 私がラティアーナだった頃、ただの冒険者のティアとして知り合い初めて正体を明かした相手がアリアたちだった。
 王位についてからは年に数回会う程度しかできなかったが、私の中では今でも大切に思っている友人でもある。
 そんな彼女のことをマリアから聞くことができた昼食の時間は懐かしさと嬉しさが混ざり合うものとなった。
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