402 / 475
第13章 2度目の学園生活
12 学園生活の変化
しおりを挟む
「そこまで」
修練場に仕掛けられている保護用の結界の発動と同時にカトレアからの合図によって模擬戦の終了が言い渡された。
「私の負けか……」
デニードは地面に倒れこんだまま小さな声で呟く。唇を噛みしめ表情を歪ませていて、とても悔しそうに見えた。
「何か言いたげだな?負けた身だ……言いたいことがあれば言えばいい」
貴族としてのプライドだけかと思っていたが負けたことをきちんと認められるようだ。そのことを少しだけ意外に思いつつも私は普段言えないようなことを口にする。
「ではお言葉に甘えて……爵位に拘ることが悪いこととは思わないですけど、下にいる者たちのこともきちんと見ていたほうが良いと思いますよ」
「ふん……下級貴族や平民たちが私たちと対等になれると?……生まれた時から上に立つ人間として育てられてきた私たちとお前たちが一緒の立場になるなどありえないな」
「確かに幼い頃から努力を重ねてきた貴方たちと簡単に並べるとは思いません。ですが生まれた立場が弱かったとしても力を身につける者もいます。いつの間にか、すぐ近くにいるかもしれませんよ」
「……それでも私は認めるわけにはいかない」
私はポテンシャルや努力といった様々な物を含めた結果が才能だと思っている。時には貴族が培ってきたものを少しの時間で会得する平民だっているだろう。始めは力を発揮できなかった者でも長い年月を掛けて極地へと辿り着く者だっているだろう。
並び立つ者や上にいる者だけを見ていたら、いつの間にか足元まで辿り着いている人や一瞬で抜き去っていく人に気付くことすらできない。
「二人ともありがとうございました。どちらも高度な駆け引きと技術でしたね」
そう言って近づいてきたのはカトレアだった。後ろからは他のAクラスの皆もいて並ぶような形で一緒に近付いてきて、カトレアのすぐ傍にいたコルネリアスとアスカルテは視線があうと笑みを向けてきた。
「皆さんも今の模擬戦を見て分かったと思いますが実戦では武術や魔術だけでなく戦術などの立ち回りも大事となります。これからの実技では、そのようなことも考えて学んで見てください」
そして少しだけ休憩をして授業が始まった。魔術の最初の授業ということで、入学試験で使用した魔術を一人ずつ順番に見せていくことになった。
コルネリアスやアスカルテは、術式を省略した聖属性の魔力槍を放ち、魔術が苦手だと言っていたイザークは術式による岩の弾丸を放っていた。
意外だったのは戦いが得意そうではなかったレジーナだ。彼女は魔力糸を束ねて大きな槍のように作り変えた物を放っていた。魔術の発動速度は、高位の魔術士が同規模の魔術を放つより劣っていたが形状を自在に変えることができるのはメリットだ。実戦でも相当役に立つだろう。
また体術が得意と言っていたカイラスは身体強化と風属性魔術を主とした衝撃波を使って的を破壊していた。元々スエンティア公爵家は、4大公爵家の中でも戦い向きではないが唯一固有魔術を継承している家でもある。流石と言ったところだった。
「次はティアさん」
「はい」
カイラスの次は私の番がやってくる。試験の時の魔術となると聖属性による範囲攻撃だ。前と同じように術式を展開してほんの数秒経過した瞬間、的を光が包み込み焼き尽くした。
「次はロレアルさん」
私の番が終わり皆の元へ下がるために後ろへ振り返る。そこには次に魔術を披露するロレアルが待っていたわけだが、どういう理由か恍惚な表情を浮かべて私を見つめていて口元が僅かに動いていた。
「彼女のまた聖女としての素質が……」
ロレアルの声は小さく私のところまでは届かない。けれど彼の唇の動きを見ると、そのような言葉を呟いていた。
その後、ロレアルは魔力がこもった言葉を使った霊術を使い、デニードは魔力を纏った剣を振り下ろし炎の斬撃を放った。
最後にアイリーンは杖に付与されていた術式を使い魔力砲を放ち、マリアが防御結界を的にぶつけて壊した。
