王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

33 アスカルテとの関係

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 私とアスカルテは互いに横に跳んだ。

 悪獣の大太刀が地面にぶつかった瞬間、部屋全体が揺れる。衝撃によって瓦礫が吹き飛び地面に大きな亀裂が入る。
 まともに受ければ最悪の場合は即死するかもしれないくらいの威力がありそうだ。

「他の魔物とは別格のようですね」

 アスカルテは大太刀を避けると同時に聖属性と炎熱属性を融合した白く輝く炎槍を放っていた。それらは悪獣の身体に命中するが表面を少し傷つけるだけで弾かれてしまう。

「なかなか硬そうですね。それに……」

 私は身体強化と行使して悪獣との距離を詰めると障壁を足場に空中へ跳躍する。悪獣の大太刀による薙ぎ払いを空中で避けて更に距離を詰めると刀を抜いて魔力を込めた。

「辰月」

 刀身から黒龍の力が解き放たれる。
 私はそれを刀身に纏わせてそのまま振り下ろした。

「GYA!?」

 魔力を霧散させる黒龍の力を持った斬撃は悪獣の大太刀を持っていた右腕を斬り落とした。これには悪獣も驚いたようで悲鳴のような鳴き声を上げるが、斬った部分が再生していくと何事もなかったかのように動き出して左手を振り上げようとする。
 私は悪獣の攻撃にあわせて聖属性の魔力を纏わせた全力の蹴りを放って更に距離をとった。

「スケルトンと同じですね。恐らくは核を潰さないことには倒せないでしょう。アスカルテ様」

 私が隣に視線を向けて名を呼ぶとアスカルテも分かっていると頷く。

「ええ……ティアのおかげで最上級魔術を準備することができました。これなら……」

 アスカルテは待機させていた魔術を展開した。悪獣の足元に術式が展開されると白く輝く鎖が敵を逃さまいと縛り上げていく。
 さらには金色の炎が溢れ出し悪獣の全身を包み込もうと巨大な火柱が巻き起こった。金色の炎は魔力を含めた触れたもの全てを焼き尽くそうとする。

「これでも倒しきれませんか……」

 悪獣は身体を焼かれながらも何とか再生しようと蠢いていた。その姿はまるで生き物を超えた何かに思えて醜悪で悍ましいように見える。

「ですがアスカルテ様のおかげで回復の基点が丸わかりです。ここまで核の場所が露見していれば……」

 辰月と夜月を抜刀し、それぞれの刀身に魔力を流し込む。黒龍の力と邪気による巨大な魔力の刃を生み出すと交差させるように薙ぎ払った。
 十字に交差した2つの黒い斬撃は、悪獣の核となる場所に命中すると4分割に斬り裂かれた。

「GYAAAAOOOO!?」

 悪獣は苦しそうに呻き声を上げると、その身体を霧のように霧散させながら消えていった。

「終わりましたね」

「ええ。思ったよりも楽に勝てました。色々と聞きたいことはありますが……」

 アスカルテの視線が両手に持っている刀に向けられていて「あはは」と誤魔化すように苦笑してしまう。
 何も知らない人から見れば唯の刀だがアスカルテのような実力者が見れば高位の魔剣以上の武具ということがわかるはずだ。ラティアーナとしての前世を説明せずにこの2刀を説明することはできないため、アスカルテになんて言おうかと思い悩んでしまう。

「それよりも1つ言いたいことがあります」

「……なんでしょうか?」

 表情に出さないものの内心でドキドキしているとアスカルテの次の言葉に思わず素っ頓狂な声をあげそうになった。

「そろそろ、わたくしとも敬語じゃなくて普通で良いと思いませんか?」

「……アスカルテ様も敬語じゃないですか?」

 アスカルテが砕けた口調で話している所を見たことがなかった。昔からの付き合いがあるはずのレジーナやよく一緒に行動しているコルネリアスとも丁寧な口調だ。

「わたくしの場合は家族以外には敬語ですので。ですがティアの場合は仲が良い人には砕けた口調で話すじゃないですか」

「……私は平民でアスカルテ様は公爵令嬢です。ただでさえ私は他の貴族子息から良い印象を持たれていないのにアスカルテ様と気安く接していたら恨みを買いそうじゃないですか?」

 アイリーンに対しては気安く接していたので苦い言い訳だと思えた。
 一応言い訳をするとすれば貴族の中でも下位貴族と上位貴族でもかなりの隔たりがある。こう言うのは少し心苦しいが爵位にこだわりを持つ貴族の大半は一部を除いて下位の貴族家を心に留めていないだろう。

「貴族だというならアイリーンさんも同じです。それに、本人であるわたくし自信がお願いしているのです。他の誰にも文句を言われる謂れはないですし……ティアなら大丈夫だと思うのですよね。貴族慣れしているように見えますし」

 アスカルテの言葉に思わず黙り込む。
 正直なところ私的な場はもちろんのこと、王立学園の中でなら気安く接しても問題はないはないだろう。グラディウス公爵家以外の貴族が私に不敬だと言うことはできないし、彼女のことを慕っている貴族子息から悪く思われたとしても、所詮はアスカルテの意思を無視して都合よく慕っている連中だ。
 そのような相手と私自身は仲を深めようなどとは考えたくもない。
 たとえ嫌がらせをされたとしてもラティアーナとしての知識を使えばいくらでも対抗する手段はある。

 であれば気にしなくても良いかと思えてきた。

「そうです……いや、そうだね。じゃあ公的な場以外の時は砕けた口調で話すよ。アスカルテもそれで良い?」

「もちろんです」

相変わらず何かしらに巻き込まれる実践演習だが、アスカルテとの仲が進展したことを考えると良かったと思えたのだった。
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