439 / 475
第13章 2度目の学園生活
49 平民平等運動
しおりを挟む
「待っていたよティア!」
「君は我々といるべき人間だ!貴族に染められてしまう前に一緒に活動しようじゃないか!」
「生徒会役員として、平民の代表として、我々と一緒に学園の革命を起こそうではないか!」
数日後の朝。
寮の前では平民平等運動を掲げている数人の生徒が待ち伏せていた。私の姿を見ると声を高々に走り寄ってきて私のことを勧誘してくる。
そのまま無言で寮から走り抜けていくと勧誘してきた生徒たちも私の姿を追って学園の奥へと消えていった。
「……人気者だね」
「嬉しくはないけどね……」
それを見ていた私とサチは人がいなくなったのを確認してから寮の外に出た。
校舎の中で探していたのは知っていたが、こうして寮の外で出待ちされるとなると朝から憂鬱な気分になる。なんとなくストーカ染みたファンに追いまわされる芸能人の気持ちが分かる気がした。
「でも凄いね。あれって魔術で作った幻なんでしょう?」
「下級魔術の幻影に魔力を固めて重ねているの。まだ練習中だし複雑な動きはできないから、一部の人くらいしか誤魔化せないけどね」
雷光属性の下級魔術である幻影は、魔力による光を生み出すことで幻を見せることができる。例えるならばホログラムのようなものだ。
私の場合は幻影にあわせて魔力を置いておくことで魔術であることを中和し実体が存在するかのように見せていた。
元々は戦っているときの身代わりを利用しようとして考えたものだったが、魔力の流れや気配、足音などによって一定の実力を持つ人であれば見破ることは容易く改善の余地がある。
「でも寮の前にまで来られるのはびっくりしたかな。あの人たちをそこまで突き動かすのって何なんだろう?」
平民平等運動に参加している人たちは、ほとんどが一般家庭出身の人たちだった。貴族と関わる平民は大きな商会の商会長や貴族向けの窓口になっている人のように極一部の裕福な人が大半を占めていて、次に関わる可能性が高いのは意外にも孤児院で保護されている子供たちとなっている。こちらは王侯貴族が慈善事業として孤児院に寄付をしたり訪問したりするためだ。
「さぁ?私たちのクラスにも参加している人がいるけど、今までそんな素振りはなかったんだよね。急に人が変わったみたいでびっくりしたよ」
「急ね……学園に入って貴族の誰かと何かあったのかな?」
「人によっては私たちを見下す人もいるからね。私とかはお貴族様と関わりがあるから何かあっても穏便に済ませるけど、慣れてないとどうしても感情的になっちゃうかも」
「だとしても……何かが腑に落ちない気がするのだけどね」
たとえ貴族に対して怒りや恨みを抱いていたとしても、大抵の人間は平民と貴族の枠組みを変えようとは思わないはずだ。しかも平民平等運動が起きるきっかけとなったユウは、今のところ関わりがないように見える。
どこか歯車が噛み合ってないような気がしていた。
「……ん?」
「?どうしたの?」
校舎のそばに差し掛かった時、上の方で何かが動いたように見えた。視線を上げると校舎のベランダに飾ってあった植木鉢がぐらぐらと揺れていて、ゆっくりと傾きが大きくなっている。
「きゃっ!?な、なに!?」
隣にいたサチを左手で抱き寄せた瞬間、音も立てずに植木鉢が落ちてくる。
私は風の魔術を行使して空気のお皿のようなものを造ると、植木鉢を割らないように優しく受け止めた。
「……う、植木鉢?」
「ベランダに置いてあった物が落ちてきたみたいだね……風に煽られたのかな?」
「そっか……ティアありがとうね。私1人だったら怪我してたかも」
サチはそう言葉にするが恐らくは1人だったらこのようなことにはならなかったはずだ。
学園都市と王立学園には、それぞれ全体を覆う結界が張られているため一定以上の強風が吹くことはない。それに揺れていた植木鉢の近くに人の気配があった。姿までは見えなかったが近くに誰かがいたことは確実だ。
恐らくは私のことを狙った誰かの仕業である可能性が高い。
「とりあえず怪我がなくて良かったよ」
どちらにせよ、この事で不安にさせない方が良いだろうと何も言わないことにした。
その後、サチと別れた私は件の運動をしている人たちを避けるように遠回りしてからクラスに向かった。
「おはよう……ってどうしたの?」
色々とあったため始業時間のギリギリになってしまったが、私の机の周りにはコルネリアスやアスカルテが集まっていた。
「ティアか……おはよう」
「おはようございます」
2人とも挨拶を返してくれたが、その表情からは明るさが消えていて、なんとも言えない表情をしていた。
どうしたのだろうかと2人に近づくと、机の上に飾られていた物を見て思わず納得する。
「白い菊の花瓶……ね」
「私たちが来た時には机の上に置かれていたんだ。誰が置いたのかは分からないが……」
「花束だったら慕ってくれている可能性があるかもしれないけど、花瓶となると嫌がらせだろうね」
死者へと手向けとして白い菊を送る風習は王国にも存在する。十中八九は嫌がらせのための贈り物だろう。
植木鉢の事といい面倒なことになりそうだとため息が出た。
「君は我々といるべき人間だ!貴族に染められてしまう前に一緒に活動しようじゃないか!」
