王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

56 私が生まれた秘密

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 アスカルテがラーシアと対峙している頃。

「皆さんは怪我などは大丈夫ですか?アスカルテさんが戻ってきたら外に出られますので、もう少しの辛抱ですよ」

「……」

 私は助け出した人たちを集めて怪我などがないか確認していた。
 全員に対して声を掛けてみるが誰からも返事はない。誰の目からも光が消えていて自ら動く様子はなかった。一応、意識もあって声は聞こえているようだが、反応が乏しくて表情が動く気配がない。

 身体が無事だったとしても長い間積み重なった心の傷は相当深いだろう。深い絶望から逃げるために心が死んでいたとしても不思議ではなかった。
 こればかりは私の力ではどうにもすることができない。

 そのことに思わず唇を噛みしめ、なんとも言えない気持ちになる。

『ティア。左から2番目の女性だけど……魔力の質が貴方と近いわ。恐らくは……』

 実体化しないまま様子を見守っていたプレアデスの言葉に、プレアデスが指し示した女性のことを思わず凝視してしまった。
 どこかに捕らわれている可能性を考えなかったわけではない。けれど、私が生まれてから10年近く経っている今でも、ウルケール領に捕らわれたままというのはないだろうと考えていた。

『私の……私とミアのお母様。無事といって良いのかは微妙だけど……生きててくれたんだ』

 周りへの警戒をしながらも彼女の魔力に意識を向けてみると、どこか心地よい感覚があった。
 血の繋がりがあるだけで親子としての実感はない。けれど、今の私の母親が生きてくれていたことは純粋に嬉しいとも感じている。なにより今度こそ助けることができて良かったとも思っていた。
 その事に思わず胸が熱くなる。

「どうした?何か問題があったか?」

「コルネリアスさん……こちらは問題ないです。ただ、アスカルテさんが奥に人の反応を見つけたので助けに行っています」

 私が内心でそのようなことを考えているとコルネリアスが近づいてくる。どうやら、ヘルケをはじめとした襲ってきた連中は全員無力化して魔力糸による拘束を行ったそうだ。

「であれば、先にここにいる人たちを脱出させるか」

 コルネリアスは服の中に入っていた首飾りを取り出すと口元に近づけて何かを呟いた。
 少しすると部屋の入口の方から懐かしい声が聞こえてくる。

「お待たせしました」

「ブラッド。彼女たちはウルケール男爵家に捕らわれていた者たちだ。丁重に保護してほしい」

「お任せください」

 やってきた男性の顔を見て声を聞いて、あまりの懐かしさに心が温かくなる涙が零れそうになった。

 フルネームはブラッド・ノーティア。
 ラティアーナだった頃のノーティア公爵家次期当主にして王の影部隊の副隊長だった男だ。恐らく現在は、ノーティア公爵家当主にして王の影の隊長になっていることだろう。
 友人でありながら影として付き合いもあったブラッドは、この10年に及ぶ月日によって風格が以前よりも増している。けれど、所々に感じるかつての面影も残っていた。

「おや……どうかされましたか?」

 久しぶりに再会した旧友のことをまじまじと見つめているとブラッドが不思議そうに問いかけてくる。
 私は慌てて「なんでもありません」と告げるとブラッドは納得したようだった。

「みんなのことよろしくお願いしますね」

「もちろんです」

 ブラッドはそう返すと他の部隊と人たちと共に囚われていた人たちを地上へと運んでいった。王の影に所属する者は全員が一定以上の魔術や体術を会得していて、あらゆる状況下で任務をこなせる者たちだけだ。
 彼らになら任せておくことができる。

「……そのティアは……あの中にいた一人の女性を気にしているようだが、どうかしたのか?」

 何組かに分けてブラッドたちが囚われた人々を地上に送る最中。
 コルネリアスは私の表情を窺いながら少し迷ったような口調で問いかけてきた。できるだけ表情に出さないようにして母親のことを見ていたのに、よく気付いたものだと思わず感心する。

「……あの人が私の母親みたいなので」

「そうか……」

 コルネリアスは気まずそうな声で相槌を打った。

「気を使わなくて良いですよ。私を産んでくれた両親のことを知りたいと思っていたのでむしろ良かったです」

 記憶がある頃からミタナハル王国の実験施設にいたくらいだ。私の生まれがまともではないである事は、なんとなく察していたし覚悟もしていた。

「ティアは……」

 コルネリアスが何かを言おうと私の名前を読んだ時。

 部屋の奥の方から大きな魔力が吹き荒れるのを感じて思わず魔力の発生源に視線を向ける。

「これは……アスカルテさんの魔力?でも少し違うような……」

「アスカルテは特別な魔力を持っている。恐らく感情が昂って魔力が解放されているのだろう」

 アスカルテの魔力の中に含まれる特別な力。私はその力を知っているような気がした。どこか昔に出会ったことがあるような感覚だ。

「どちらにせよアスカルテの元へ向かった方が良さそうだ。敵がいたとしても負ける事はないだろうが、誰かを守りながら戦うのは大変だろうからな。ブラッドが戻ってきたら……」

「ん?」

 コルネリアスが言葉を止めたと同時に私も気配がした方向へ視線を向けた。コツコツと扉の向こうから歩いてくる音が聞こえ、姿が見えるようになる。どことなく見覚えのある顔に私は思わず息を呑む。

「ウルケール男爵……」

 コルネリアスの言葉に、やなり私が知る男なのだと確信する。

「おや、私の顔を知っているとは意外です。それに、そちらの子は……その魔力は覚えがありますね。確か母胎としてはそれなりだった彼女と私の間に産まれた子でしたか……魔力が多い代わりに身体が弱く利用できなかったので高く売りましたが……再び出会い、敵として相対するとは因果なものですね」

 ウルケール男爵が言った突然の言葉に私の頭は真っ白になった。
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