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第13章 2度目の学園生活
7 懐かしい縁
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王立学園の入学式へ向かうため、私とサチは講堂を目指していた。予定よりも少し早い時間に寮を出たため周りには人がチラホラといる程度。幸いなことに天気も良く雑談を交わしながら、のんびりと歩くには最適な環境だ。
「あと少しで始まるのね……あぁ……緊張してきたぁ」
式が行われる会場が見えてくる頃、隣から震えたような声が聞こえてきた。昨日までの元気いっぱいな彼女とは正反対で借りてきた猫のような姿に思わず笑みを浮かべてしまう。
「私たちはただ座って話を聞くだけなんだから緊張することないと思うけど?」
「そうだけど……入学式が終わればクラスごとに分かれるわけで……ティアは別クラスだしお貴族様との一緒の生活が始まるじゃない!粗相しないかとか心配もあるし……」
「サチなら大丈夫だと思うけどね……」
実際のところサチの振る舞いは貴族相手でも通用するだろう。王立学園の生徒には爵位を持った正真正銘の貴族はいない。ましてや不用意に身分を持ち出さないという不文律があるため、よほど失礼な態度を取らない限りは問題ないはずだ。
「手伝いで商談の場に立ち会うこともあるのでしょ?」
「お貴族様と応対するのはお父様だから……私は傍に見守るかお茶出しをするくらいで話したことはないもの」
そのような話をしているうちに入学式が行われる講堂の入り口へと辿り着いた。
「じゃあまた後でね」
「またね」
入学式の席は決められていてクラスごとに区画が分けられている形だ。サチはBクラスと別々なクラスなため少し離れた場所になる。
サチと別れた私はAクラスへと割り振られている区画へ向かった。するとそこには顔見知りの二人がいて私のことを見つけると声こそ掛けてこないものの優しい視線が向けられた。
私も他の人が気付かない程度に軽く頭を下げて視線を向けると二人のニコニコとした笑みが返ってきた。
きっと大勢の人が集まっているこの空間で目立たないように配慮してくれたのだろうと笑みを返すと二人の近くに座る。
「静粛に!それでは入学式を始めます。では学園長お願いします」
定刻になり司会が開始の合図を告げて一人の女性が壇上へ登っていく。その女性は紹介された通り学園長なのだろうが顔を見た瞬間、あまりの驚きに思わず目を見開いてしまう。
彼女のことは忘れるはずも見間違うはずもない。たとえ10年20年経ったとしても絶対に気づくことができるだろう。私にラティアーナにとって家族だと思える数少ない一人なのだから。
「皆様初めましての方もいるでしょう。わたくしはローザリンデ・アリスター。ここ、王立学園の学園長を務める者です」
王立学園に通うまでの1年間を使って最近の貴族たちの動向についても調べていた。そこでローザリンデが臣籍降下しアリスター侯爵家を新しく興したことは知っていたが、学園長の役職に就いていたことは相当な驚きだ。
王立学園の学園長は、王立学園だけでなく学園都市全体を統括しエスペルト王国の教育を推進する立場だ。そのため領主のような立ち位置でありながらも宰相や元帥に次ぐ影響力を持つくらいだ。
「貴方たちには2年間様々なことを学んでもらいます。勉学だけでなく剣術や魔術、芸術など今まで学んできたことを更に深めていくことになるでしょう。これらは王立学園のエスペルト王国の理念に基づき身分に関係なく平等に実力で評価を行います。しかし王立学園は貴族社会の縮図でもあります。学園内では平等ですが礼節は弁えるようにしてください。皆さんが大きく成長できることを願っています」
ローザリンデは元々こういった行事が得意なほうではあった。けれど、昔と違い一切緊張することなく自然体で人の前に立てることに成長を感じて長い年月が過ぎたのだなと感慨深くなった。
私がそのような事を考えている間にも司会が式を進めていく。学園長挨拶の次は新入生の代表挨拶となっていて新入生の代表は入学試験で主席となった者。今年で言えばコルネリアスだ。
