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第13章 2度目の学園生活
41 常闇の大迷宮からの帰還
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翌朝、目が覚めると身体が随分と軽くなっているように感じた。熱っぽさや倦怠感は残っているものの、全身を襲っていた痛みなどは消えている。
これくらいであれば十分に身体を動かすことができるだろう。
「おはようございます。体調はどうですか?」
起き上がって自身の調子を確認しているとカトレアがテントの中に入ってきた。どうやら先に起きて汗を流していたらしく、さっぱりとした表情をしていた。
「おはよう。ゆっくり休めたおかげで、かなり良くなったわ」
立ち上がって少し体を動かしてみるが問題はなさそうだった。
「毒の影響も少なくなってる……もう少し時間をかければ毒を破れるかもしれないわ」
「流石ですね」
身体強化を応用することで自然治癒力や回復力、抵抗力の底上げをして、毒へ身体を適応させることはラティアーナの頃から繰り返し行ってきたことだ。
公爵家の生まれであるカトレアも経験があることなので、特に驚くことでもないだろう。
テントの外へ出て洗浄の魔術で身体や服を綺麗にしていると他の人たちも起きてきたようだった。
「ティア!もう動いていいのか?」
コルネリアスは私の姿を見つけた瞬間、急ぐように駆け寄ってきて、その隣ではイザークが「少しは落ち着け」と抑えようとしていた。
対照的な2人の様子に申し訳ないと思いながらも笑みが溢れそうになる。
「ふむ……顔色はだいぶ良くなっているな」
「コルネリアス様もイザーク様も助けてくれてありがとうございました。おかげで体調もかなり良くなりました」
「友人を助けることは当たり前だろう」
「問題ない。気にするな」
イザークはそう言うと汗を流すために端の方へと歩いて行った。
それを見たコルネリアスは「あいつも根は優しいのだけどね」と苦笑を浮かべていた。
「彼は少し言葉が足りなくてね。身近にいる人のことを大切に思っているから、そこは誤解しないであげて欲しい」
「大丈夫です。イザーク様が優しいことはわかってますから」
よほど感情を隠すのがうまい人でない限りは、表情や視線から相手が私に抱いている感情を察することができる。
イザークとは、そこまで多くの話をしたことはないが、それでも彼の言葉の裏に優しさが隠れていることは知っていた。
それだけではない。イザークを見ているとイリーナやアルトムのことを思い出す。あの2人の子なのだなと感慨深かった。
「それにしてもティアとアスカルテがここまで追い込まれているとは予想外だった。常闇の大迷宮がいくら危険で未知な場所とはいえ、王国の中でも上位の実力を持つ2人でも厳しいとはな」
「私もアスカルテも罠の無力化は得意じゃないですから。本当にここは何なのでしょうね?」
エスペルト王国の各地のことも歴史も王位についていた私は全てを知っているはずだ。少なくともこの迷宮のことは、王城に隠されている王しか入れない禁書庫にも初代国王からの伝言でも、何も言及されていなかった。
「全く予想も付かないね。父上も知らないようだし誰かが意図的に隠していたのか、或いは建国よりも古い時代から存在したのか……2人が戦っていた敵も魔力生命体だろう?あれが父上が言っていた悪魔という存在か……いや、あれが悪魔であるなら私たちが束になったところで勝てたか怪しいかもな」
「悪魔ですか?」
悪魔の存在は公にはされていないはずで、どのような反応をしていいのか困ってしまう。どうしようかと悩んでいると、私とコルネリアスの元に新しい声が聞こえてきた。
「あれは悪魔ではないと思います。恐らく悪獣に近いかと」
「アスカルテ、身体は大丈夫か?」
「おかげさまで。ゆっくり休むことができましたので、ほぼ完治できました」
アスカルテがゆっくりと歩いて近付いてくる。その表情には笑みが浮かんでいて、彼女の言葉通り顔色がだいぶ良くなっているようだった。
「ティア。少し失礼しますよ?」
アスカルテはそう言って私の元へやってくると優しく手で触れてきた。
「アスカルテ?」
何をするのだろうかと、じっと待っていると優しく触れている手から温かい魔力が流れてくる。迷宮の中での何度か治癒の魔術はかけてもらったが、そのどれども違う温かくも優しいものだった。
その力が私の全身へと巡っていくと僅かに重かった身体がすっきりと軽く感じられるようになっていく。
「ありがと……すごく楽になったけど、これって?」
「まだ完全ではありませんが、今回の毒に特化させた解毒用の魔術です」
どうやら、この数日の間に自身を冒している毒の解析を行って特化型の解毒用魔術を新しく開発していたらしい。
「凄いね……」
新しい魔術を一から創り上げるのは、とても難しいことだ。私はもちろんのこと他の魔術を得意とする人でさえ、なかなか出来ないことだろう。そのような高等技術を迷宮の探索と並行して行っていた彼女に驚きが隠せなかった。
「アスカルテはマギルス公爵家当主から魔術の教えを受けているからね。治癒系統の魔術に限って言えば王国の中でも1番だと思うよ……それにしても数日見ない間にアスカルテとティアは随分と仲が良くなったね」
コルネリアスは私とアスカルテの顔を交互に見てしみじみと呟く。
それを見たアスカルテはコルネリアスの耳元で何かを囁いた。なんて言ったのかは分からなかったが、コルネリアスの顔が僅かに赤く染まるのが見えた。
それから少しだけ3人で話した後は、朝食や準備を簡単に済ませてからカトレアやレジーナと共に地上を目指して進み出した。
体調が回復したおかげで進む速度も上がったことで約2日ほど経過すれば、常闇の大迷宮を抜けて洞窟へと辿り着く。さらに半日もすれば洞窟から抜けて久しぶりの地上へ戻ることができた。
空を見て爽やかな風を感じたことで、漸く帰ることができたのだなと実感が湧いてきた。
これくらいであれば十分に身体を動かすことができるだろう。
「おはようございます。体調はどうですか?」
起き上がって自身の調子を確認しているとカトレアがテントの中に入ってきた。どうやら先に起きて汗を流していたらしく、さっぱりとした表情をしていた。
「おはよう。ゆっくり休めたおかげで、かなり良くなったわ」
立ち上がって少し体を動かしてみるが問題はなさそうだった。
「毒の影響も少なくなってる……もう少し時間をかければ毒を破れるかもしれないわ」
「流石ですね」
身体強化を応用することで自然治癒力や回復力、抵抗力の底上げをして、毒へ身体を適応させることはラティアーナの頃から繰り返し行ってきたことだ。
公爵家の生まれであるカトレアも経験があることなので、特に驚くことでもないだろう。
テントの外へ出て洗浄の魔術で身体や服を綺麗にしていると他の人たちも起きてきたようだった。
「ティア!もう動いていいのか?」
コルネリアスは私の姿を見つけた瞬間、急ぐように駆け寄ってきて、その隣ではイザークが「少しは落ち着け」と抑えようとしていた。
対照的な2人の様子に申し訳ないと思いながらも笑みが溢れそうになる。
「ふむ……顔色はだいぶ良くなっているな」
「コルネリアス様もイザーク様も助けてくれてありがとうございました。おかげで体調もかなり良くなりました」
「友人を助けることは当たり前だろう」
「問題ない。気にするな」
イザークはそう言うと汗を流すために端の方へと歩いて行った。
それを見たコルネリアスは「あいつも根は優しいのだけどね」と苦笑を浮かべていた。
「彼は少し言葉が足りなくてね。身近にいる人のことを大切に思っているから、そこは誤解しないであげて欲しい」
「大丈夫です。イザーク様が優しいことはわかってますから」
よほど感情を隠すのがうまい人でない限りは、表情や視線から相手が私に抱いている感情を察することができる。
イザークとは、そこまで多くの話をしたことはないが、それでも彼の言葉の裏に優しさが隠れていることは知っていた。
それだけではない。イザークを見ているとイリーナやアルトムのことを思い出す。あの2人の子なのだなと感慨深かった。
「それにしてもティアとアスカルテがここまで追い込まれているとは予想外だった。常闇の大迷宮がいくら危険で未知な場所とはいえ、王国の中でも上位の実力を持つ2人でも厳しいとはな」
「私もアスカルテも罠の無力化は得意じゃないですから。本当にここは何なのでしょうね?」
エスペルト王国の各地のことも歴史も王位についていた私は全てを知っているはずだ。少なくともこの迷宮のことは、王城に隠されている王しか入れない禁書庫にも初代国王からの伝言でも、何も言及されていなかった。
「全く予想も付かないね。父上も知らないようだし誰かが意図的に隠していたのか、或いは建国よりも古い時代から存在したのか……2人が戦っていた敵も魔力生命体だろう?あれが父上が言っていた悪魔という存在か……いや、あれが悪魔であるなら私たちが束になったところで勝てたか怪しいかもな」
「悪魔ですか?」
悪魔の存在は公にはされていないはずで、どのような反応をしていいのか困ってしまう。どうしようかと悩んでいると、私とコルネリアスの元に新しい声が聞こえてきた。
「あれは悪魔ではないと思います。恐らく悪獣に近いかと」
「アスカルテ、身体は大丈夫か?」
「おかげさまで。ゆっくり休むことができましたので、ほぼ完治できました」
アスカルテがゆっくりと歩いて近付いてくる。その表情には笑みが浮かんでいて、彼女の言葉通り顔色がだいぶ良くなっているようだった。
「ティア。少し失礼しますよ?」
アスカルテはそう言って私の元へやってくると優しく手で触れてきた。
「アスカルテ?」
何をするのだろうかと、じっと待っていると優しく触れている手から温かい魔力が流れてくる。迷宮の中での何度か治癒の魔術はかけてもらったが、そのどれども違う温かくも優しいものだった。
その力が私の全身へと巡っていくと僅かに重かった身体がすっきりと軽く感じられるようになっていく。
「ありがと……すごく楽になったけど、これって?」
「まだ完全ではありませんが、今回の毒に特化させた解毒用の魔術です」
どうやら、この数日の間に自身を冒している毒の解析を行って特化型の解毒用魔術を新しく開発していたらしい。
「凄いね……」
新しい魔術を一から創り上げるのは、とても難しいことだ。私はもちろんのこと他の魔術を得意とする人でさえ、なかなか出来ないことだろう。そのような高等技術を迷宮の探索と並行して行っていた彼女に驚きが隠せなかった。
「アスカルテはマギルス公爵家当主から魔術の教えを受けているからね。治癒系統の魔術に限って言えば王国の中でも1番だと思うよ……それにしても数日見ない間にアスカルテとティアは随分と仲が良くなったね」
コルネリアスは私とアスカルテの顔を交互に見てしみじみと呟く。
それを見たアスカルテはコルネリアスの耳元で何かを囁いた。なんて言ったのかは分からなかったが、コルネリアスの顔が僅かに赤く染まるのが見えた。
それから少しだけ3人で話した後は、朝食や準備を簡単に済ませてからカトレアやレジーナと共に地上を目指して進み出した。
体調が回復したおかげで進む速度も上がったことで約2日ほど経過すれば、常闇の大迷宮を抜けて洞窟へと辿り着く。さらに半日もすれば洞窟から抜けて久しぶりの地上へ戻ることができた。
空を見て爽やかな風を感じたことで、漸く帰ることができたのだなと実感が湧いてきた。
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