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第13章 2度目の学園生活
11 周りから見たティア
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「あのカトレア先生……ティアは大丈夫でしょうか?」
「大丈夫とは?」
「いえ……ナーデル伯爵家は武術と魔術の名門なのですよね?ティアが危ないんじゃ……」
ティアとデニードが修練場に上がるのを見たマリアは不安が隠しきれなかった。
マリアはロレアルから同じAクラスに所属する貴族をはじめエスペルト王国の主要な貴族の情報を教えられていた。
ナーデル伯爵家はそこそこ歴史が古い上級貴族で過去には当主が騎士や魔術士として名を残したこともある名門だ。
武術や魔術の名門だと幼い頃から対人戦闘を習うことがほとんどだと言われている。もしティアに下級冒険者としての経験があったとしても貴族の令息相手には及ばないというのが常識だった。
ましてや、デニードはマリアとティアの二人に対して嫌な視線をたびたび向けてきていた。合法的に力を行使できる模擬戦で、穏便に事が終わるとは考えづらい。
「入学試験の結果を見る限りだと魔術戦ではティアさんの方が有利だと思いますよ。ですが剣の間合いに入ればデニードさんに分があると思います。恐らく一方的な展開にはならないはずです」
カトレアはティアの試験を直接見たわけではないが報告書を見ていたので、どのような結果を残したのか知っている。
ティアは総合試験で試験開始と同時に魔力弾の弾幕で試験官を倒していた。試験官は相手の実力を確認する以上、どうしても様子見から入る。ティアはそのことを利用して魔力弾の弾幕を試験官に防がせて身動きを封じた後、魔力切れを起こさせて魔力弾を命中させていた。
それに対してデニードは基本に忠実な戦い方で試験官を倒している。エスペルト王国流の剣術で近距離を制して相手が距離を取れば魔術によって対応する。伯爵家の平均と比べて魔力量が多いことも合わさって純粋に強いといった感じだ。
「それでは始め!」
カトレアが合図を行い最初に動いたのはティアだった。ティアは魔力弾を多数生成すると全方向から包囲するような軌道でデニードに攻撃をする。
デニードも可能な限り剣で魔力弾を斬り落とすが数が多いせいで対処が間に合わなくなり防御魔術の盾によって攻撃を凌いでいた。
「す、すごい……これならティアが勝つ……かも?」
マリアは始めてみる魔術戦に驚きを隠せなかった。一方的に攻撃を仕掛けているティアとその場で大きく身動きを取ることができないデニード。その両者を見てティアが有利だと安心して胸を撫でおろす。
「いや……あれでは勝てないでしょう。あれだけ攻撃を続けては魔力が先に尽きるはずですし魔術の発動速度でもデニード様には及びません」
マリアの思いに反してロレアルはデニードが勝つと考えていた。デニードは半分以上の攻撃を剣で対応していて防ぎきれない死角の攻撃のみを的確に魔術盾で対処している。どれだけティアが数で押していてもデニードは余裕をもって防ぐことができているからだ。
「ちょうど良い機会になりそうですね。戦っている様子を見て相手の実力を測るのは大事なことですから少し考えて見ましょうか。皆さんはティアさんとデニードさんどちらが勝つと思いますか?」
カトレアは模擬戦を見学しているAクラス全員に向けて問いかけるとコルネリアスやアスカルテ、イザーク、レジーナ、カイラスなど公爵家以上の王侯貴族とマリアがティアだと答える。逆にロレアルやアイリーンはデニードが勝つと答えた。
「まずデニードさんが勝つと考えた理由はありますか?」
「先ほどロレアル様が答えたことが全てだと思いますが……魔術式を省略していてあの発動速度は遅すぎます。数は多くても威力がまちまちですし魔力制御が甘い証拠だと思います。それにデニード様が中位の魔剣を使っているのに対してティア様の杖は質がよくない量産品……剣でいえば模擬戦用の木刀みたいなものです。武器の質が違いすぎます」
「なるほど。アイリーンさんが答えた内容も間違いではないですね。では逆にティアさんが勝つと考えた理由を聞いてみましょうか……あまり親交のないイザークさんはどうですか?」