コルネリアスは司会に呼ばれると席を立って壇上へ上がった。そして講堂に集まっている全員を見渡すと静かに口を開いた。
「皆様はじめまして。私はコルネリアス・エスペルトと申します。私たちは歴史ある王立学園の生徒として学ぶ事ができる様々な出会いに感謝し、この時間がこれから先の未来において大切なものになるようにと願っています。学園の先生、先輩方これからよろしくお願いします。新入生代表、コルネリアス・エスペルト」
コルネリアスの挨拶も終わった後は何人かの先生と在校生の代表が話して入学式が終わった。式の後はクラスごとに顔合わせとなるため私はAクラスの人たちと共にクラスへと向かう。
そして、私もかつて使った懐かしい教室へと入るとコルネリアスとアスカルテがゆっくりと近づいてくる。
「ティア。こうして直接会って話すのは久しぶりだな」
「こうして一緒のクラスになれて嬉しいですね」
「コルネリアス殿下、それにアスカルテ様も。お久しぶりです」
私たちは旧知の仲を示すかのように笑顔で言葉を交わす。そのことに対して周りの人たちの反応は様々だった。驚きを隠せない者、嫌な顔を見せる者、興味深そうに視線を向けてくる者などだ。
私のような平民が王太子と公爵令嬢と親交があるとなれば周りからの反応はあまり良くない。それでも同じクラスメイトとして接する以上は隠し倒すことも難しいだろうし、私としても仲のいい相手に距離を取ることは心苦しい。
もしかしたら二人も同じように思ってくれていて、いっそのこと私たちに親交があることを徐々に広めていった方が良いと考えているのかもしれない。
そのような事を考えていると教師が教室の中へと入ってきた。恐らくは私たちの担当になる人なのだろうが、その顔を見て今日2度目の衝撃的な驚きが私の中を駆け巡る。
「っ……」
「皆さん席についてください。貴方たちAクラスの担当になったカトレア・オルデインです。よろしくお願いしますね」
驚きのあまり息を呑んでいると、カトレアがニコリとした笑みと共に着席を促してきた。
懐かしいローザリンデの姿や声にリーファスを彷彿とさせるコルネリアスの挨拶、そして親友だったカトレアとの再会。これらはラティアーナだった頃の懐かしい縁を思い起こさせるものだ。
様々な想いが胸の中に溢れ出してきて私の瞳に涙が浮かんだ。
「あと少しで始まるのね……あぁ……緊張してきたぁ」
式が行われる会場が見えてくる頃、隣から震えたような声が聞こえてきた。昨日までの元気いっぱいな彼女とは正反対で借りてきた猫のような姿に思わず笑みを浮かべてしまう。
「私たちはただ座って話を聞くだけなんだから緊張することないと思うけど?」
「そうだけど……入学式が終わればクラスごとに分かれるわけで……ティアは別クラスだしお貴族様との一緒の生活が始まるじゃない!粗相しないかとか心配もあるし……」
「サチなら大丈夫だと思うけどね……」
実際のところサチの振る舞いは貴族相手でも通用するだろう。王立学園の生徒には爵位を持った正真正銘の貴族はいない。ましてや不用意に身分を持ち出さないという不文律があるため、よほど失礼な態度を取らない限りは問題ないはずだ。
「手伝いで商談の場に立ち会うこともあるのでしょ?」
「お貴族様と応対するのはお父様だから……私は傍に見守るかお茶出しをするくらいで話したことはないもの」
そのような話をしているうちに入学式が行われる講堂の入り口へと辿り着いた。
「じゃあまた後でね」
「またね」
入学式の席は決められていてクラスごとに区画が分けられている形だ。サチはBクラスと別々なクラスなため少し離れた場所になる。
サチと別れた私はAクラスへと割り振られている区画へ向かった。するとそこには顔見知りの二人がいて私のことを見つけると声こそ掛けてこないものの優しい視線が向けられた。
私も他の人が気付かない程度に軽く頭を下げて視線を向けると二人のニコニコとした笑みが返ってきた。
きっと大勢の人が集まっているこの空間で目立たないように配慮してくれたのだろうと笑みを返すと二人の近くに座る。
「静粛に!それでは入学式を始めます。では学園長お願いします」
