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第12章 私を見つけるための旅
59 母との別れ
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コルネリアスやアスカルテと別れた私は、影の部隊の一人に案内されて建物の外に出た。そこは何度か通ったことがあるはずの場所だが、領城全体を封鎖用の結界が覆っていて初めて見る場所のように感じた。
「ここからは私が案内を引き継ごう」
「かしこまりました。ブラッド様」
ここまで連れてきてくれた人に代わってブラッドが案内をしてくれるようだ。そのままブラッドの後をついていき領城の敷地の端で待機しているらしい飛空船の元に向かった。
「保護した人たちは全て船の中にいます。お手をどうぞ」
飛空船の入口は地面から少し高い位置にある。背が低い私にとっては簡単に上がれないがブラッドが手を貸してくれた。
「ありがとうございます」
私はお礼を告げるとブラッドの手をとって飛空船の中に乗り込む。
ふと、ラティアーナだった頃も公の場では馬車に乗る時などにエスコートしてくれたことがあったなと懐かしい気分になった。
「皆さんはどうなりますか?」
「陛下や殿下次第でしょうが……王国で保護した後に家族の元へ返すことになるでしょう。もし身寄りがいなくて自立することが難しければ王国の施設で保護するかもしれません」
ブラッドが言う王国の施設というのは教会が持っている修道院のような場所のことだろう。
あの場所は役割が大きく二つあって一つが小さな罪を犯したものが罪を償いながらも生活を送るため、そして一人では生活することが難しい人の保護だ。
衣食住は保証されていて許可さえ取れば外出も可能な施設となっていた。
「こちらです。全員が衰弱していたので治療を受けているところです」
「ありがとうございます」
ブラッドが案内してくれた部屋は、大きなガラス張りのようになっていて中をよく見渡せるようになっていた。どうやら部屋全体に治癒の結界が巡らされているらしい。
私は眠っている母の元に近づき手をそっと握った。
魔力が似ている部分があるから親子だというのは薄っすらと感じることができる。けれど、今日初めて会った彼女のことを母親だと思うのはどうしても難しいらしい。
血の繋がりがある者として大切に思う心も愛しく思う気持ちがないわけではない。しかし、母親というとティアラのことが、どうしても頭に強く残ってしまっていて戸惑いが全くないわけではない。
「……貴方は私のことを知らないだろうし望んでいなかったのかも知れないけど……それでも、私が産まれることはできたのは貴方のおかげだから……」
母娘としての関係を築くことは私としても母としても難しいかもしれない。それでも、せっかく結ばれた縁で助けることができた肉親だ。一緒にいることはできなくても、繋がりを消すことはしたくないし遠くからでも見守っていたい。
握った手に熱を感じながら聞こえていないであろう母に向けて「ありがとう……またね」と小さく囁いたのだった。
その後、母との別れを済ませた私が部屋を出ると廊下で待っていたコルネリアスと視線があった。近くにブラッドの姿が見当たらないことを考えるとブラッドの代わりに待ってくれていたらしい。
今までのように声をかけようとして、ふと思いとどまる。私は既にコルネリアスが第一王子にして王太子であることを知っている。察していただけの今までと違ってきちんとした対応が必要だろうと考えて私は急いでカーテシーをした。
社交界デビューした男爵家の令嬢や商会の富豪などが行う所作と同程度の少し簡単なものだ。
「ここは公の場ではないから畏まらなくていい。敬称も不要だ」
コルネリアスが少し眉を下げて言葉にすると隣にいたアスカルテも大きくうなずく。
「非公式の場では今までのように接してもらえると嬉しいですね」
「わかりました。コルネリアス様、アスカルテ様」
「少し話がある。こちらに来てくれ」
コルネリアスはそう言うと飛空船の奥の方へ歩いていく。向かっている先は飛空船の中でも高い位置。私が知る他の船と造りが似ているのであれば艦橋や艦長室がある区画だ。
部屋の中に入るとコルネリアスは人払いはしてあると告げてくる。私にも近くに座るように進めてきたので入り口近くにある椅子に腰掛けると、コルネリアスやアスカルテと向き合う形になった。
コルネリアスは私と向き合って少しだけ何かを考えるような表情をして、意を決したように口を開く。
「ティアはこれからどうするつもりだ?母親と一緒に過ごしたいと考えているのか?」
「私は……私のために母と過ごすことはできません」
もしもラティアーナだった頃の記憶がなかったのなら今の家族だけを大事にしようしただろう。それこそ一からでも関係を新しく築いて母と一緒に過ごし姉であるミアとも親交を深めようとしたはずだ。
けれど、私はティアでもありラティアーナでもある。過去と現在を分けるのではなく今の私を構成する一部として受け入れる覚悟を決めた。過去だけに縛られるつもりはないが現在だけに縛られるつもりもない。
私は過去も現在も含めた全てを大事にすると決めていた。
「私は、今まで大事にしてきたものたちをいつまでも大切にしたいです。たとえ私の独りよがりだとしても、私が大切だと思う全てを。そのためには、この街に留まるわけにはいかないです」
ラティアーナだった頃から大切だったものを見守るため、ティアとして生きてきて出会ったもののために決めたことだ。
「そうか……」
けれど、コルネリアスはバツが悪そうな顔で返事をした。
