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第13章 2度目の学園生活
16 氷の世界
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ローザリンデの視界が開けると目の前には氷の世界が広がっていた。空気も冷たく口を開けただけでも白い息が漏れ出し、足元には薄く広がった氷が苔のように地面全てを覆っている。
「さむっ……これが悪魔の創り出した世界ですか……」
杖を構え周りを警戒しながらも、想定外の寒さに身体をブルブルと震わせながら呟いた。あの悪魔は闇の魔力が強く氷のイメージがなかったからだ。
「これは悪魔とは関係ありませんよ。特級魔術……絶対凍結と永久凍獄の余波です」
絶対凍結や永久凍獄は魔術書に書かれている氷系統の魔術としては最高クラスのものだ。絶対凍結は温度を極限まで下げ擬似的な時間停止さえも発生し、永久凍獄は魔力や生命力を奪う氷に閉じ込めるもの。
けれど魔術の発動時を見ているならば分かるが、魔術が発動された痕跡だけでは判別ができないはずだった。
「……先程までもそうですが、まるでここに来たことがあるかのような物言いですね」
ティアの直接見て知っているような物言いにローザリンデはつい目を細めてしまう。
「ええ。今の私ではありませんがここに来たことはありますよ。私には……ラティアーナとしての記憶がありますから」
「は……な、なにを?」
ローザリンデは聞こえてきた言葉が理解できずに呆然と返事を返す。
「私は貴方の姉であるラティアーナの生まれ変わりだと言ったのです」
「っ……わたくしの大切なお姉様の名を出せば信じるとでも!?」
唐突に出てきた大切な姉の名前に強い怒りを覚えた。
もしも大切な姉を騙り貶めるのであれば相手が誰であっても許さない。あの頃の出来事はもう2度と帰ってこない一生の宝物なのだから。
けれど、同時に少しだけあり得ない話ではないのかも知れないと僅かな希望に縋りたい気持ちも湧き上がってくる。
様々な感情がごちゃごちゃに混ざりあいローザリンデから魔力が吹き荒れて、魔力の威圧がティアに対して襲いかかった。
「慎重な貴方は簡単には信じないと思っているわ。だからこそ、ここで説明した方が良いと思ったの」
「どういう意味ですか?」
「王立学園の地下にある王鍵と繋がっている部屋。大昔に封印された悪魔について。そして10年前にわたくしとローザリンデとリーファスの三人で王立学園に向かい悪魔と戦ったこと。その全てを知る人間はそう多くないはずよ?」
「……貴方が本当にお姉様なのだとしたら何故今まで黙っていたのですか?少なくとも王立学園に入学した後であれば面会することはできたでしょうに……」
「元々、正体を問われたときには嘘はつかないつもりだったけど、わたくしから伝えるかどうかは迷っていたのよ……わたくしはラティアーナとしての記憶を持っているけれど、ティアとして新しい命を生きていることでもある。貴方たちの事は心配だったけれど過去の人が邪魔をするよりもティアとして新しい関係を築けるなら、そのほうが良いのかも知れないとも思っていたから」
「どうして今になってこのような事を?王立学園の中で変な動きを見せれば怪しまれることくらい貴方だったらわかっているでしょう?」
「ティアとして新しい人生を生きるとしても困難に立ち向かうためには力が必要だった。大切な人たちを守るだけじゃなく……私自身を守るためにも。今度こそ自身の生を途中で終わらせないためにも。だからエスペルト王国に帰った時には、かつて相棒として戦いを共にした辰月や夜月を取り戻すつもりだった。それにラティアーナが持っていた魔法袋にはわたくしが大切にしていた物もあるわ……親友たちとお揃いのアクセサリーとかね」
「アクセサリー……ですか?」
「ええ。4人で分けて持つシロツメクサのね……そう言えば嬉しかったのよ?入学式の時にシャンパンガーネットの首飾りを付けていたでしょう?ローザリンデに唯一贈ることができたプレゼントだったからね」
ティアはローザリンデから放たれる魔力の圧を浴びながらも涼しげな表情を見せていた。口調も普段の丁寧な物言いから貴族や王族らしさを感じさせるものへと変化していた。とてもではないが信じられないと思いつつも、ローザリンデの記憶の中に存在するラティアーナの姿を思い起こされた。
ローザリンデの荒ぶっていた魔力はいつの間にか落ち着き、凪のように静かになっていた。
「……信じたいと思います。お姉様しか知らないはずの事を知っていて実際にこうして話してみると、とても懐かしい気持ちになりましたから」
ローザリンデは顔をくしゃりと歪ませて揺れた瞳でティアのことを見つめる。優しげなティアの笑みは姿形は違くとも大切な姉の姿と被る。確証はなくてもローザリンデの心が彼女がラティアーナなのだと告げているようだった。
「信じてくれてありがとう……それからごめんね」
ティアが瞳を潤わせながら謝る姿にローザリンデの涙腺が静かに決壊していく。ポタポタと涙を流しながらそっと近づくと、ローザリンデはティアの小さな身体を抱きしめた。
「かまいません……またこうして話せただけで……充分です、から……」
「そう……ありがとう」
白い息が交わる中で抱擁を交わすのだった。
「さむっ……これが悪魔の創り出した世界ですか……」
杖を構え周りを警戒しながらも、想定外の寒さに身体をブルブルと震わせながら呟いた。あの悪魔は闇の魔力が強く氷のイメージがなかったからだ。
「これは悪魔とは関係ありませんよ。特級魔術……絶対凍結と永久凍獄の余波です」
絶対凍結や永久凍獄は魔術書に書かれている氷系統の魔術としては最高クラスのものだ。絶対凍結は温度を極限まで下げ擬似的な時間停止さえも発生し、永久凍獄は魔力や生命力を奪う氷に閉じ込めるもの。
けれど魔術の発動時を見ているならば分かるが、魔術が発動された痕跡だけでは判別ができないはずだった。
「……先程までもそうですが、まるでここに来たことがあるかのような物言いですね」
ティアの直接見て知っているような物言いにローザリンデはつい目を細めてしまう。
「ええ。今の私ではありませんがここに来たことはありますよ。私には……ラティアーナとしての記憶がありますから」
「は……な、なにを?」
ローザリンデは聞こえてきた言葉が理解できずに呆然と返事を返す。
「私は貴方の姉であるラティアーナの生まれ変わりだと言ったのです」
「っ……わたくしの大切なお姉様の名を出せば信じるとでも!?」
唐突に出てきた大切な姉の名前に強い怒りを覚えた。
もしも大切な姉を騙り貶めるのであれば相手が誰であっても許さない。あの頃の出来事はもう2度と帰ってこない一生の宝物なのだから。
けれど、同時に少しだけあり得ない話ではないのかも知れないと僅かな希望に縋りたい気持ちも湧き上がってくる。
様々な感情がごちゃごちゃに混ざりあいローザリンデから魔力が吹き荒れて、魔力の威圧がティアに対して襲いかかった。
「慎重な貴方は簡単には信じないと思っているわ。だからこそ、ここで説明した方が良いと思ったの」
「どういう意味ですか?」
「王立学園の地下にある王鍵と繋がっている部屋。大昔に封印された悪魔について。そして10年前にわたくしとローザリンデとリーファスの三人で王立学園に向かい悪魔と戦ったこと。その全てを知る人間はそう多くないはずよ?」
「……貴方が本当にお姉様なのだとしたら何故今まで黙っていたのですか?少なくとも王立学園に入学した後であれば面会することはできたでしょうに……」
「元々、正体を問われたときには嘘はつかないつもりだったけど、わたくしから伝えるかどうかは迷っていたのよ……わたくしはラティアーナとしての記憶を持っているけれど、ティアとして新しい命を生きていることでもある。貴方たちの事は心配だったけれど過去の人が邪魔をするよりもティアとして新しい関係を築けるなら、そのほうが良いのかも知れないとも思っていたから」
「どうして今になってこのような事を?王立学園の中で変な動きを見せれば怪しまれることくらい貴方だったらわかっているでしょう?」
「ティアとして新しい人生を生きるとしても困難に立ち向かうためには力が必要だった。大切な人たちを守るだけじゃなく……私自身を守るためにも。今度こそ自身の生を途中で終わらせないためにも。だからエスペルト王国に帰った時には、かつて相棒として戦いを共にした辰月や夜月を取り戻すつもりだった。それにラティアーナが持っていた魔法袋にはわたくしが大切にしていた物もあるわ……親友たちとお揃いのアクセサリーとかね」
「アクセサリー……ですか?」
「ええ。4人で分けて持つシロツメクサのね……そう言えば嬉しかったのよ?入学式の時にシャンパンガーネットの首飾りを付けていたでしょう?ローザリンデに唯一贈ることができたプレゼントだったからね」
ティアはローザリンデから放たれる魔力の圧を浴びながらも涼しげな表情を見せていた。口調も普段の丁寧な物言いから貴族や王族らしさを感じさせるものへと変化していた。とてもではないが信じられないと思いつつも、ローザリンデの記憶の中に存在するラティアーナの姿を思い起こされた。
ローザリンデの荒ぶっていた魔力はいつの間にか落ち着き、凪のように静かになっていた。
「……信じたいと思います。お姉様しか知らないはずの事を知っていて実際にこうして話してみると、とても懐かしい気持ちになりましたから」
ローザリンデは顔をくしゃりと歪ませて揺れた瞳でティアのことを見つめる。優しげなティアの笑みは姿形は違くとも大切な姉の姿と被る。確証はなくてもローザリンデの心が彼女がラティアーナなのだと告げているようだった。
「信じてくれてありがとう……それからごめんね」
ティアが瞳を潤わせながら謝る姿にローザリンデの涙腺が静かに決壊していく。ポタポタと涙を流しながらそっと近づくと、ローザリンデはティアの小さな身体を抱きしめた。
「かまいません……またこうして話せただけで……充分です、から……」
「そう……ありがとう」
白い息が交わる中で抱擁を交わすのだった。
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