「生徒会役員として、平民の代表として、我々と一緒に学園の革命を起こそうではないか!」
数日後の朝。
寮の前では平民平等運動を掲げている数人の生徒が待ち伏せていた。私の姿を見ると声を高々に走り寄ってきて私のことを勧誘してくる。
そのまま無言で寮から走り抜けていくと勧誘してきた生徒たちも私の姿を追って学園の奥へと消えていった。
「……人気者だね」
「嬉しくはないけどね……」
それを見ていた私とサチは人がいなくなったのを確認してから寮の外に出た。
校舎の中で探していたのは知っていたが、こうして寮の外で出待ちされるとなると朝から憂鬱な気分になる。なんとなくストーカ染みたファンに追いまわされる芸能人の気持ちが分かる気がした。
「でも凄いね。あれって魔術で作った幻なんでしょう?」
「下級魔術の幻影に魔力を固めて重ねているの。まだ練習中だし複雑な動きはできないから、一部の人くらいしか誤魔化せないけどね」
雷光属性の下級魔術である幻影は、魔力による光を生み出すことで幻を見せることができる。例えるならばホログラムのようなものだ。
私の場合は幻影にあわせて魔力を置いておくことで魔術であることを中和し実体が存在するかのように見せていた。
元々は戦っているときの身代わりを利用しようとして考えたものだったが、魔力の流れや気配、足音などによって一定の実力を持つ人であれば見破ることは容易く改善の余地がある。
「でも寮の前にまで来られるのはびっくりしたかな。あの人たちをそこまで突き動かすのって何なんだろう?」
平民平等運動に参加している人たちは、ほとんどが一般家庭出身の人たちだった。貴族と関わる平民は大きな商会の商会長や貴族向けの窓口になっている人のように極一部の裕福な人が大半を占めていて、次に関わる可能性が高いのは意外にも孤児院で保護されている子供たちとなっている。こちらは王侯貴族が慈善事業として孤児院に寄付をしたり訪問したりするためだ。
「さぁ?私たちのクラスにも参加している人がいるけど、今までそんな素振りはなかったんだよね。急に人が変わったみたいでびっくりしたよ」
「急ね……学園に入って貴族の誰かと何かあったのかな?」
「人によっては私たちを見下す人もいるからね。私とかはお貴族様と関わりがあるから何かあっても穏便に済ませるけど、慣れてないとどうしても感情的になっちゃうかも」
「だとしても……何かが腑に落ちない気がするのだけどね」
たとえ貴族に対して怒りや恨みを抱いていたとしても、大抵の人間は平民と貴族の枠組みを変えようとは思わないはずだ。しかも平民平等運動が起きるきっかけとなったユウは、今のところ関わりがないように見える。
どこか歯車が噛み合ってないような気がしていた。
「……ん?」
「?どうしたの?」
校舎のそばに差し掛かった時、上の方で何かが動いたように見えた。視線を上げると校舎のベランダに飾ってあった植木鉢がぐらぐらと揺れていて、ゆっくりと傾きが大きくなっている。
「きゃっ!?な、なに!?」
隣にいたサチを左手で抱き寄せた瞬間、音も立てずに植木鉢が落ちてくる。
私は風の魔術を行使して空気のお皿のようなものを造ると、植木鉢を割らないように優しく受け止めた。
「……う、植木鉢?」
「ベランダに置いてあった物が落ちてきたみたいだね……風に煽られたのかな?」
「そっか……ティアありがとうね。私1人だったら怪我してたかも」
サチはそう言葉にするが恐らくは1人だったらこのようなことにはならなかったはずだ。
学園都市と王立学園には、それぞれ全体を覆う結界が張られているため一定以上の強風が吹くことはない。それに揺れていた植木鉢の近くに人の気配があった。姿までは見えなかったが近くに誰かがいたことは確実だ。
恐らくは私のことを狙った誰かの仕業である可能性が高い。
「とりあえず怪我がなくて良かったよ」
どちらにせよ、この事で不安にさせない方が良いだろうと何も言わないことにした。
その後、サチと別れた私は件の運動をしている人たちを避けるように遠回りしてからクラスに向かった。
「おはよう……ってどうしたの?」
色々とあったため始業時間のギリギリになってしまったが、私の机の周りにはコルネリアスやアスカルテが集まっていた。
「ティアか……おはよう」
「おはようございます」
2人とも挨拶を返してくれたが、その表情からは明るさが消えていて、なんとも言えない表情をしていた。
どうしたのだろうかと2人に近づくと、机の上に飾られていた物を見て思わず納得する。
「白い菊の花瓶……ね」
「私たちが来た時には机の上に置かれていたんだ。誰が置いたのかは分からないが……」
「花束だったら慕ってくれている可能性があるかもしれないけど、花瓶となると嫌がらせだろうね」
死者へと手向けとして白い菊を送る風習は王国にも存在する。十中八九は嫌がらせのための贈り物だろう。
植木鉢の事といい面倒なことになりそうだとため息が出た。
10
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。
イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる