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第13章 2度目の学園生活
24 迷宮で過ごす夜
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常闇の大迷宮での戦闘は思いのほか順調に進んでいた。
ダンジョンに出現する魔物はほぼ全てが魔力で身体を構成する類のものだ。これらの魔物に対しては物理攻撃や魔術攻撃に関わらず核を狙うって消滅させるか、身体を削って魔力を消耗させるしか倒す方法はない。
だが身体を構築する魔力の質や量によっては小さな個体でも下位の竜に匹敵する硬さを持っている場合もあった。
けれど、私やアスカルテ、マリアが得意とする聖属性の魔術は魔物だけでなく魔力で身体を構成している相手に対しても効果が高い。さらにはレジーナも聖属性を織り込んだ魔力の糸を扱かうことができる。
この常闇の大迷宮は私たちにとって相性が良い場所だった。
そういうわけで魔物との戦闘に苦労することもなく2階層へ繋がる階段を発見。時間的にも丁度良かったため、近くにある袋小路の小部屋で野営をすることになった。
「マリアさん。魔避けの結界をお願いします」
「わかりました。通路を閉じますね」
魔避けの結界は魔術具と同じように魔物を遠ざける効果を持つ。魔術具よりも魔力の効率は悪いが範囲の指定は融通が利く。今回のように通路をふさぐ扉のような結界は魔術でしかできないことだ。
「あとは念のため……」
アスカルテは部屋の中央に立ってこつんと杖を地面に当てると複雑な術式を描いていた。これは感知用の結界で侵入者を検知すると音を鳴らす魔術だ。
「わたくしの方でも仕掛けを増やしておくわよ」
レジーナはアスカルテの張った結界を確認し、いくつかの魔力糸を通路や壁、床に撃ち込んだ。周囲の色に溶け込みやすい色に調節されていて注意して見なければ気付かないだろう。これであれば結界を透過されたとしても物理的に捉えることができる。
この3つが合わさればまさに鉄壁の野営地だろう。
アスカルテやレジーナが周囲の守りを固めている間に私は食事の用意を始めた。支給された器と携帯用食糧を人数分取り出し、魔術によって集めた水を熱湯にしてからそれぞれの器に注ぎ込んで携帯用食糧を入れて混ぜていく。スープ状になったところで、私物として持参した凍らせた肉や野菜を追加し、最後に調味料や香辛料に加えて味を整えれば完成だ。
「テントの設営は終わりました」
「良い匂いだね。野営での食事ってもっと簡素なのかと思ってた」
丁度いいタイミングでやってきたのはアイリーンとマリアだった。野営用の大きめのテントを建て終えたようで私が調理したものを見て目を輝かせている。
「ちょっと工夫をね。皆を呼んできてもらえる?」
「わたくしが呼んできますね」
「じゃあ私は運ぶのを手伝おうかな」
アイリーンがアスカルテとレジーナを呼びに行っている間に私たちはすぐに食事ができるように準備をした。
作ったスープに加えて凍らせて持ってきていたパンを添えれば栄養だけでなく満足できる食事になる。
「お待たせしました。すごく美味しそうですね」
「ええ。ここまでの食事ができるとは思ってもなかったですわ」
一通り準備が終わったところでアイリーンが呼びに行ったアスカルテとレジーナが戻ってきた。
「ありがとうございます。口に合うと良いんだけど……」
王立学園に入るまでの1年間は何度か料理をしたこともあるが基本的に食べに行くことが多い私だ。ラティアーナの頃も含めて作った物を誰かに食べてもらうことはあまりなかった。内心でドキドキしているのを隠しながら皆が食べるのを待っていると「美味しい……」と声が聞こえてきて安堵した。
「良かった……色々と準備してきたかいがありました」
「これだけの準備となると大変だったのではないですか?野営でここまでの物は食べたことがないですよ」
「そうですわね。前にお父様と一緒に魔物討伐に出かけた時もここまでの物はありませんでしたわ」