「これで今日の実技は終了ですね。模擬戦も魔術の披露もそうですが相手を知るということはとても重要になります。味方としてなら連携する上で必要ですし、敵として戦うなら分析して戦術を考えるために必要ですからね。今日のことは皆さんの頭の中に入れておいてください。明日は武術の実技となりますが、今日と同様に各々に試験官との模擬戦を披露してもらうことになります。本格的な授業は来週からです」
こうして最初の実技授業が終わったわけだが、私たちを取り巻く環境に変化が起きることとなる。
まず私とデニードの模擬戦の結果をどこからか知ったのかデニードと同じ考えを持つ貴族主義派の貴族たちからのあたりが強くなった。
もっとも直接何かをされるわけではなく、せいぜい陰口や見下すような視線を向けてくるだけだが一人で歩いている時やマリアと一緒にいる時はあからさまな態度を向けられている。
反対に嬉しいこともあった。
Aクラスの中でマリアと共に孤立気味だったがコルネリアスやアスカルテたちと話せるようになり、その影響もあってかイザークやレジーナ、カイラスといった公爵家の子息令嬢からも話しかけられるようになった。
他にもマリアだけでなくアイリーンとも一緒の時間を過ごすようになり3人で食事を共にする機会が増えたことも大きいだろう。
デニードもあれからは何かしてくることもなく話す機会がことないもののAクラスの中だけは平和な空間となっていた。
修練場に仕掛けられている保護用の結界の発動と同時にカトレアからの合図によって模擬戦の終了が言い渡された。
「私の負けか……」
デニードは地面に倒れこんだまま小さな声で呟く。唇を噛みしめ表情を歪ませていて、とても悔しそうに見えた。
「何か言いたげだな?負けた身だ……言いたいことがあれば言えばいい」
貴族としてのプライドだけかと思っていたが負けたことをきちんと認められるようだ。そのことを少しだけ意外に思いつつも私は普段言えないようなことを口にする。
「ではお言葉に甘えて……爵位に拘ることが悪いこととは思わないですけど、下にいる者たちのこともきちんと見ていたほうが良いと思いますよ」
「ふん……下級貴族や平民たちが私たちと対等になれると?……生まれた時から上に立つ人間として育てられてきた私たちとお前たちが一緒の立場になるなどありえないな」
「確かに幼い頃から努力を重ねてきた貴方たちと簡単に並べるとは思いません。ですが生まれた立場が弱かったとしても力を身につける者もいます。いつの間にか、すぐ近くにいるかもしれませんよ」
「……それでも私は認めるわけにはいかない」
私はポテンシャルや努力といった様々な物を含めた結果が才能だと思っている。時には貴族が培ってきたものを少しの時間で会得する平民だっているだろう。始めは力を発揮できなかった者でも長い年月を掛けて極地へと辿り着く者だっているだろう。
並び立つ者や上にいる者だけを見ていたら、いつの間にか足元まで辿り着いている人や一瞬で抜き去っていく人に気付くことすらできない。
「二人ともありがとうございました。どちらも高度な駆け引きと技術でしたね」
そう言って近づいてきたのはカトレアだった。後ろからは他のAクラスの皆もいて並ぶような形で一緒に近付いてきて、カトレアのすぐ傍にいたコルネリアスとアスカルテは視線があうと笑みを向けてきた。
「皆さんも今の模擬戦を見て分かったと思いますが実戦では武術や魔術だけでなく戦術などの立ち回りも大事となります。これからの実技では、そのようなことも考えて学んで見てください」
そして少しだけ休憩をして授業が始まった。魔術の最初の授業ということで、入学試験で使用した魔術を一人ずつ順番に見せていくことになった。
コルネリアスやアスカルテは、術式を省略した聖属性の魔力槍を放ち、魔術が苦手だと言っていたイザークは術式による岩の弾丸を放っていた。