定刻になり司会が開始の合図を告げて一人の女性が壇上へ登っていく。その女性は紹介された通り学園長なのだろうが顔を見た瞬間、あまりの驚きに思わず目を見開いてしまう。
彼女のことは忘れるはずも見間違うはずもない。たとえ10年20年経ったとしても絶対に気づくことができるだろう。私にラティアーナにとって家族だと思える数少ない一人なのだから。
「皆様初めましての方もいるでしょう。わたくしはローザリンデ・アリスター。ここ、王立学園の学園長を務める者です」
王立学園に通うまでの1年間を使って最近の貴族たちの動向についても調べていた。そこでローザリンデが臣籍降下しアリスター侯爵家を新しく興したことは知っていたが、学園長の役職に就いていたことは相当な驚きだ。
王立学園の学園長は、王立学園だけでなく学園都市全体を統括しエスペルト王国の教育を推進する立場だ。そのため領主のような立ち位置でありながらも宰相や元帥に次ぐ影響力を持つくらいだ。
「貴方たちには2年間様々なことを学んでもらいます。勉学だけでなく剣術や魔術、芸術など今まで学んできたことを更に深めていくことになるでしょう。これらは王立学園のエスペルト王国の理念に基づき身分に関係なく平等に実力で評価を行います。しかし王立学園は貴族社会の縮図でもあります。学園内では平等ですが礼節は弁えるようにしてください。皆さんが大きく成長できることを願っています」
ローザリンデは元々こういった行事が得意なほうではあった。けれど、昔と違い一切緊張することなく自然体で人の前に立てることに成長を感じて長い年月が過ぎたのだなと感慨深くなった。
私がそのような事を考えている間にも司会が式を進めていく。学園長挨拶の次は新入生の代表挨拶となっていて新入生の代表は入学試験で主席となった者。今年で言えばコルネリアスだ。
コルネリアスは司会に呼ばれると席を立って壇上へ上がった。そして講堂に集まっている全員を見渡すと静かに口を開いた。
「皆様はじめまして。私はコルネリアス・エスペルトと申します。私たちは歴史ある王立学園の生徒として学ぶ事ができる様々な出会いに感謝し、この時間がこれから先の未来において大切なものになるようにと願っています。学園の先生、先輩方これからよろしくお願いします。新入生代表、コルネリアス・エスペルト」
コルネリアスの挨拶も終わった後は何人かの先生と在校生の代表が話して入学式が終わった。式の後はクラスごとに顔合わせとなるため私はAクラスの人たちと共にクラスへと向かう。
そして、私もかつて使った懐かしい教室へと入るとコルネリアスとアスカルテがゆっくりと近づいてくる。
「ティア。こうして直接会って話すのは久しぶりだな」
「こうして一緒のクラスになれて嬉しいですね」
「コルネリアス殿下、それにアスカルテ様も。お久しぶりです」
私たちは旧知の仲を示すかのように笑顔で言葉を交わす。そのことに対して周りの人たちの反応は様々だった。驚きを隠せない者、嫌な顔を見せる者、興味深そうに視線を向けてくる者などだ。
私のような平民が王太子と公爵令嬢と親交があるとなれば周りからの反応はあまり良くない。それでも同じクラスメイトとして接する以上は隠し倒すことも難しいだろうし、私としても仲のいい相手に距離を取ることは心苦しい。
もしかしたら二人も同じように思ってくれていて、いっそのこと私たちに親交があることを徐々に広めていった方が良いと考えているのかもしれない。
そのような事を考えていると教師が教室の中へと入ってきた。恐らくは私たちの担当になる人なのだろうが、その顔を見て今日2度目の衝撃的な驚きが私の中を駆け巡る。
「っ……」
「皆さん席についてください。貴方たちAクラスの担当になったカトレア・オルデインです。よろしくお願いしますね」
驚きのあまり息を呑んでいると、カトレアがニコリとした笑みと共に着席を促してきた。
懐かしいローザリンデの姿や声にリーファスを彷彿とさせるコルネリアスの挨拶、そして親友だったカトレアとの再会。これらはラティアーナだった頃の懐かしい縁を思い起こさせるものだ。
様々な想いが胸の中に溢れ出してきて私の瞳に涙が浮かんだ。
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