「えっ!?お2人でも食べたことがないんですか!?」
アスカルテやレジーナの言葉にマリアが驚いたように声をあげる。どうやら貴族であれば野営でもこれくらいの物は食べると思っていたようで2人の言葉がとても意外だったらしい。
「王国軍の食事はもっと質素ですよ。基本的には携帯用食糧を水かお湯で溶かしただけですからね。現地で狩りや採集をすることもありますが運次第ですし」
「そうですわね。他だと近くに街があれば食料を調達するくらいじゃないかしら。一体どうやって食材を持ち込んだのよ?」
「魔法袋の中に冷凍用の魔術具入りの箱をしまっているだけですよ。数日に1回くらい魔力供給をすれば食材を冷凍保存できるので重宝します」
冷凍用の魔術具は一定範囲内の空気を氷点下にする魔術具だ。城などでは冷凍室に使われている物で、私の場合は小型した魔術具を使っていた。
ラティアーナの頃は魔力が少なかったせいで扱うことが難しかった。だが今の私であれば気にならない程度の魔力消費だ。
「魔法袋もだけれど……冷凍魔術具なんて個人で持っている人はあまりいないわよ」
「2人も持ってますし冒険者だって持っている人はいるじゃないですか。それに冷凍魔術具も買える物ですよ?」
私が使っている魔法袋はラティアーナの頃に作った特注品とはいえ身分に関係なく買うことができる物だ。材料持ち込みであれば金貨1枚もあれば依頼できるだろう。冷凍魔術具も個人の飲食店で使っている場合もあり珍しいわけではない。
「その魔法袋は例外中の例外ですわよ……それに重い物を入れるほど魔力を消耗するから並の人間では魔力切れを起こしかねないもの……まぁ、美味しいから助かるけれど……」
「ふふ。ありがとう」
レジーナは呆れたような表情を私に向けながらも顔を少し赤らめて小さく囁くくらいの声でお礼を言う。
この2ヶ月で分かってきたことだが、レジーナはわざと貴族のお嬢様然とした態度をとっているようだ。たまに見せる素直な所や照れ屋なところなど意外と可愛らしいところがある。
そのような感じで和気藹々とした夕食の時間を過ごした。
ダンジョンに出現する魔物はほぼ全てが魔力で身体を構成する類のものだ。これらの魔物に対しては物理攻撃や魔術攻撃に関わらず核を狙うって消滅させるか、身体を削って魔力を消耗させるしか倒す方法はない。
だが身体を構築する魔力の質や量によっては小さな個体でも下位の竜に匹敵する硬さを持っている場合もあった。
けれど、私やアスカルテ、マリアが得意とする聖属性の魔術は魔物だけでなく魔力で身体を構成している相手に対しても効果が高い。さらにはレジーナも聖属性を織り込んだ魔力の糸を扱かうことができる。
この常闇の大迷宮は私たちにとって相性が良い場所だった。
そういうわけで魔物との戦闘に苦労することもなく2階層へ繋がる階段を発見。時間的にも丁度良かったため、近くにある袋小路の小部屋で野営をすることになった。
「マリアさん。魔避けの結界をお願いします」
「わかりました。通路を閉じますね」
魔避けの結界は魔術具と同じように魔物を遠ざける効果を持つ。魔術具よりも魔力の効率は悪いが範囲の指定は融通が利く。今回のように通路をふさぐ扉のような結界は魔術でしかできないことだ。
「あとは念のため……」
アスカルテは部屋の中央に立ってこつんと杖を地面に当てると複雑な術式を描いていた。これは感知用の結界で侵入者を検知すると音を鳴らす魔術だ。
「わたくしの方でも仕掛けを増やしておくわよ」
レジーナはアスカルテの張った結界を確認し、いくつかの魔力糸を通路や壁、床に撃ち込んだ。周囲の色に溶け込みやすい色に調節されていて注意して見なければ気付かないだろう。これであれば結界を透過されたとしても物理的に捉えることができる。
この3つが合わさればまさに鉄壁の野営地だろう。