「ティアには悪いと思っているが……君に提案というかお願いがある」
「提案ですか?」
そこまで言いづらいことなのだろうかと首を傾げているとコルネリアスは意を決したように口を開いた。
「ティアには来年から王立学園に通ってもらいたい」
「ここからは私が案内を引き継ごう」
「かしこまりました。ブラッド様」
ここまで連れてきてくれた人に代わってブラッドが案内をしてくれるようだ。そのままブラッドの後をついていき領城の敷地の端で待機しているらしい飛空船の元に向かった。
「保護した人たちは全て船の中にいます。お手をどうぞ」
飛空船の入口は地面から少し高い位置にある。背が低い私にとっては簡単に上がれないがブラッドが手を貸してくれた。
「ありがとうございます」
私はお礼を告げるとブラッドの手をとって飛空船の中に乗り込む。
ふと、ラティアーナだった頃も公の場では馬車に乗る時などにエスコートしてくれたことがあったなと懐かしい気分になった。
「皆さんはどうなりますか?」
「陛下や殿下次第でしょうが……王国で保護した後に家族の元へ返すことになるでしょう。もし身寄りがいなくて自立することが難しければ王国の施設で保護するかもしれません」
ブラッドが言う王国の施設というのは教会が持っている修道院のような場所のことだろう。
あの場所は役割が大きく二つあって一つが小さな罪を犯したものが罪を償いながらも生活を送るため、そして一人では生活することが難しい人の保護だ。
衣食住は保証されていて許可さえ取れば外出も可能な施設となっていた。
「こちらです。全員が衰弱していたので治療を受けているところです」
「ありがとうございます」
ブラッドが案内してくれた部屋は、大きなガラス張りのようになっていて中をよく見渡せるようになっていた。どうやら部屋全体に治癒の結界が巡らされているらしい。
私は眠っている母の元に近づき手をそっと握った。
魔力が似ている部分があるから親子だというのは薄っすらと感じることができる。けれど、今日初めて会った彼女のことを母親だと思うのはどうしても難しいらしい。
血の繋がりがある者として大切に思う心も愛しく思う気持ちがないわけではない。しかし、母親というとティアラのことが、どうしても頭に強く残ってしまっていて戸惑いが全くないわけではない。
「……貴方は私のことを知らないだろうし望んでいなかったのかも知れないけど……それでも、私が産まれることはできたのは貴方のおかげだから……」
母娘としての関係を築くことは私としても母としても難しいかもしれない。それでも、せっかく結ばれた縁で助けることができた肉親だ。一緒にいることはできなくても、繋がりを消すことはしたくないし遠くからでも見守っていたい。
握った手に熱を感じながら聞こえていないであろう母に向けて「ありがとう……またね」と小さく囁いたのだった。
その後、母との別れを済ませた私が部屋を出ると廊下で待っていたコルネリアスと視線があった。近くにブラッドの姿が見当たらないことを考えるとブラッドの代わりに待ってくれていたらしい。
今までのように声をかけようとして、ふと思いとどまる。私は既にコルネリアスが第一王子にして王太子であることを知っている。察していただけの今までと違ってきちんとした対応が必要だろうと考えて私は急いでカーテシーをした。
社交界デビューした男爵家の令嬢や商会の富豪などが行う所作と同程度の少し簡単なものだ。
「ここは公の場ではないから畏まらなくていい。敬称も不要だ」
コルネリアスが少し眉を下げて言葉にすると隣にいたアスカルテも大きくうなずく。
「非公式の場では今までのように接してもらえると嬉しいですね」
「わかりました。コルネリアス様、アスカルテ様」
「少し話がある。こちらに来てくれ」
コルネリアスはそう言うと飛空船の奥の方へ歩いていく。向かっている先は飛空船の中でも高い位置。私が知る他の船と造りが似ているのであれば艦橋や艦長室がある区画だ。
部屋の中に入るとコルネリアスは人払いはしてあると告げてくる。私にも近くに座るように進めてきたので入り口近くにある椅子に腰掛けると、コルネリアスやアスカルテと向き合う形になった。
コルネリアスは私と向き合って少しだけ何かを考えるような表情をして、意を決したように口を開く。
「ティアはこれからどうするつもりだ?母親と一緒に過ごしたいと考えているのか?」
「私は……私のために母と過ごすことはできません」
もしもラティアーナだった頃の記憶がなかったのなら今の家族だけを大事にしようしただろう。それこそ一からでも関係を新しく築いて母と一緒に過ごし姉であるミアとも親交を深めようとしたはずだ。
けれど、私はティアでもありラティアーナでもある。過去と現在を分けるのではなく今の私を構成する一部として受け入れる覚悟を決めた。過去だけに縛られるつもりはないが現在だけに縛られるつもりもない。
私は過去も現在も含めた全てを大事にすると決めていた。
「私は、今まで大事にしてきたものたちをいつまでも大切にしたいです。たとえ私の独りよがりだとしても、私が大切だと思う全てを。そのためには、この街に留まるわけにはいかないです」
ラティアーナだった頃から大切だったものを見守るため、ティアとして生きてきて出会ったもののために決めたことだ。
「そうか……」
けれど、コルネリアスはバツが悪そうな顔で返事をした。
「ティアには悪いと思っているが……君に提案というかお願いがある」
「提案ですか?」
そこまで言いづらいことなのだろうかと首を傾げているとコルネリアスは意を決したように口を開いた。
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