学園でティアと一緒にいることが多いマリアはどちらかというとティアのことを信頼しているのだろうが、1年前に出会っているコルネリアスやアスカルテは彼女の力を知っていると言っていた。だからこそカトレアは王立学園でティアと初めて出会い彼女の実戦を見たことがないイザークを指名した。
「ティアが放っている魔力弾は昔見たことがある。レジーナ、君のお父君であるノーティア公が得意としている弾道設定型の魔力弾であれば、あれだけの数を同時に扱えても不思議ではない。だがそれを魔力収束と同時に行使し魔力弾の威力をバラバラに設定できるとなると……王国の魔術士でも両手で数えるくらいだろうな」
「威力にばらつきがあったとしても防御魔術の強度を全てあわせることは不可能に近いわ。デニードはティアの攻撃を魔術で防ぐときに手を抜けなくなるわね」
防御魔術の強度は魔力制御と込められた魔力量に比例する。そのためデニードはティアの攻撃を防ぐ時は一番威力が高い魔力弾を防ぐことができるくらいの魔力を毎回込めなければならない。
「その通りです。魔力の消耗が少ないティアさんに対して魔力の消耗を抑えきれないデニードさん。そのまま消耗戦となればティアさんが勝つでしょうが……そろそろ状況が動きそうですね」
長く続いた攻防の応酬だったがティアとデニードは同時に動きを変えようとする。
デニードは魔装で全身を覆い魔力弾の弾幕を突っ切るようにして前に出た。消耗が一時的に大きくなっても魔装だけで魔力弾を防ぐことができると確信した作戦。魔力切れになって負ける前にティアに一撃をいれるための一歩だ。
突撃を敢行するデニードに対してティアは杖を前に構えなおすと再び50発に及ぶ魔力弾を放つ。それらはデニードを囲むように放物線を描いた。そこまでは今までの攻撃と一緒だ。
「なっ……!?」
広がった魔力弾を急に加速し鋭い光芒を描くとデニードの前方に集束する。結果として突撃しているデニードに対して真正面から全ての魔力弾を受けることになりデニードは顔を顰めて動きを止めた。
「耐えた……私の勝ちだ!」
「いえ。私の勝ちです」
デニードは再び距離を詰めようと一歩踏み出そうとするが、それよりも早くティアが魔力砲を放つ。ティアの魔力砲は今までの魔力弾とは比べ物にならないくらいの素早さで放たれると脆くなっていたデニードの魔装ごと打ち砕いた。
「大丈夫とは?」
「いえ……ナーデル伯爵家は武術と魔術の名門なのですよね?ティアが危ないんじゃ……」
ティアとデニードが修練場に上がるのを見たマリアは不安が隠しきれなかった。
マリアはロレアルから同じAクラスに所属する貴族をはじめエスペルト王国の主要な貴族の情報を教えられていた。
ナーデル伯爵家はそこそこ歴史が古い上級貴族で過去には当主が騎士や魔術士として名を残したこともある名門だ。
武術や魔術の名門だと幼い頃から対人戦闘を習うことがほとんどだと言われている。もしティアに下級冒険者としての経験があったとしても貴族の令息相手には及ばないというのが常識だった。
ましてや、デニードはマリアとティアの二人に対して嫌な視線をたびたび向けてきていた。合法的に力を行使できる模擬戦で、穏便に事が終わるとは考えづらい。
「入学試験の結果を見る限りだと魔術戦ではティアさんの方が有利だと思いますよ。ですが剣の間合いに入ればデニードさんに分があると思います。恐らく一方的な展開にはならないはずです」
カトレアはティアの試験を直接見たわけではないが報告書を見ていたので、どのような結果を残したのか知っている。
ティアは総合試験で試験開始と同時に魔力弾の弾幕で試験官を倒していた。試験官は相手の実力を確認する以上、どうしても様子見から入る。ティアはそのことを利用して魔力弾の弾幕を試験官に防がせて身動きを封じた後、魔力切れを起こさせて魔力弾を命中させていた。
それに対してデニードは基本に忠実な戦い方で試験官を倒している。エスペルト王国流の剣術で近距離を制して相手が距離を取れば魔術によって対応する。伯爵家の平均と比べて魔力量が多いことも合わさって純粋に強いといった感じだ。
「それでは始め!」
カトレアが合図を行い最初に動いたのはティアだった。ティアは魔力弾を多数生成すると全方向から包囲するような軌道でデニードに攻撃をする。
デニードも可能な限り剣で魔力弾を斬り落とすが数が多いせいで対処が間に合わなくなり防御魔術の盾によって攻撃を凌いでいた。
