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第12章 私を見つけるための旅
49 夜闇に紛れる黒刃
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魔力を纏った腕には黒光りする短刀が突きつけられていた。衝撃にあわせて後ろに跳んで距離をとったが、腕が痺れそうになるくらいには重い一撃だった。
「いきなり襲ってくるなんて随分と物騒ですね」
油断していたわけではないが不意打ちを受けるのは久方ぶりだ。
そもそも私は常に魔力や人の気配というものを感じ取るようにしていた。
魔力であれば魔力制御が上手い人であれば抑えることで近付くまで感じ取らせなくすることができ、魔力を遮断する外套を纏うことで隠すことができる。
人の気配もその道の達人であれば気配を隠すことは難しくないだろう。
どちらにしても数メートルの範囲、あるいは手が届く距離まで近付かれれば必ず気付く。
だが、目の前の相手は身を隠さずに不意をつく方法をとってきた。
魔力は隠しているかもしれないが一般人と同程度。気配も隠しているわけではなく普通の人といった感じで目立つ箇所はない。
当然、私も目の前の人が歩いてくるのはわかっていたし、視界に捉えてなくても動きはわかっていた。そもそも夜とはいっても多少は人が出歩く時間だ。人が歩いていることもとても自然なことである。
だから、最低限の警戒はしていても一般の人だと思って襲ってこないと考えていた。。
「直前まで悟らせずに間合いに入った相手を瞬時に殺せる腕……ただの賊ではないようですが何者ですか?」
私は杖を取り出しながら黒い短刀を握った男に問いかける。だが返事の代わりなのか短刀による鋭い斬撃がお返しとばかり繰り出された。
魔術による障壁と短刀がぶつかり合い甲高い音が鳴り響く。
お返しとばかりに私は数発の魔力弾を放った。
男は短刀で魔力弾を弾きながら距離をとるが、魔力弾が途切れたタイミングで再び短刀が振るわれる。
首筋を狙った短刀の切先は、私が展開した逆小の魔術障壁と激突した。ガキンと金属同士がぶつかるような音と共に短刀を弾き、逆に私が放った魔力弾が空中で炸裂し2メートルくらいの空間を魔力が包み込む。
男は私の魔力に触れないように大通りとの境まで下がり短剣を構えなおした。
「黒い刀身は太刀筋を夜闇に紛れさせるため……腕は悪くないですが初撃に失敗した時点で引くべきでしょうに。判断が甘くて未熟ですね」
一般人に擬態する技術や攻撃の直前まで相手に悟らせない技、暗闇で有利になる攻撃方法。
どれをとっても唯の賊では持ち合わせていないものだろう。それこそ、腕が立つ経験豊富な暗殺者くらいしか考えられないほどだ。
そこまで仮定すると私が狙われたのは偶然ではなく何か理由があるということになるわけになる。しかもこう着状態になっても引かないとなると、よほど私のことを殺したいらしい。
今日の出来事に関係していると仮定しても不可解な点が多すぎた。
「さて、どうしましょうか……」
仮に敵が他に居たとしても負けるとは思っていない。身体強化が使えない今でも、対人戦闘であるかぎりやりようはいくらでもあるからだ。とはいえ、負けないだけで勝てるとは限らないのが難しい。
そんな時だった。
相手の後方、大通りの方から白く染め上げる雷光が男へと迫りくる。
男も直前で気付いたようだったが避ける間もなかったらしい。僅かに身を捻ったが雷光を避けることができずバチンとした音が鳴り響く。
「……っ!?」
反撃を受けても煽っても無表情だった男の顔が歪み口から息が零れた。
「あら……今のを受けても耐えますか」
「あまり無茶なことはしないで欲しいのだけどね」
突如として現れたのは二人組みの男女だった。最初に魔術を放った凛とした声を持つワンピースを着た髪の長い少女と冒険者のような格好をした剣を携えている少年。
どちらも私の歳と同じくらいか少し上くらいだろうが、一見するとお忍びのお嬢様と護衛の剣士というようにも見える。
