王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

13 守りたい一時

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 初めて魔術の実技授業を受けた翌日である地の日。今日は王立学園に通いだしてから初めての週末ということもあって授業を終えた教室の中は楽しい雰囲気に包まれていた。

「ティア!この後アイリーン様と街へ買い物に出掛けることになったんだけど一緒にいかない?」

 荷物を片付けているとマリアが傍にやってきて尋ねてきた。どうやら二人は街の武具屋で護身用の短剣を探しにいくようだ。今日の武術の授業でカトレアから苦手な体術を学ぶよりも短剣を持ったほうが良いとアドバイスをもらっていたからだろう。

「……私も行きたいかな」

 私は少しだけ逡巡した後に二人と買い物に行くことを決めた。元々、今日の夜遅くくらいに王立学園での用事を済ませようかと考えていたところだが、日が暮れるまでなら時間も空いている。
 なによりせっかく友人となれたアイリーンやマリアとはもっと親交を深めたい。

「じゃあ行こうか。アイリーン様に伝えてくるね」

「ありがと」

 パタパタとアイリーンの元に駆け寄るマリアに微笑みを浮かべつつも私はすぐに出掛けられるように片付けを急ぐことにした。

 そして、3人して出掛ける準備が終わり王立学園の外へ出て、学園都市の中で一番栄えている路地へと向かった。そこは王都などからも店を出している区画で貴族向けの高級品から平民向けの比較的廉価な品まで幅広い商品が売られている場所でもある。

「この時間に来たのは初めてだけど……人が凄い多いね」

「王立鉄道の影響もあって王都から訪れる人が増えたようですからね。両親が王立学園の生徒だった頃よりも賑やかだそうですよ」

 夕方という人が集まりやすい時間であることを差し引いたとしても相当な賑わいだった。流石に王都の繁華街には一歩劣るが、それでも大都市の繁華街に引けはとらないだろう。
 その光景に私は思わず笑みが零れそうになる。
 この賑わいが王立鉄道の成果だというのであれば私としても嬉しかった。完成まで見届けることはできなかったけれど、かつて鉄道を敷設を進めたことは間違いではなかったのだから。

「では行きましょうか。様々なお店があるようですから良いものがあると思いますよ」

 アイリーンに案内されて私たちは繁華街の一画にある武具屋が立ち並んでいる通りにやってきた。そこには学園都市に本拠地を構えている工房や王都の工房から武具を持ってきているお店まで幅広くあった。

「これとか可愛くていいなぁ……でも流石になぁ」

 いくつかのお店を見て回っているとマリアが「うーん」と悩んだ様子で見ていた。隣から覗いてみるとミスリル製の短剣らしく柄に薔薇の意匠が施されていて装飾品のようでもある。
 質も良くデザインが良い短剣だが銀貨7枚となかなか高額だ。

「ミスリル製だからね……それに強度をあげる魔術が刻まれてるから」

「素材のランクを落とすか魔術が刻まれてないものだったら……マリアさんの予算はいくらくらいですか?」

 アイリーンが並んでいる武具を確認しながら訊ねた。マリアは袋の中から財布を取り出し確認すると残念そうに「銀貨2……1枚?」と呟く。

「でしたら……この辺りの鋼鉄製の短剣ですかね?同じような意匠のものもありますよ」

「そうだね……魔術が刻まれてなければ買えるんじゃないかな。私の手持ちに魔力結晶があるから簡単な魔術だったら刻めると思うよ」

 私がラティアーナだった頃に使っていた銀月などには私自身で魔術を刻んでいた。私以外の人が使うとなると複雑な術式を刻むのは難しいが簡単なものなら私でも可能だ。

「わたくしが魔術を刻みますよ。魔力結晶があれば高度な魔術を刻めますし……なんだか3人で協力した友人としての証みたいで楽しそうです」

「だったらアイリーンに術式を刻んでもらった後にお互いに魔力を込め合わない?」

「良いね!3人で作り上げるって素敵な感じがする!」

 マリアやアイリーンと話しているうちに同じ短剣をそれぞれ買い魔力結晶を使ってアイリーンが魔術を刻むことになった。お店の中に簡単な作業スペースを借りて魔法袋から取り出した魔力結晶を使ってアイリーンが強度を上げて保護する術式を刻む。最後に全員で魔力を込めれば完成だ。