「す、すごい……これならティアが勝つ……かも?」
マリアは始めてみる魔術戦に驚きを隠せなかった。一方的に攻撃を仕掛けているティアとその場で大きく身動きを取ることができないデニード。その両者を見てティアが有利だと安心して胸を撫でおろす。
「いや……あれでは勝てないでしょう。あれだけ攻撃を続けては魔力が先に尽きるはずですし魔術の発動速度でもデニード様には及びません」
マリアの思いに反してロレアルはデニードが勝つと考えていた。デニードは半分以上の攻撃を剣で対応していて防ぎきれない死角の攻撃のみを的確に魔術盾で対処している。どれだけティアが数で押していてもデニードは余裕をもって防ぐことができているからだ。
「ちょうど良い機会になりそうですね。戦っている様子を見て相手の実力を測るのは大事なことですから少し考えて見ましょうか。皆さんはティアさんとデニードさんどちらが勝つと思いますか?」
カトレアは模擬戦を見学しているAクラス全員に向けて問いかけるとコルネリアスやアスカルテ、イザーク、レジーナ、カイラスなど公爵家以上の王侯貴族とマリアがティアだと答える。逆にロレアルやアイリーンはデニードが勝つと答えた。
「まずデニードさんが勝つと考えた理由はありますか?」
「先ほどロレアル様が答えたことが全てだと思いますが……魔術式を省略していてあの発動速度は遅すぎます。数は多くても威力がまちまちですし魔力制御が甘い証拠だと思います。それにデニード様が中位の魔剣を使っているのに対してティア様の杖は質がよくない量産品……剣でいえば模擬戦用の木刀みたいなものです。武器の質が違いすぎます」
「なるほど。アイリーンさんが答えた内容も間違いではないですね。では逆にティアさんが勝つと考えた理由を聞いてみましょうか……あまり親交のないイザークさんはどうですか?」
学園でティアと一緒にいることが多いマリアはどちらかというとティアのことを信頼しているのだろうが、1年前に出会っているコルネリアスやアスカルテは彼女の力を知っていると言っていた。だからこそカトレアは王立学園でティアと初めて出会い彼女の実戦を見たことがないイザークを指名した。
「ティアが放っている魔力弾は昔見たことがある。レジーナ、君のお父君であるノーティア公が得意としている弾道設定型の魔力弾であれば、あれだけの数を同時に扱えても不思議ではない。だがそれを魔力収束と同時に行使し魔力弾の威力をバラバラに設定できるとなると……王国の魔術士でも両手で数えるくらいだろうな」
「威力にばらつきがあったとしても防御魔術の強度を全てあわせることは不可能に近いわ。デニードはティアの攻撃を魔術で防ぐときに手を抜けなくなるわね」
防御魔術の強度は魔力制御と込められた魔力量に比例する。そのためデニードはティアの攻撃を防ぐ時は一番威力が高い魔力弾を防ぐことができるくらいの魔力を毎回込めなければならない。
「その通りです。魔力の消耗が少ないティアさんに対して魔力の消耗を抑えきれないデニードさん。そのまま消耗戦となればティアさんが勝つでしょうが……そろそろ状況が動きそうですね」
長く続いた攻防の応酬だったがティアとデニードは同時に動きを変えようとする。
デニードは魔装で全身を覆い魔力弾の弾幕を突っ切るようにして前に出た。消耗が一時的に大きくなっても魔装だけで魔力弾を防ぐことができると確信した作戦。魔力切れになって負ける前にティアに一撃をいれるための一歩だ。
突撃を敢行するデニードに対してティアは杖を前に構えなおすと再び50発に及ぶ魔力弾を放つ。それらはデニードを囲むように放物線を描いた。そこまでは今までの攻撃と一緒だ。
「なっ……!?」
広がった魔力弾を急に加速し鋭い光芒を描くとデニードの前方に集束する。結果として突撃しているデニードに対して真正面から全ての魔力弾を受けることになりデニードは顔を顰めて動きを止めた。
「耐えた……私の勝ちだ!」
「いえ。私の勝ちです」
デニードは再び距離を詰めようと一歩踏み出そうとするが、それよりも早くティアが魔力砲を放つ。ティアの魔力砲は今までの魔力弾とは比べ物にならないくらいの素早さで放たれると脆くなっていたデニードの魔装ごと打ち砕いた。
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