少年の腕を確かなようで、剣が煌いた瞬間に男が投擲した大きな針のような物を全て斬り落とされた。
「直に衛兵たちも駆けつけるだろう。大人しく投降してくれないかな?」
流石に衛兵が駆けつけるタイムリミットがある中で、三人を相手にするのは無謀だと感じたのだろう。
男は舌打ちをして表情を歪めると、大きく跳び退いた。屋根の上まで跳びあがり、そのまま街の外へ向けて屋根の上を走り去っていった。
「逃げたか……深追いは辞めておいた方が良さそうだ」
「そうですね。その子も無事のようですし、まずまずだと思います。怪我はありませんか?」
二人は男が去っていった方角を一瞥すると私の元へやってくる。純粋に私のことを心配してくれているようだった。
「おかげさまで。ありがとうございました」
「どういたしまして。夜も遅いですし家まで送りますよ。コルネリアスも構いませんよね?」
「そうだね。その方が安心かな……」
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
ここから孤児院のある場所までは歩いて10分程度の距離だ。短い時間ではあったが二人のことを少し知ることができた。
少女の名前はアスカルテ。
王都にある商家の出身で11歳。魔術を扱えて時折覗かせる貴賓の溢れるところを見ると相当な大きな商会の娘ということもありえそうだ。
そして、もう一人のコルネリアスと呼ばれた少年。アスカルテと同じく11歳で王都出身だそうだ。アスカルテとは幼馴染にして親友同士といった関係らしい。こちらも偶に見せる良い所作などを見るに相当裕福な家の生まれのようだった。
コルネリアスとアスカルテは、家の仕事と旅行を兼ねてこの街へやってきたらしく、10日ほど滞在するそうだ。
「こうして出会えたのも何かの縁だろう。この宿に泊まっているから何かあった時は遠慮なく訪ねてくれ。私たちの名前を出してくれれば通してくれるはずだ」
「最近、街の治安が少し悪くなっているらしいので気をつけてくださいね」
「ありがとうございます。お二人も気をつけてください」
私はコルネリアスから宿の名前が書かれたメモ用紙を受け取り二人と別れたのだった。
「いきなり襲ってくるなんて随分と物騒ですね」
油断していたわけではないが不意打ちを受けるのは久方ぶりだ。
そもそも私は常に魔力や人の気配というものを感じ取るようにしていた。
魔力であれば魔力制御が上手い人であれば抑えることで近付くまで感じ取らせなくすることができ、魔力を遮断する外套を纏うことで隠すことができる。
人の気配もその道の達人であれば気配を隠すことは難しくないだろう。
どちらにしても数メートルの範囲、あるいは手が届く距離まで近付かれれば必ず気付く。
だが、目の前の相手は身を隠さずに不意をつく方法をとってきた。
魔力は隠しているかもしれないが一般人と同程度。気配も隠しているわけではなく普通の人といった感じで目立つ箇所はない。
当然、私も目の前の人が歩いてくるのはわかっていたし、視界に捉えてなくても動きはわかっていた。そもそも夜とはいっても多少は人が出歩く時間だ。人が歩いていることもとても自然なことである。
だから、最低限の警戒はしていても一般の人だと思って襲ってこないと考えていた。。
「直前まで悟らせずに間合いに入った相手を瞬時に殺せる腕……ただの賊ではないようですが何者ですか?」
私は杖を取り出しながら黒い短刀を握った男に問いかける。だが返事の代わりなのか短刀による鋭い斬撃がお返しとばかり繰り出された。
魔術による障壁と短刀がぶつかり合い甲高い音が鳴り響く。
お返しとばかりに私は数発の魔力弾を放った。
男は短刀で魔力弾を弾きながら距離をとるが、魔力弾が途切れたタイミングで再び短刀が振るわれる。
首筋を狙った短刀の切先は、私が展開した逆小の魔術障壁と激突した。ガキンと金属同士がぶつかるような音と共に短刀を弾き、逆に私が放った魔力弾が空中で炸裂し2メートルくらいの空間を魔力が包み込む。
男は私の魔力に触れないように大通りとの境まで下がり短剣を構えなおした。
「黒い刀身は太刀筋を夜闇に紛れさせるため……腕は悪くないですが初撃に失敗した時点で引くべきでしょうに。判断が甘くて未熟ですね」
一般人に擬態する技術や攻撃の直前まで相手に悟らせない技、暗闇で有利になる攻撃方法。
どれをとっても唯の賊では持ち合わせていないものだろう。それこそ、腕が立つ経験豊富な暗殺者くらいしか考えられないほどだ。
そこまで仮定すると私が狙われたのは偶然ではなく何か理由があるということになるわけになる。しかもこう着状態になっても引かないとなると、よほど私のことを殺したいらしい。
今日の出来事に関係していると仮定しても不可解な点が多すぎた。
「さて、どうしましょうか……」
仮に敵が他に居たとしても負けるとは思っていない。身体強化が使えない今でも、対人戦闘であるかぎりやりようはいくらでもあるからだ。とはいえ、負けないだけで勝てるとは限らないのが難しい。
そんな時だった。
相手の後方、大通りの方から白く染め上げる雷光が男へと迫りくる。
男も直前で気付いたようだったが避ける間もなかったらしい。僅かに身を捻ったが雷光を避けることができずバチンとした音が鳴り響く。
「……っ!?」
反撃を受けても煽っても無表情だった男の顔が歪み口から息が零れた。
「あら……今のを受けても耐えますか」
「あまり無茶なことはしないで欲しいのだけどね」
突如として現れたのは二人組みの男女だった。最初に魔術を放った凛とした声を持つワンピースを着た髪の長い少女と冒険者のような格好をした剣を携えている少年。
どちらも私の歳と同じくらいか少し上くらいだろうが、一見するとお忍びのお嬢様と護衛の剣士というようにも見える。
少年の腕を確かなようで、剣が煌いた瞬間に男が投擲した大きな針のような物を全て斬り落とされた。
「直に衛兵たちも駆けつけるだろう。大人しく投降してくれないかな?」
流石に衛兵が駆けつけるタイムリミットがある中で、三人を相手にするのは無謀だと感じたのだろう。
男は舌打ちをして表情を歪めると、大きく跳び退いた。屋根の上まで跳びあがり、そのまま街の外へ向けて屋根の上を走り去っていった。
「逃げたか……深追いは辞めておいた方が良さそうだ」
「そうですね。その子も無事のようですし、まずまずだと思います。怪我はありませんか?」
二人は男が去っていった方角を一瞥すると私の元へやってくる。純粋に私のことを心配してくれているようだった。
「おかげさまで。ありがとうございました」
「どういたしまして。夜も遅いですし家まで送りますよ。コルネリアスも構いませんよね?」
「そうだね。その方が安心かな……」
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
ここから孤児院のある場所までは歩いて10分程度の距離だ。短い時間ではあったが二人のことを少し知ることができた。
少女の名前はアスカルテ。
王都にある商家の出身で11歳。魔術を扱えて時折覗かせる貴賓の溢れるところを見ると相当な大きな商会の娘ということもありえそうだ。
そして、もう一人のコルネリアスと呼ばれた少年。アスカルテと同じく11歳で王都出身だそうだ。アスカルテとは幼馴染にして親友同士といった関係らしい。こちらも偶に見せる良い所作などを見るに相当裕福な家の生まれのようだった。
コルネリアスとアスカルテは、家の仕事と旅行を兼ねてこの街へやってきたらしく、10日ほど滞在するそうだ。
「こうして出会えたのも何かの縁だろう。この宿に泊まっているから何かあった時は遠慮なく訪ねてくれ。私たちの名前を出してくれれば通してくれるはずだ」
「最近、街の治安が少し悪くなっているらしいので気をつけてくださいね」
「ありがとうございます。お二人も気をつけてください」
私はコルネリアスから宿の名前が書かれたメモ用紙を受け取り二人と別れたのだった。
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