 お店を出た頃には空が赤く色付いていた。2人ともまだ少し時間があるということで、露店などが集まる通りへ向かいグラタンやパンなどを食べてから別れた。マリアは教会に顔を出すらしくアイリーンは近くの宿に泊まるそうだ。

「じゃあまたね」
「また来週会いましょう」
「またね」

 マリアとアイリーンがそれぞれ歩いていくのを見送った私は王立学園の方角を見つめて大きく息を吐いて気合いを入れ直す。

「さて……大切な時間を守るためにも取り戻しに行かないとね……」

 授業が終わった後に友人たちと遊びに出かける。そのわりとありふれた普通の時間は、朧気にしか覚えていない前々世の記憶でもラティアーナだった頃の記憶でも大切な思い出となっている。やっぱり私はこの時間が好きなのだろう。

『プレアデス』

『今から行くの?』

 念話で問いかけると返事が返ってきた。同時に温かい気配がすぐ傍に現れる。入学してからの間は自由にしてもらっていたため数日ぶりの再会だ。

『うん……早いうちがいいからね。いざという時は頼りにしてるよ』

 私は人目につかないように気配を消して路地裏に入り、認識阻害の魔術を行使して魔力隠しの外套を身に纏う。そのまま街灯の影になっている場所や人気のない場所、屋根の上などを伝って王立学園の近くへと移動した。

『魔力隠しの外套があっても結界を通ると気付かれそうよ。どうするの?』

『王族しか知らない秘密の通路を使う。あそこなら警備兵もいないからね』

 王立学園には王城と同等の結界が存在する。扉のような正規のルートであれば問題ないが、塀の上など結界が存在する場所では一定以上の魔力を持つ物を弾いたり空間転移を遮断する効果があったり結界の揺らぎを検知したりと様々な機能が仕掛けられていた。
 今回、私が使う予定の通路は王立学園から学園都市の外まで繋がっている隠し通路だ。

 私は記憶通りに仕掛けを起動させて隠し通路の入り口を開く。罠が仕掛けられている場所を避けながら通路を歩くことおよそ1時間くらいかけると王立学園本校舎のエントランスにある階段の近くに出た。

『狙い通りかな……近くに誰もいないよね』

『ええ。多分大丈夫だと思うけど……私の眼をもってしても遠くまでは見通せないわね』

『魔力を遮る造りになっているからね。さて、ここかな』

 ここからは昔辿った道順と同じだ。いくつもの仕掛けを動かしながら真っ白な部屋へと辿り着く。かつて存在した虹色の水晶はないものの、それ以外は記憶と変わらなかった。

「ふぅ……行こうか」

 ラティアーナが悪魔との死闘を繰り広げた異空間。私の最期の迎えた場所へ向かうために魔術を行使しようとする。

 その時だった。

 私の後ろから大きな魔力が飛来してくるのを感じた。
 咄嗟に身体強化と共に大きく跳躍して避けると、先程まで私がいた場所に10発近くの魔力弾が炸裂する。

『いつのまに……全く見えなかった……』

『私の外套と同じようなものだろうね。それに魔力隠しの外套を来ていたとはいえ気配を隠すのが上手くなっている。腕が相当上がっているね。さすがはローザリンデだ』

 彼女がここにくるのは想定外だったが、もし来るとしたら彼女だけだろう。罠を踏んだ様子はないことからも恐らくは何か新しい仕掛けがあったのかもしれない。
 どちらにせよ、ローザリンデが昔よりも強くなっている事に、このような状況でも頬が緩んでしまいそうだった。
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