意外だったのは戦いが得意そうではなかったレジーナだ。彼女は魔力糸を束ねて大きな槍のように作り変えた物を放っていた。魔術の発動速度は、高位の魔術士が同規模の魔術を放つより劣っていたが形状を自在に変えることができるのはメリットだ。実戦でも相当役に立つだろう。
また体術が得意と言っていたカイラスは身体強化と風属性魔術を主とした衝撃波を使って的を破壊していた。元々スエンティア公爵家は、4大公爵家の中でも戦い向きではないが唯一固有魔術を継承している家でもある。流石と言ったところだった。
「次はティアさん」
「はい」
カイラスの次は私の番がやってくる。試験の時の魔術となると聖属性による範囲攻撃だ。前と同じように術式を展開してほんの数秒経過した瞬間、的を光が包み込み焼き尽くした。
「次はロレアルさん」
私の番が終わり皆の元へ下がるために後ろへ振り返る。そこには次に魔術を披露するロレアルが待っていたわけだが、どういう理由か恍惚な表情を浮かべて私を見つめていて口元が僅かに動いていた。
「彼女のまた聖女としての素質が……」
ロレアルの声は小さく私のところまでは届かない。けれど彼の唇の動きを見ると、そのような言葉を呟いていた。
その後、ロレアルは魔力がこもった言葉を使った霊術を使い、デニードは魔力を纏った剣を振り下ろし炎の斬撃を放った。
最後にアイリーンは杖に付与されていた術式を使い魔力砲を放ち、マリアが防御結界を的にぶつけて壊した。
「これで今日の実技は終了ですね。模擬戦も魔術の披露もそうですが相手を知るということはとても重要になります。味方としてなら連携する上で必要ですし、敵として戦うなら分析して戦術を考えるために必要ですからね。今日のことは皆さんの頭の中に入れておいてください。明日は武術の実技となりますが、今日と同様に各々に試験官との模擬戦を披露してもらうことになります。本格的な授業は来週からです」
こうして最初の実技授業が終わったわけだが、私たちを取り巻く環境に変化が起きることとなる。
まず私とデニードの模擬戦の結果をどこからか知ったのかデニードと同じ考えを持つ貴族主義派の貴族たちからのあたりが強くなった。
もっとも直接何かをされるわけではなく、せいぜい陰口や見下すような視線を向けてくるだけだが一人で歩いている時やマリアと一緒にいる時はあからさまな態度を向けられている。
反対に嬉しいこともあった。
Aクラスの中でマリアと共に孤立気味だったがコルネリアスやアスカルテたちと話せるようになり、その影響もあってかイザークやレジーナ、カイラスといった公爵家の子息令嬢からも話しかけられるようになった。
他にもマリアだけでなくアイリーンとも一緒の時間を過ごすようになり3人で食事を共にする機会が増えたことも大きいだろう。
デニードもあれからは何かしてくることもなく話す機会がことないもののAクラスの中だけは平和な空間となっていた。
10
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説

田村涼は異世界で物乞いを始めた。
イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。
特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。
黄玉八重
ファンタジー
水無月宗八は意識を取り戻した。
そこは誰もいない大きい部屋で、どうやら異世界召喚に遭ったようだ。
しかし姫様が「ようこそ!」って出迎えてくれないわ、不審者扱いされるわ、勇者は1ヶ月前に旅立ってらしいし、じゃあ俺は何で召喚されたの?
優しい水の国アスペラルダの方々に触れながら、
冒険者家業で地力を付けながら、
訪れた異世界に潜む問題に自分で飛び込んでいく。
勇者ではありません。
召喚されたのかも迷い込んだのかもわかりません。
でも、優しい異世界への恩返しになれば・・・。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる