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第13章 2度目の学園生活
22 ダンジョン演習開始
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王立学園に入学してからおよそ2月が経過しダンジョンへの演習の日がやってきた。
目的のダンジョンが存在する森までは馬車で半日ほどと近い場所にある。今回の演習は教師とAクラスの生徒のみ参加するため各2、3人ずつの馬車6台で向かっていた。
私が乗る馬車はアイリーンやマリアと一緒だ。最初の内は楽しく会話していたが、春の陽気が心地よくカタカタと丁度いい揺れが二人を眠りへと誘ったらしい。二人ともすぅすぅと心地よさそうにしていた。
「たまにはこんな時間も悪くないかな」
私は2人の寝顔を眺めつつ、ここ最近の出来事を思い返していた。
生徒会では何度か集まりや仕事を行った。相変わらずイグナイツやアインハルトからの当たりは強いが、幸いなことに仕事を教えてくれるフルールは親切にしてくれている。それに私自身も書類仕事には得意な方だと思っているし、他の人に負けないくらいの経験を積んでいる自負がある。
生徒会の仕事に不備もない以上は嫌味なことを言うくらいしかできないだろう。
例の蛇の贈り物についても誰の仕業かは分かっていない。元々、あの手の嫌がらせは犯人が分かりづらく、たとえ露見したとしても贈り物しただけだと通すことができる昔ながらの手法だ。
あれから一度だけ蜘蛛が入れられた小包が贈られたことがあったが小さかったおかげで投げ飛ばすだけで済んでいた。蛇も蜘蛛も毒をもたない安全な生物を選んでいるあたり、私を傷つけようとまでは思っていないように感じた。
そのような事を考えながら窓の外を眺めていると流れていた景色がゆっくりと止まった。馬車の揺れも静かになり御者から「着きましたよ」と声が聞こえてきた。
馬車を降りると辺りには森が広がっていた。ここはラティアーナだった頃にも演習を行った森でもある。当時はダンジョンなど発見されていなかったが、あの頃のことを思い浮かべるとどこか懐かしく感じた。
「では最終確認です。期間は三日後の正午……それまでにダンジョンの第3階層にある調査拠点へ目指してもらいます。それから事前に渡した物の中には地図もありますので、記載されている中継地点を通ってからダンジョンに入ってください」
今回の演習にあたって最低限の地図と食糧、薬品類や魔術具は支給されていた。全部でリュックサイズくらいの大きさで人によっては個人で持ち込んだものを入れていることもあった。
「基本的には班ごとに活動してもらいますが、緊急時には渡した魔術具で連絡をしてください。近くにいる教師や調査隊が駆けつけてくれます」
ダンジョンの調査を行っている部隊は、ある程度の人数をこの場所に常駐させているそうだ。今回の演習でも協力関係にあって危険が迫っている場合は助けてくれるらしい。
「それでは開始してください」
カトレアの合図で私たちは森の中へと入っていった。陽が高く昇っている時間ということもあって比較的明るく見通しも良い状態だ。
「明るいうちに森を突破してダンジョンに入りたいところですね」
「そうですね。暗い森は慣れない人によってはきついでしょうし魔物も強くなりますから……っと」
先頭をアスカルテと共に歩いていると視界の端に狼の魔物の群れが映った。
咄嗟に魔力弾を放って3体ほど仕留めるとアスカルテが放った魔力砲が4体ほど消し飛ばした。
「ブラックウルフの群れは全滅のようですね。皆さんも大丈夫ですか?」
アスカルテが後ろを振り返りながら確認するとアイリーンが苦笑しながら答えた。隣ではマリアが顔色を悪くして杖を強く握りながらもコクコクと頷いている。
「そもそも私たちの出る幕はありませんでしたし……マリアさんは大丈夫ですか?」
「何度か魔物とは戦いましたけど……あんなに速いとは思いませんでした」
授業の中では数回ほど学園都市の近くで魔物との戦闘訓練を行っていた。そこは街道から離れた森の入口のような場所である程度視界が開けた場所で、現れる魔物もゴブリンのような弱い魔物だけだ。ブラックウルフのように素早く群れで襲ってくる魔物は今回が初だろう。
「前はわたくしとティアが、後ろはレジーナが抑えます。アイリーンさんとマリアさんは支援に徹してもらえれば大丈夫だと思いますよ」
「いざというときはマリアの障壁を使えばいいと思う。あれは魔物に対して相性がいいから」
マリアの聖属性魔術は、邪気や魔物相手に特化しているものが多い。相手の動きについていけなくても全方位を守るようにすれば怪我を負うことはないだろう。
「それに、もし怪我をしたとしても治癒魔術があるから油断はできないけど過度に気を張らなくてもいいよ」
「そうですわね。それに効果の高い薬も持ち込んでますので安心してくださいな」
最後にレジーナが微笑んで言うとマリアも安心したように「ありがとうございます」と言葉にした。
