王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

49 平民平等運動

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「待っていたよティア!」
「君は我々といるべき人間だ!貴族に染められてしまう前に一緒に活動しようじゃないか!」
「生徒会役員として、平民の代表として、我々と一緒に学園の革命を起こそうではないか!」

 数日後の朝。
 寮の前では平民平等運動を掲げている数人の生徒が待ち伏せていた。私の姿を見ると声を高々に走り寄ってきて私のことを勧誘してくる。
 そのまま無言で寮から走り抜けていくと勧誘してきた生徒たちも私の姿を追って学園の奥へと消えていった。

「……人気者だね」

「嬉しくはないけどね……」

 それを見ていた私とサチは人がいなくなったのを確認してから寮の外に出た。

 校舎の中で探していたのは知っていたが、こうして寮の外で出待ちされるとなると朝から憂鬱な気分になる。なんとなくストーカ染みたファンに追いまわされる芸能人の気持ちが分かる気がした。

「でも凄いね。あれって魔術で作った幻なんでしょう?」

「下級魔術の幻影に魔力を固めて重ねているの。まだ練習中だし複雑な動きはできないから、一部の人くらいしか誤魔化せないけどね」

 雷光属性の下級魔術である幻影は、魔力による光を生み出すことで幻を見せることができる。例えるならばホログラムのようなものだ。
 私の場合は幻影にあわせて魔力を置いておくことで魔術であることを中和し実体が存在するかのように見せていた。
 元々は戦っているときの身代わりを利用しようとして考えたものだったが、魔力の流れや気配、足音などによって一定の実力を持つ人であれば見破ることは容易く改善の余地がある。

「でも寮の前にまで来られるのはびっくりしたかな。あの人たちをそこまで突き動かすのって何なんだろう?」

 平民平等運動に参加している人たちは、ほとんどが一般家庭出身の人たちだった。貴族と関わる平民は大きな商会の商会長や貴族向けの窓口になっている人のように極一部の裕福な人が大半を占めていて、次に関わる可能性が高いのは意外にも孤児院で保護されている子供たちとなっている。こちらは王侯貴族が慈善事業として孤児院に寄付をしたり訪問したりするためだ。

「さぁ?私たちのクラスにも参加している人がいるけど、今までそんな素振りはなかったんだよね。急に人が変わったみたいでびっくりしたよ」

「急ね……学園に入って貴族の誰かと何かあったのかな?」

「人によっては私たちを見下す人もいるからね。私とかはお貴族様と関わりがあるから何かあっても穏便に済ませるけど、慣れてないとどうしても感情的になっちゃうかも」

「だとしても……何かが腑に落ちない気がするのだけどね」

 たとえ貴族に対して怒りや恨みを抱いていたとしても、大抵の人間は平民と貴族の枠組みを変えようとは思わないはずだ。しかも平民平等運動が起きるきっかけとなったユウは、今のところ関わりがないように見える。
 どこか歯車が噛み合ってないような気がしていた。

「……ん?」

「?どうしたの?」

 校舎のそばに差し掛かった時、上の方で何かが動いたように見えた。視線を上げると校舎のベランダに飾ってあった植木鉢がぐらぐらと揺れていて、ゆっくりと傾きが大きくなっている。

「きゃっ!?な、なに!?」

 隣にいたサチを左手で抱き寄せた瞬間、音も立てずに植木鉢が落ちてくる。
 私は風の魔術を行使して空気のお皿のようなものを造ると、植木鉢を割らないように優しく受け止めた。

「……う、植木鉢?」

「ベランダに置いてあった物が落ちてきたみたいだね……風に煽られたのかな?」

「そっか……ティアありがとうね。私1人だったら怪我してたかも」

 サチはそう言葉にするが恐らくは1人だったらこのようなことにはならなかったはずだ。
 学園都市と王立学園には、それぞれ全体を覆う結界が張られているため一定以上の強風が吹くことはない。それに揺れていた植木鉢の近くに人の気配があった。姿までは見えなかったが近くに誰かがいたことは確実だ。
 恐らくは私のことを狙った誰かの仕業である可能性が高い。

「とりあえず怪我がなくて良かったよ」

 どちらにせよ、この事で不安にさせない方が良いだろうと何も言わないことにした。

 その後、サチと別れた私は件の運動をしている人たちを避けるように遠回りしてからクラスに向かった。

「おはよう……ってどうしたの?」

 色々とあったため始業時間のギリギリになってしまったが、私の机の周りにはコルネリアスやアスカルテが集まっていた。

「ティアか……おはよう」
「おはようございます」

 2人とも挨拶を返してくれたが、その表情からは明るさが消えていて、なんとも言えない表情をしていた。
 どうしたのだろうかと2人に近づくと、机の上に飾られていた物を見て思わず納得する。

「白い菊の花瓶……ね」

「私たちが来た時には机の上に置かれていたんだ。誰が置いたのかは分からないが……」

「花束だったら慕ってくれている可能性があるかもしれないけど、花瓶となると嫌がらせだろうね」

 死者へと手向けとして白い菊を送る風習は王国にも存在する。十中八九は嫌がらせのための贈り物だろう。
 植木鉢の事といい面倒なことになりそうだとため息が出た。
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