アスカルテやレジーナが周囲の守りを固めている間に私は食事の用意を始めた。支給された器と携帯用食糧を人数分取り出し、魔術によって集めた水を熱湯にしてからそれぞれの器に注ぎ込んで携帯用食糧を入れて混ぜていく。スープ状になったところで、私物として持参した凍らせた肉や野菜を追加し、最後に調味料や香辛料に加えて味を整えれば完成だ。
「テントの設営は終わりました」
「良い匂いだね。野営での食事ってもっと簡素なのかと思ってた」
丁度いいタイミングでやってきたのはアイリーンとマリアだった。野営用の大きめのテントを建て終えたようで私が調理したものを見て目を輝かせている。
「ちょっと工夫をね。皆を呼んできてもらえる?」
「わたくしが呼んできますね」
「じゃあ私は運ぶのを手伝おうかな」
アイリーンがアスカルテとレジーナを呼びに行っている間に私たちはすぐに食事ができるように準備をした。
作ったスープに加えて凍らせて持ってきていたパンを添えれば栄養だけでなく満足できる食事になる。
「お待たせしました。すごく美味しそうですね」
「ええ。ここまでの食事ができるとは思ってもなかったですわ」
一通り準備が終わったところでアイリーンが呼びに行ったアスカルテとレジーナが戻ってきた。
「ありがとうございます。口に合うと良いんだけど……」
王立学園に入るまでの1年間は何度か料理をしたこともあるが基本的に食べに行くことが多い私だ。ラティアーナの頃も含めて作った物を誰かに食べてもらうことはあまりなかった。内心でドキドキしているのを隠しながら皆が食べるのを待っていると「美味しい……」と声が聞こえてきて安堵した。
「良かった……色々と準備してきたかいがありました」
「これだけの準備となると大変だったのではないですか?野営でここまでの物は食べたことがないですよ」
「そうですわね。前にお父様と一緒に魔物討伐に出かけた時もここまでの物はありませんでしたわ」
「えっ!?お2人でも食べたことがないんですか!?」
アスカルテやレジーナの言葉にマリアが驚いたように声をあげる。どうやら貴族であれば野営でもこれくらいの物は食べると思っていたようで2人の言葉がとても意外だったらしい。
「王国軍の食事はもっと質素ですよ。基本的には携帯用食糧を水かお湯で溶かしただけですからね。現地で狩りや採集をすることもありますが運次第ですし」
「そうですわね。他だと近くに街があれば食料を調達するくらいじゃないかしら。一体どうやって食材を持ち込んだのよ?」
「魔法袋の中に冷凍用の魔術具入りの箱をしまっているだけですよ。数日に1回くらい魔力供給をすれば食材を冷凍保存できるので重宝します」
冷凍用の魔術具は一定範囲内の空気を氷点下にする魔術具だ。城などでは冷凍室に使われている物で、私の場合は小型した魔術具を使っていた。
ラティアーナの頃は魔力が少なかったせいで扱うことが難しかった。だが今の私であれば気にならない程度の魔力消費だ。
「魔法袋もだけれど……冷凍魔術具なんて個人で持っている人はあまりいないわよ」
「2人も持ってますし冒険者だって持っている人はいるじゃないですか。それに冷凍魔術具も買える物ですよ?」
私が使っている魔法袋はラティアーナの頃に作った特注品とはいえ身分に関係なく買うことができる物だ。材料持ち込みであれば金貨1枚もあれば依頼できるだろう。冷凍魔術具も個人の飲食店で使っている場合もあり珍しいわけではない。
「その魔法袋は例外中の例外ですわよ……それに重い物を入れるほど魔力を消耗するから並の人間では魔力切れを起こしかねないもの……まぁ、美味しいから助かるけれど……」
「ふふ。ありがとう」
レジーナは呆れたような表情を私に向けながらも顔を少し赤らめて小さく囁くくらいの声でお礼を言う。
この2ヶ月で分かってきたことだが、レジーナはわざと貴族のお嬢様然とした態度をとっているようだ。たまに見せる素直な所や照れ屋なところなど意外と可愛らしいところがある。
そのような感じで和気藹々とした夕食の時間を過ごした。
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