そのように時折会話も挟みつつも森の中を順調に進むことができた。何度か魔物と戦いながらも無事に中継地点を突破し日が暮れ始める頃にはダンジョンの入り口に到達した。
目的のダンジョンが存在する森までは馬車で半日ほどと近い場所にある。今回の演習は教師とAクラスの生徒のみ参加するため各2、3人ずつの馬車6台で向かっていた。
私が乗る馬車はアイリーンやマリアと一緒だ。最初の内は楽しく会話していたが、春の陽気が心地よくカタカタと丁度いい揺れが二人を眠りへと誘ったらしい。二人ともすぅすぅと心地よさそうにしていた。
「たまにはこんな時間も悪くないかな」
私は2人の寝顔を眺めつつ、ここ最近の出来事を思い返していた。
生徒会では何度か集まりや仕事を行った。相変わらずイグナイツやアインハルトからの当たりは強いが、幸いなことに仕事を教えてくれるフルールは親切にしてくれている。それに私自身も書類仕事には得意な方だと思っているし、他の人に負けないくらいの経験を積んでいる自負がある。
生徒会の仕事に不備もない以上は嫌味なことを言うくらいしかできないだろう。
例の蛇の贈り物についても誰の仕業かは分かっていない。元々、あの手の嫌がらせは犯人が分かりづらく、たとえ露見したとしても贈り物しただけだと通すことができる昔ながらの手法だ。
あれから一度だけ蜘蛛が入れられた小包が贈られたことがあったが小さかったおかげで投げ飛ばすだけで済んでいた。蛇も蜘蛛も毒をもたない安全な生物を選んでいるあたり、私を傷つけようとまでは思っていないように感じた。
そのような事を考えながら窓の外を眺めていると流れていた景色がゆっくりと止まった。馬車の揺れも静かになり御者から「着きましたよ」と声が聞こえてきた。
馬車を降りると辺りには森が広がっていた。ここはラティアーナだった頃にも演習を行った森でもある。当時はダンジョンなど発見されていなかったが、あの頃のことを思い浮かべるとどこか懐かしく感じた。
「では最終確認です。期間は三日後の正午……それまでにダンジョンの第3階層にある調査拠点へ目指してもらいます。それから事前に渡した物の中には地図もありますので、記載されている中継地点を通ってからダンジョンに入ってください」
今回の演習にあたって最低限の地図と食糧、薬品類や魔術具は支給されていた。全部でリュックサイズくらいの大きさで人によっては個人で持ち込んだものを入れていることもあった。
「基本的には班ごとに活動してもらいますが、緊急時には渡した魔術具で連絡をしてください。近くにいる教師や調査隊が駆けつけてくれます」
ダンジョンの調査を行っている部隊は、ある程度の人数をこの場所に常駐させているそうだ。今回の演習でも協力関係にあって危険が迫っている場合は助けてくれるらしい。
「それでは開始してください」
カトレアの合図で私たちは森の中へと入っていった。陽が高く昇っている時間ということもあって比較的明るく見通しも良い状態だ。
「明るいうちに森を突破してダンジョンに入りたいところですね」
「そうですね。暗い森は慣れない人によってはきついでしょうし魔物も強くなりますから……っと」
先頭をアスカルテと共に歩いていると視界の端に狼の魔物の群れが映った。
咄嗟に魔力弾を放って3体ほど仕留めるとアスカルテが放った魔力砲が4体ほど消し飛ばした。
「ブラックウルフの群れは全滅のようですね。皆さんも大丈夫ですか?」
アスカルテが後ろを振り返りながら確認するとアイリーンが苦笑しながら答えた。隣ではマリアが顔色を悪くして杖を強く握りながらもコクコクと頷いている。
「そもそも私たちの出る幕はありませんでしたし……マリアさんは大丈夫ですか?」
「何度か魔物とは戦いましたけど……あんなに速いとは思いませんでした」
授業の中では数回ほど学園都市の近くで魔物との戦闘訓練を行っていた。そこは街道から離れた森の入口のような場所である程度視界が開けた場所で、現れる魔物もゴブリンのような弱い魔物だけだ。ブラックウルフのように素早く群れで襲ってくる魔物は今回が初だろう。
「前はわたくしとティアが、後ろはレジーナが抑えます。アイリーンさんとマリアさんは支援に徹してもらえれば大丈夫だと思いますよ」
「いざというときはマリアの障壁を使えばいいと思う。あれは魔物に対して相性がいいから」
マリアの聖属性魔術は、邪気や魔物相手に特化しているものが多い。相手の動きについていけなくても全方位を守るようにすれば怪我を負うことはないだろう。
「それに、もし怪我をしたとしても治癒魔術があるから油断はできないけど過度に気を張らなくてもいいよ」
「そうですわね。それに効果の高い薬も持ち込んでますので安心してくださいな」
最後にレジーナが微笑んで言うとマリアも安心したように「ありがとうございます」と言葉にした。
そのように時折会話も挟みつつも森の中を順調に進むことができた。何度か魔物と戦いながらも無事に中継地点を突破し日が暮れ始める頃にはダンジョンの入り口に到達した。
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