王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

57 過去と現在の決着をつけるために

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「あなたが私の父親……」

「血縁だけで言えばそうですね。もちろんお前のことなど認知してませんので私生児……ただの平民がこのような事をして無事に済むとでも思っているのですか?」

「人身売買は重罪……いくら貴族だとしても許されないことのはずです」

 エスペルト王国の王国法で新しい奴隷契約を結ぶことも人身売買をすることも禁じられている。初代国王が禁忌と定めた建国以来守られてきたものの一つだ。

「貴族を裁くことができるのは王族だけ……さらには平民程度の告発を誰が信じるのです?私は民たちに好かれている領主。地位も実績もある私の信頼は揺るがないのですよ」

 ウルケール男爵が言っている内容は真実に近い。
 平民の証言だけでは確たる証拠とはならず、男爵家とも関わりがなかった数人程度の話では見向きもされないだろう。
 だが、ただの平民であっても証拠を揃えるだけであればやり方がないわけではない。

「記録用の魔術具も証拠にはなるのですよ?それに疑いを持たせることができて、この場所を騎士団が調べればあなたは終わりです」

 これが最初に考えていた内容だった。映像を記録する魔術具を持っていなくても、理論を知っている私であれば近しいことを魔術で再現することができる。
 王国の騎士団に見てもらえば信じてもらえなかったとしても調査くらいはしてくれるだろう。
 仮に、この手が失敗したとしても私の正体を知っているカレナの力を借りるつもりだった。近衛騎士を辞していたとしても騎士爵を持っていることには変わりない。一代限りの爵位とはいえ貴族と同等に扱われるからだ。

「それは騎士団に提出できればという話……しかも騎士団がきちんと話を聞いてくれるという前提です。騎士団の中にも伝手はありますし、借りがある者もいるのですよ?」

 ウルケール男爵は遠回しに騎士団の中にも仲間がいることを告げてくる。そのまま何かを話そうと口を開くが手を上げて制止したのは、隣にいたコルネリアスだった。

「なるほど。領地だけではなく騎士団にも協力者がいるのか。貴重な情報を感謝する……おかげで騎士団の中の大掃除ができそうだ」

「……なに?」

 ただの平民である私が領主であるウルケール男爵をどうにかするのは少し面倒だった。けれど、コルネリアスの存在は全てをひっくり返す切り札となる。
 ブラッドに、つまりは王の影に命令を下せるということは、この件が国王の意に沿っていることと同意。そして、公爵家当主を呼び捨てにし、ブラッドが敬意を払って接する相手などエスペルト王国の中でもごく一部の人間だけだ。

「建国祭以来だねウルケール男爵。あの時の約束が果たせなさそうで残念だよ」

 コルネリアスが服の中にしまっていたアクセサリを外すと髪や瞳の色が大きく変わり、輪郭も僅かに変化した。
 そこに現れたのはどことなく若い頃のリーファスとコーネリアの面影をもつ金髪碧眼の少年だった。

「なっ!?こ、コルネリアス殿下がなぜこのような……!?」

「よくできた変装だろう?並の変装用魔術具では髪色と瞳の色を変えるだけだから察しのいい者であれば気付いてしまう。だが、僅かとは言え輪郭の見え方を変え認識阻害とあわさることで相手は初対面だと認識してしまう私が子どもであっても王族だ。もう誤魔化しはできない」

 コルネリアスの正体に気付いたウルケール男爵は顔色を悪くして一歩後ろに下がる。
 対してコルネリアスは剣を抜いて一歩前に出た。

「貴族として責任を果たしてもらう」

「……っふふふ。こ、このような場所に護衛も付けずに第一王子が平民の少女と一緒にいるなどあり得ません!第一王子を語る不届き者としてお前を死罪としますっ!」

 ウルケール男爵は両手に炎の魔術による大きな弾丸を作り出した。下級魔術ではあるものの直径1メートルにも及ぶ超高温の炎の弾丸は、まともに喰らえば骨すら残さず消し去る威力があるだろう。

「……ティア?」

 コルネリアスが迎撃のために魔力を込めようとするが、私は立ち塞がる形で一歩前に出る。

「私にやらせてください」

 母やここに捕らわれていた人たちの仇をとるなんて言い訳をするつもりはない。これは、あくまで私のための戦い。
 過去と現在で決着をつけるための戦いだ。

「仇討ちですか?私の血を引いているとは魔力量が少し多いだけの平民。騎士と魔術士の家系の私に対抗できるはずがないでしょう!?」

 ウルケール男爵は勝ち誇ったような笑みを浮かべて声高々に叫んだ。そのまま両手を翳して二つの魔力弾を一つへと束ねて強化されていく。

「ウルケール男爵の魔術は高威力。まともに受けるどころか掠るだけでも致命傷になるが……」

「大丈夫です」

「そうか……ではコルネリアス・エスペルトとして、第一王子としてティアに命じよう。ウルケール男爵の生死は問わない。全力でうて!」

「ありがとうございます」

 私は金色の炎を右手の拳に纏わせるとウルケール男爵が放った炎の弾丸を殴りつけた。相手の魔力と波長をあわせて金色の炎を内部へと浸透させていく。
 外からも内部からも金の炎が赤い炎を焼き尽くしていった。

「馬鹿な!?その魔力は……」

「これで終わりです」

 私はウルケール男爵が放った炎弾を焼き尽くすと、足元に魔力を炸裂させて肉薄する。
 ウルケール男爵は咄嗟に避けようと後ろへ跳ぶが、それよりも早く私の金色の炎を纏った右手がウルケール男爵の身体の中心を捉えた。
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