王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

50 ウルケール領筆頭魔術士からの誘い

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 孤児院に戻ってからは、子供たちにさまざまな事を教える日々を過ごした。

 日中はライゼとの約束どおりに街の外で遭遇する魔物についてや知っていると便利な薬草類、いざという時に食料になる山菜や動物などの知識面に加えて簡単な護身術も教えていく。
 また、護身術を教えるにあたっていくつかの魔術も使ったのだが、私の魔術はライゼの想像以上だったらしい。今週は男爵領の魔術士が来れないこともあって、私が代わりに防御魔術を教えることになった。

 また、夕方以降は冒険者ギルドにいるアルトの元を訪れていた。深域から助け出したレイヤとルイスについては、目を覚ましていて一月もあれば完治するそうだ。
 だが、残りの仲間たちの行方は未だに分からなかった。
 レイヤとルイスに聞いたところアルトが離脱してからすぐに四人全員が戦闘不能に陥ったらしく、成すすべもなく意識を狩られたそうで手掛かりが何もなかった。
 一応冒険者たちからも情報を集めているが二人が身に着けていた装備類なども見つかっておらず何も進展がなかった。

 そのような日々が一週間近く続いた頃。
 この日予定していた子供たちへの授業を終えて自室でゆっくりしていると私の中の繋がりが強くなる感覚があった。

『全部の孤児院の資料を調べたけど……私が見る限りは怪しいところがなかったわ』

 ウルケール男爵領に点在している孤児院を調べてもらっていたプレアデスから念話が届いた。どうやら、一番最後に周った孤児院を調べ終わったタイミングで念話をくれたらしくプレアデスは男爵領の中の辺境にいるようだ。

『ありがと。お願いしていた資料って出せる?』

『少し待って……』

 プレアデスはそう言うと資料を見た記憶を私に送ってくれた。お願いしていた孤児たちの一覧表や孤児院の収支報告書、資産管理表などが順番に浮かび上がってくる。

『これは……思ったよりもきついね』

 念話を使っているので視覚を通さずに脳で直接受け取っているイメージに近いだろう。一度にたくさんの情報が来たせいか目がチカチカして頭痛を感じた。

『それは全部を一度に覚えようとしているからよ』

『流石に紙に書き写すわけにはいかないからね』

 プレアデスに呆れられながらも記憶を辿って一つ一つを覚えていく。プレアデスの言葉の通り、何もおかしいところは無いようだった。預けられた孤児たちは成人近くになるまで孤児院で過ごして独り立ちしていく。稀に別の孤児院に移る者もいるようだが、孤児院全体のバランスをとっているだけで不自然な点はない。
 金の流れにしても収入はほとんどが領主からの補助金と寄付によるもので、支出も食糧などを含めた生活必需品や備品の購入とごくありふれたものだった。

『人の流れもお金の流れも正しそうだし孤児院同士のやり取りもズレがない……か』

 これで不正があるとすれば領主からの補助金や寄付金を誤魔化すくらいしかなさそうだが一週間生活して着服している気配もなかった。
 ここまで証拠が揃っているのなら孤児院はシロと考えて良さそうだ。

『これ以上は両親のことは調べられなさそうだね……と、お客さんかな?』

 部屋の外から私の部屋を目掛けて人が近寄ってくる気配がした。少ししてコンコンとノックする音が聞こえた。

「はい?」

「すみません。少しお時間をいただけませんか?」

 初めて聞く声に誰だろうかと思いつつも扉を開ける。そこに居たのはウルケール男爵家の紋章をつけたローブを着込んだニコニコと笑みを浮かべている男性だった。

「私はヘルケ。ウルケール男爵家に仕える魔術士でございます。ライゼ殿より子どもたちに魔術を教えてくれたと伺いまして少し話でもと……よろしければ私の執務室でお茶でも飲みながらどうでしょうか?」

「大丈夫ですよ。執務室というと……」

「領城の敷地内にある魔術士隊の隊舎です。持ち出せない魔術書などを見ながら話もしたいですからね」

 恐らく、ライゼが言っていた子供たちに魔術を教える先生がヘルケなのだろう。男爵家の紋章を付けていて、領城の中に専用の部屋を賜っていることからも随分と領主からの信頼を得ているように思える。

 私は外出用の簡単な外套を着込むとヘルケと共に孤児院を出て領城へ向かった。
 孤児院から領城までは目に見える距離なため数分とかからずに城の正門に到着する。
 ヘルケは城の門番とも顔パスのようで一言交わすだけで手続きを行うことなく私も入ることができた。

 案内された部屋は領城の敷地内にある魔術士隊の隊舎にある隊長室だった。

「隊長様だったのですね……」

「隊長と言ってもただの平民です。そう畏まらなくてよろしいですよ。どうぞ、こちらに腰掛けてください」

 ヘルケは私を席に案内し、部屋の奥へと向かった。しばらくすると紅茶の茶葉とベルガモットの良い香りが部屋全体へと広がってくる。

「どうぞ。少し濃く出してますが、甘み付けもしているので飲みやすいと思います」

「いただきます」

 ヘルケが渡してくれたカップを片手に持って紅茶を口の中に含んだ。一口飲むと紅茶の香りが口いっぱいに広がって甘さとピリッとしたアクセントが癖になりそうな味だった。

 少ししてくると頭の奥がボーっとするような、ウトウトとするような眠気が襲ってきた。
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