王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

15 ティアの目的

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「ティア……何故貴女がここに……いや、そもそもどうしてこの場所を知っているのですか!?」

 ローザリンデは驚きのあまり目の前の光景が信じられなかった。

 王立学園の地下にある特別な空間は国王夫妻と公爵家当主夫妻、そして10年くらい前の事件の調査に協力してもらったシリウスとアルキオネしか知らない最重要機密事項だ。
 悪魔の件もあったため、いくつかの結界を増強していたが現在となっては王鍵に繋がっている以外は何もない場所でもあった。

 そのため結界への侵入を検知した時には結界に不具合が発生したのかと考えたほどだ。
 だが結界に干渉して内部の様子を確認してみると侵入者が一人いることが確認できた。外套を纏い魔力や顔を隠しているその人は、悩むことなく仕掛けを解除して奥へ進んでいて、なおさら信じられないと思ったほどだ。

 そして、その侵入者がコルネリアスとアスカルテが一目置いている王立学園生のティアだとは想像もしていなかった。王立学園に入学する者の素性は全て調査されている。ティアについても他国からやってきた冒険者で1年くらい前に住民登録しているだけの一般人。冒険者としての評判も良く他国の王族からの依頼も受けていて高い評価をもらっていたくらいだ。一般人ではなくとも帝国とは無関係。それがエスペルト王国が下した結論だ。

「学園長に顔を覚えてもらえるとは光栄ですね。できれば、そのまま見逃してもらえると嬉しいですけど……」

 ティアは飄々とした様子で、この場で初めて声をだした。先ほどまで戦っていたとは思えないほど穏やかな笑みでこちらが戸惑ってしまうくらいだ。

「それができるとでも?」

「ですよね……本当に困りました。私では学園長に勝てないですし、この機会を逃すわけにもいかないですし」

「それだけの力を持ち手加減していてよく言いますね」

 ローザリンデが放った金色の炎を防いだ虹色の魔力は全属性を魔力。それを術式を使うことすらなく即座に発動できたということは、全ての魔力属性への適性が高いことを示していた。加えて彼女の魔力量は少なく見積もってもエスペルト王国の伯爵家出身に並ぶだろう。
 しかもティアはローザリンデに対して攻撃系の魔術を使うことなく拘束系の魔術に限定している。これらの事を加味して考えると、もしも彼女が本気で殺すつもりで戦っていればローザリンデとて無事では済まなかっただろう。もちろん負けるつもりはないが大怪我を負うことは避けられなかったはずだ。

「手も抜いたつもりはありませんよ?私は私が定めた理由で貴方を傷つけられないのですから」

「何を訳の分からないことを……それにこの機会ですって?この何もない場所に、一体どのような用があるというのですか!?」

 ローザリンデはティアが言っている内容が理解できなかった。彼女がローザリンデを傷つけない理由もなければ、この場所が王鍵と繋がっているとはいえ資格を持つ王族でなければ意味をなさない。たとえ使えたとしても魔力を引き出すくらいしか使い道はなかった。

「……こうなった以上は嘘は付かないつもりですが……私が言葉で説明したとしても貴方は信じないでしょう。全てを知りたいのあれば私に付いてきてください」

 この場所はかつて悪魔を封印していた最深部。ここから何処へ行くというのだろうかとローザリンデは思わず「何をするつもりですか?」と問いかける。

「私の大切な物たちを取り戻しに。そこへ向かうためにはここに来る必要がありましたから」

「この場所には何もありませんよ」

「ええ。この部屋には何もありません。ですが空間内に作り出された世界……いわゆる異空間へ向かうための扉を開くには同じ場所にいく必要があります。貴方は10年くらい前にここで何があったかを知っているはずです」

 ティアの言葉にローザリンデは胸を締め付けられた気持ちになる。あの時の出来事は忘れるはずもない。あれが大切な姉との最期になるとは微塵も考えていなかったのだから。

「異空間……ですって!?あれは最早ここには存在しない!王国最高峰の魔術の実力を持つイリーナ様でさえ干渉することすらできなかった!それが……」
「空間系の魔術を行使するには空間上の座標が必要なように異空間と繋ぐ場合も向こうの座標が必要です」

 ティアはローザリンデの言葉を遮って、かつて悪魔が封印されていた辺りへ歩みを進める。そのまま地面へと手を当てて、袋の中から宝石を3つ取り出して床に置き魔力を広げ始めた。
 術式が球場に広がりゆっくりと空間が歪んでいく。ほんの少しの間に等身大くらいの真っ黒な穴が出現する。

「それは……」

「向こうと繋がりのある私であれば空間同士を繋ぐことができます。私の目的はあの先にあるわけですが貴方も来ますか?」

「あの先に行けば全てを教えてくれると?」

「言葉で説明するのは簡単ですが信じてもらえる保証はありません。でも、貴方だったら自身の目で見たことを信じてくれると思っています」

「……わかりました。わたくしも行きましょう」

 少なくともティアは10年くらい前の真実を知っているのだろう。その真実はローザリンデたちが手を尽くしても辿り着けなかったことだ。たとえ危険があったとしても引くわけにはいかなかった。

「では行きましょうか」

 ティアとローザリンデは真っ黒な空間の穴の中に入る。一瞬ほど暗転した視界が開けた時には目の前に氷の世界が広がっていた。
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